……………

あれから丸一日が過ぎた。

変わらずビッキーは顔を合わせな…いや、今日はもはや自室から出て来もしなかった。

まぁ、そうなる予想はなんとなくしていたけど。

ウィンディランに来たばかりの時もだったが、彼女は仲間と同じ場に居辛くなるとすぐに自室にこもってしまう。

やはり少し強く言い過ぎてしまったのだろうか。


右手に持っているボールペンをクルクルと無意識に回し、ジムはそんな事ばかり考えていた。



「えぇ。先月の決裁について、ジョージア州での…」

どっかのお偉い様が難しい話を長々と演説しているが、そんなもの全く耳に入らない。

多分入れてもどうせわからないから、いつも通り右耳から左耳に抜けていくだけなんだろうけど。


本日の定例ミーティングはリッキーとふたりで出席予定だったが、アイツは別件の予定が入ってしまった為急遽NGとなった。

サラやナイジェルにも代わりに出席出来ないか訊いてみたが、どうにも忙しいらしく、

ビッキーももちろん。


…あれ、そういえばボビーが候補から外されてるな。



「という事で、来月の目標は各州動員数…」


ペンが全く進んでいないまま、この日の会議は終了。

この後一週間以内にレポートを提出しないといけない決まりだが、内容は毎回同じようなものばかりだ。

いつもみたいに書いておけば問題はないな。


資料を鞄に詰め込み会場を出ると、空は既に真っ黒になっていた。

夜の8時だし当たり前か。

先日買ったばかりの腕時計を虚ろな目で確認して、ウィンディラン本部へ向かって歩き出した。


足取りはかなり重い。

昨日の出来事が間違いなく影響している。


久しぶりにスーツを着てその上からコートを羽織っているが、肩は下がり足取りは重くため息をつき…

リストラされたサラリーマンのような気分だ。


いくら前向きに考えようと努力しても、昨夜のビッキーの怒った顔を思い出すだけで、気持ちはどんどん憂鬱になっていた。


どうして…アイツはあそこまで怒ったんだろう。

筋金入りの面食いなアイツが、こんな地味な男に興味があるはずなんてない。

いつも粗雑に扱われている俺なら、なおさら恋愛感情など湧くわけが…

そんな男から好きだと言われても、彼女が困るだけに決まっている。

だからなかった事にして欲しいとお願いしただけなのに。

アイツの為に言ってやったのに、なんであんなにキレられないといけないんだ?

あ。なんか思い出したら腹立ってきた。







「ジム、お帰りなさい」


「……ッ」


気がつくと電柱の隣、一直線上に人が立っていた。


本日会議に参加出来なかったリッキーが、いつもみたいに笑ってこちらを見ている。

色々考えていて、全然気づかなかった。

というか、ひとりで頭を抱えている姿を見られて少し恥ずかしい。



「リ…リッキー、どうしたんだ?こんな所まで」

「何言ってるんですか。俺のせいでジムをひとりで会議に参加させる事になったんですよ。予定を早めに切り上げて迎えに来たんです」

「そうなのか。わざわざよかったのに」

「遠慮しないでください。荷物持ちます」


彼は小走りでこちらに近づいてきて、ジムの持っていた鞄を取り上げる。


「全く…。彼氏か、お前は」

「ジムは女じゃないですよ?」

「本気にするな」


大して中身も入っていない鞄を握り、リッキーは隣を歩き始める。

本当、コイツは若いくせによく出来た奴だ。

最近の若者も捨てたものじゃないな(ビッキーにも少しは見習って欲しいものだ…)

まぁ、あんな事があった直後だから、余計に気を遣って来てくれたんだろう。


リッキーの優しさが胸に染みながら、ふたりは暗い夜道を同じスピードで歩く。




「昨日は…悪かったな。嫌な思いさせて」

先に口を開いたのはジムの方だった。

いつ、その話になるか不安でいるより、先に切り出した方が楽だと思ったから。

リッキーもその話題がいずれ出てくる事を予想していたので、特に驚いた表情はしない。


「いいんです。俺やナイジェル達も…嫌だなんて思ってませんから」

「………。」


なんだかその言葉を聞かされるとますます申し訳なくなって、視線を合わせられなくなってしまう。

こうやって関係のない仲間達にも気を遣わせてしまっている自分が不甲斐ない。

ジムは必死に頭の中で上手い返事を探していた。


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