……………

それはリッキーがジムを迎えに行った、全く同じ時間帯だった。

ビッキーも丸一日部屋にこもりっきりだったが、夜になってようやく自室から出てきたらしい。


仲間達も自分の部屋でのんびり過ごす時間の為、メインルームにも誰もおらず上手くここまで抜け出せた。

鉢合わせしたのは、近所の野良猫くらい。

ここは建物の裏側にあるベンチ。

彼女はひとりちょこんとそこに座っていた。

ここなら人通りもほとんどないし、まず誰かに見つかるはずが…



「みっけ」


「…え?」



思ったより100倍早く見つかってしまった。

かくれんぼだったら確実に一番だ。

陰からひょっこり現れたのは、長い金髪を珍しく横で縛っていたサラだった。

彼女はビッキーのいるベンチに近づき、許可もしていないのに勝手に横に座ってくる。


「………。」


居心地が悪くなったのか、ビッキーは椅子の上に足を乗せ、体操座りをする形で顔を隠した。



「せっかく見つからないようにコッソリ出てきたのに…」

「ごめんなさい、全然知らなくて。偶然ね」

「嘘つき。『みっけ』って言ったじゃん」


サラは私の機嫌が悪い事を知っているのに、普段と同じ顔で笑ってる。


「説教しに来たの?」

「どうだろ?」

「なにそれ?」

嫌みったらしく訊いたつもりだったのに、返事はその倍嫌みったらしく返された。

でも彼女の顔は怒ってるとか…そんなんじゃない。

それだけは今のグチャグチャの私にでもわかった。




「ビッキーは、幸せ者だと思うよ」

「……?」



最初は拗ねてやろうとしてたのに。

ずっと下を向いて無視していれば、諦めて帰ると思ったから。

だけど言葉の意味が理解出来なくて、奇しくも自然と瞳がサラの方向を向いてしまった。


「怒らないで聞きなさい。ビッキーはね、まだ子どもなの」

「はぁ!?子ども…って、なにそれ!?」

「いいから、怒らないでって言ってるでしょ。最後まで聞きなさい」


すぐに感情的になる悪い癖が出てしまったが、そこはその言葉でグッと飲み込んだ。


「そりゃ、私だってまだ子どもよ。
私も自分がどの道に進めばいいのかわからない時もたくさんあるし、
我が儘になったりすぐ怒ったり落ち込んだり…数えきれないくらい情けなくて惨めになる経験をしてきた。

自分の中で心の整理がつかなくて、周りに迷惑をかけた事もたくさんある。

多分、どれだけ頑張っても必ずどこかでミスをする。

私もまだ…自慢出来る程立派な大人になんて全然なってないから」

「…サラも…そうなの?」

「当たり前じゃない」
 

彼女は自分よりずっと大人の女性だと認識していたから、その言葉を意外だと感じて、

なんだかちょっとだけ安心感が生まれた。



「でもね、世の中そんな人間がほとんどだと思うの。皆それぞれ良い所があって未熟な部分がいっぱいある。落ち込んで辛い経験を誰もがしてるの」

「何が言いたいの…?」


ここまで聞いても何を読み取ればいいのかわからない。

するとサラは突然、ひとりで凍えていた手をぎゅっと握ってきた。



「なに?」

「ビッキーは私達と同じように未熟でも…貴方にはその穴を必死に埋めようとしてくれてる人がいるじゃない?」

「………っ」


真っ先にアイツの顔が浮かんだ。

誰とは一言も言われてないのに。


「ジムの事考えたでしょ?」

「……ッ…」


動揺したのか、頬を赤らめて前を向き直した。

「考えてない!」なんてバレバレの嘘をつく所は案外可愛い。


「確かにあの人は貴方好みの超イケメンでもないし、性格もごく普通の人だけど、誰よりもビッキーの事を心配して世話を焼いて、必死に支えようとしてくれてる。

それは私より、傍にいた自分が一番わかってるはずよ。

貴方はその19年という短い間で、たったひとりの人を見つけた。

それだけで貴方は、他の人間の何倍も幸せ者なんだと思うな」


「……………。」


ビッキーは瞳を上げない。


「まぁ、ジムも貴方に救われてる部分はたくさんあると思うし…結局どっちもどっちって事よ」

「本当にっ…そう思う?」

「少なくとも私や他のメンバーは全員思ってるわよ」



その言葉を聞いてホッとしたのか、顔を上げてようやくはにかんだ笑顔を見せてくれた。

不安で仕方なかったモヤモヤが少しだけだけど晴れたのかな…

今の若い女子の思考なんて、私にはよく理解出来ないけど(というか言う程歳は離れてないし)
でも、この子にそれだけは伝えたかった。


私にとってアンタの「ジム」という存在が…

どれだけ羨ましいと思ってるかって事。


根は優しい子なのは、皆言わなくても知ってるから。

これ以上自分の棘で自らを傷つけないで欲しい。




だから、お願い。

早く気づいて。


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