……………

「寒い…」

「もう12月だもんな。寒いはずだ」


人通りもない夜の道。

街はすっかりクリスマス一色だというのに、この民家の立ち並ぶ通りは少量のイルミネーションをつけた家がいくつかあるだけで、普段とあまり変わらない。


「でも冬って好きです。なんか、空気が透き通ってるような…そんな感じがして」

「そうか?俺は夏の方が好きだな。冬は寒すぎて動くのが辛いっていうか…」

「おじいちゃんみたいですよ。それに俺もうすぐ誕生日ですし」

「何のアピールだ?」


そんな雑談を挟み、歩きながらリッキーがポツリと訊いてきた。


「ジムは…ビッキーに怒ってるんですか?」

「……。怒ってるか怒ってないかと言われれば…正直、自分でもどちらかわからない」

「わからない?」

「そりゃ腹は立つよ。皆の前であんなに怒鳴られて皿割られて、お前らにも迷惑かけたしな。

でも、自然と嫌いにならないんだ。アイツの事…」


言葉の語尾がだんだんと小さくなっていく。


今まで何十回も数え切れない程ケンカをしたが、一度もアイツの事を嫌いになった事がない。

悔しいはずなのに、自分でもそれがどうしてなのかわからない…


「おかしいのかな…俺…」

「…………。」



額を抑えて必死に堪えている姿が、リッキーには見ていられなかった。

白い息を吐く口元が震えている。

多分ジムは自分がやった事が正しかったのかわからなくて…不安なんだと思う。

不安で仕方ないのに、いつもみたいに周りに気を遣って、世話を焼いて…

ただでさえ、こんな個性のある仲間をまとめるリーダーの仕事は大変なのに。

心も体も心底疲れ切っている先輩の姿を見ていると、なんだかこちらも辛くて息苦しくなってしまう。




「間違ってないと思います」

「…っ?」


リッキーが呟いた言葉に、伏せていた瞼が上がる。



「何が?」

「ジムがビッキーにちゃんと『好き』って自分の口で伝えた事」

「…………。」


自然と足が止まった。

夜の月がふたりの背中を照らして、地面に長い2本の影を伸ばしている。

ジムは言葉を返す事も忘れているらしく、まるで寒さで固まってしまったように動かない。



「凄いって…思います。上手く言葉じゃ言えないですけど。

その…好きだと思う事って、簡単じゃないですか?
子どもにだって出来る事ですよね。

でもそれを相手に言葉で伝える事って、勇気もいるし不安もあるし…思うだけより何百倍も難しいから。

それが出来たジムって、凄いです。俺なんかより全然…」


「…………。」


「それをなかった事にして欲しいなんて、自分の行った成果を全部消してしまう事と一緒なんですよ!
せっかくここまで来たのに…もったいないと思いませんか!?」


ジムの瞬きの動きが数秒だけ早くなった。

目の前の後輩は、何か大切な事を自分に伝えようとしてくれている。



「だから…ここで引き返そうとしたりなんてしないでくださいっ…。せめて最後までやり遂げてください!

俺は…こんな中途半端な所で諦めてしまうジムなんて…見たくない」


彼から背中を強く押され、真っ直ぐに目を見開いていた。


諦めて欲しくない。

10歳以上も歳の離れた後輩に教えられた。

こんな中途半端な形で、あの一言を揉み消そうとしていた自分の考え方に腹が立って。

小さく拳を握り締めた。


もう寒さなんて感じない。




「………っ…」


何を思ったのかリッキーは突然、自分のポケットに手を入れた。


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