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……………

夜8時のウィンディラン本部。

丁度夕食を食べ終わった辺りの時間帯だ。

ナイジェル、サラ、リッキーはメインルームのテーブルを囲う形に座って、食後のコーヒーを啜っていた。


「ビッキーとジム、どうなったかしらね」

「さぁな。まぁ、これだけはふたりの問題だからな」


左手でカップを持ち、コーヒーを啜るナイジェルの姿はなかなか様になっている。

テーブルにそれを置き、「リッキーはどう思う?」とサラから話を振られた。

ケホッケホッと、彼の咳払いから若干焦り気味の様子が窺える。


「俺は…上手くいって欲しいです」

「そんな事皆思ってるに決まってるじゃない(笑)もう。コーヒー苦すぎた?砂糖増やす?」

「あ…いえ、結構です」


本当は増やして欲しかったけど、余裕でブラックコーヒーを飲んでいるふたりに格好悪い所を見せたくなくて、ちょっとだけ無理をしてしまった。

…やはりかなり苦い。


「ジムも良い奴なんだし、影が薄いだけで言う程顔も悪くねんだから、俺は申し分ないと思うけどな」

「そうね。まぁ…あの小娘の身勝手さをあんなに真正面から全力で受け止められるのも、ジム以外いそうにないし」

「わかるなそれ!俺じゃゼッテェ無理だ。3日で鼓膜破れる」

「リッキーなんて一日で全身粉砕骨折よ(笑)」

「待ってください。仮に俺とビッキーが付き合う事になったら、俺はその日に全身の骨が粉々に砕けるんですか?
もう今の時点で鼓膜破れそうです」


からかった反応が面白かったのか、手を口元に当ててクスクス笑うサラ。

そんな彼女を見ながら、リッキーは顔を若干赤らめてコーヒーを啜った。

めっちゃ苦い…


一口飲んで唇を離すと、黒い液体の中にユラユラと映る自分の顔があった。

なんだかその顔もいつもより少し違って見える。



「そういえばジムもコーヒーが好きで、休憩中とかよく飲んでましたよね?」

「そーだな。ここの中じゃ消費量一番ハンパなかったよな、アイツ」

「そうそう。それでさ、興味を持ったビッキーに頼まれて一口飲ませてやったら、予想以上に苦かったのか顔面に噴射されてたわね(笑)」

「アッハハ!あったな、そんな事!ビッキーの奴、自分がやったくせにコーヒーまみれのジムの顔見て大爆笑してさ!結局アイツ自分で顔拭いてたもんな」


色々思い出してみると、ジムとビッキーがふたりでいる時はいつも笑ってた気がする。

ケンカもたくさんやって憎まれ口もしょっちゅう叩いてたけど、それもお互いが素でいてる証拠。

本人達にとって、最も気の許せる関係だったんだと思う。


「俺…なんとなくわかるんです」


リッキーの言葉に、笑っていたふたりの目線がこちらを向いた。


「ビッキー…いつも俺の事を気に入ってくれて好きって言ってくれてたけど、あれは恋愛感情としての好きという意味じゃない。

彼女は、俺の事を一度もそういう風に見た事はないと思います。

だって、俺には怒ったり文句を言わないし…全然素の姿を見せてくれないから」


「…………。」


静かな空間に暖房の音だけが微かに漏れる。

真っ暗の空が映る窓。

そこに白い淡雪が舞い出していた。


リッキーは温かいカップを両手で握る。


「そういう姿を見せるのは、全部ジムの前だけでした。

ケンカして怒らせて仲直りして…またケンカして仲直りして…

端から見て騒がしく大変そうだと思ってたけど、逆にそんなジムを羨ましく思った時もありました。

こんなに素でぶつかり合って、分かり合える理解者がいる事が。

きっと彼女も、俺なんかより何倍もあの人の事を大切に思っているはずです」


「リッキー…」


サラの言葉に彼はもう一度、ジムが大好きだったこのコーヒーを見つめた。



「やっぱり……砂糖…入れてもいいですか?」


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