……………

ウィンディランにやってきたのは、以前サラの見合いの件で知り合った彼女の兄、ジョン・ヒル。

妹同様、家政婦が当たり前のようにいる豪邸で育った筋金入りのお坊ちゃま。

だが常に大金を使い果たして宝石を買い漁ったり自己中心的に振る舞う事は一切なく、どちらかといえば大人しい部類の大らかな人間。

常に眠そうな顔や話し方をしており、良く言えば落ち着いている。

…悪く言えば緊張感がない。


そんな彼が突然やってきたと聞き、メンバーは急いでメインルームに集まって出迎えた。


「コーヒーです」

「…あぁ…ありがとうございます」

ジムから出されたコーヒーへ何も考えずに口を付け、「熱っ」と小さく漏らした。


それにしても彼がこんな所まで相談に来るとは…

いや、あの豪邸に住んでるジョンさんに解決出来ない問題を、俺達なんかが解決する事は出来るのか?

ジムはそんな不安を抱いたが、とりあえずその内容を聞いてみる事にした。



「それで、相談って何ですか?」

「あぁ…。実は僕…来週、5年間付き合っていた恋人と結婚式を挙げるんです…」

「あ、本当ですか!?そういえば前にサラから聞いてたな?おめでとうございます!」


妹のサラは以前、セレブの血を守る為に大企業の御曹司であるロビン・ジャックマンと見合いを行った。

その理由が長男であるジョンが一般女性と結婚をする為、妹である自分がヒル家を継ごうと考えたからである。

見合いもロビンの裏切りにより取り消しとなり、今は子どもふたり、自分の好きな道を進むよう父親から許しを得て現在に至っている。


ジョンは瞼を伏せ気味に話を続けた。


「僕は…ヒル家の掟を破って、お金持ちでもなんでもない普通の女性と結婚する事に決めました。
親戚や周りの人達にもかなり反対されたけど…

…やっぱり僕は、彼女以外…愛する事が出来ないんです。

どれだけ反対されようが非難されようが…僕は彼女と一緒になりたかった…」


「…………。」


ジョンの言葉にジムは真剣な顔つきになり、ビッキーは胸の奥に熱いものを感じて両手をギュウッと握り締めた。


「妹の応援もあり、ようやく僕達は一緒になる事を許されました。

僕達にとってこの結婚式は…とても意味のある重大な儀式となるんです…」


ナイジェル「めでてぇ話じゃねーか。その式も無事に挙げられるみてーだし。何を相談に来たって言うんすか?」

「無事に挙げられそうにないから、こうやってここに来たんです!」


珍しく大きな声を出したジョン。

場の空気が一気に張り詰めた。


「…ッ…すいません…」

「あ…いえ…」


思わず謝った彼に、ジムはナイジェルの代わりに反射的にそう返した。


でも…


無事に式を挙げられそうにない?

一体どうして?と言いたげな全員の視線が一層彼に集中した。



「実は先月…彼女が事故で病院に運ばれたと…突然連絡が入ってきて…」

「事故!?車か何かに撥ねられたんですか?」

「いえ、飛行機と正面衝突したんです」


「「…………」」


「「……………は?」」



目が点、ポカンと口をあける一同。

先程のシリアスな空気が、ジョンの範囲以外一気に吹き飛んだ。



「僕は…急いで彼女が搬送された病院へ行きました…。全治一ヵ月の大怪我。僕は…目の前が…真っ白になってしまいました…」

ジム「ちょっとストップー。ジョンさん、ちょっと待っててね」


ソファーを立った一同は、わけがわからず咄嗟に部屋の隅へ集まった。


ジム「な…何!?凄いシリアスに話してるけど…彼女が飛行機と正面衝突!?笑えばいいの?これは笑えばいいのかな!?」

リッキー「きっとフィアンセが怪我をして式に出られなくなったから、相談に来てるんですよ」

ナイジェル「でも飛行機と正面衝突だぞ?どうすればそんな事故が起きるんだ?何回イメージしても俺の頭の中では、その女、空飛んでるんだけど!」

ジム「なぁ、サラ。君のお兄ちゃんってこんな間抜けな事を言う人だったっけ?」

サラ「んー…確かにね。飛行機とぶつかって一ヵ月で治るなんて、彼女どんだけ丈夫な体してんのよ」

ボビー「ダメだよ、ジム君。間抜けの妹はもちろん間抜けに決まってるじゃないか」

ビッキー「まぁ…彼女さんは自動車にでも撥ねられたと解釈しておこう。ジョンさんもショックで気が動転してるんだよ」


間抜けな妹以外が同時にコクンと頷いてコンタクトを取り、間抜けな兄の座っているソファーへと戻ってきた。

場の空気を読んで、最初に口を開いたのはリーダーのジムだ。


「ハナッ…話はわかりました。つまり、その彼女さんが怪我をして、式に出られなくなって困っているという事ですね?」

「はい。これはヒル家の血を引いている人間、そしてそんな重い荷を背負わせる事になった彼女側の人間…

多くの反対を押し切って決めた結婚なんです。

式に彼女が出られなくなったなんて…両家どちらにもとてもじゃないですが伝える事が出来ません…」

「確かにそうですね」


リッキーが同情の意を込めて頷いた。

ジョンはゆっくりした口調で話を続ける。


「先日、丁度彼女の退院日が結婚式の当日という事を知りました…。

それで今は、彼女が式の会場に来るまでの間…
あたかも彼女がその場に居たかのように、身代わりになって演技をしてくれる人を探しています」

「は!?身代わりって…別人をその彼女に変装させて、代わりに結婚式に出てくれる人を探してると?」

「はい」

当たり前のように頷いたジョン。


おいおい、待て待て、キミキミ。

次は彼に断りを入れる事もなく、メンバーそれぞれが部屋の隅へ集まっ…

…あ!状況をわかっていないサラが、まだソファーに座ってる!


ビッキーが慌てて彼女の腕を引き、第2回秘密会議を始めた。

ジム「おいおいサラ。お前の兄ちゃん頭大丈夫か?喋りながら寝てんじゃねーの?」

サラ「馬鹿言わないで。そんなわけないでしょ」

ジム「そうだよな。きっとこれにも何か違う意味が…」

サラ「お兄ちゃんは目を開けて喋りながら眠れるのよ」

ジム「もうヤダ、この兄妹」

リッキー「落ち着いてください!多分…その…お金持ちの家系で育ったから、こういう映画みたいなシチュエーションが実現出来ると信じてるんですよ。どうしましょうか」

ナイジェル「ったく、んなもん成功するわけねーだろうが。大体、その女の親や親戚も出席すんだろ?ばれない方がおかしいっての」

ビッキー「まぁ、落ち着こうよ!とりあえず、こんな遠い所まで遥々来てくれてるんだし…最後まで話を聞いてあげよ?」


立って目を開けて喋りながら眠れる妹以外が同時にコクンと頷いてコンタクトを取り、眠りながら遠出が出来る兄のソファーへと戻った。


「えっと…その…続きをどうぞ…」

「…あぁ…つまり…僕のフィアンセは退院してからすぐ式場に飛んできます…。

それまでの間でいいので、彼女に変装をして時間稼ぎをしてくれる人を一緒に探して欲しいんです…」


ジム「いやぁ…突然そんな事言われても難しいですよね。
あ、ちなみに確認ですが、その『飛んでくる』とは急いで飛行機か何かに乗ってくるという意味でよろしいですか?」

「いえ、風に乗ってきます」


ナイジェル「ヤベーよ…やっぱり彼女空飛んじゃってるよ。タンポポみてーだな」

ボビー「きっとお花みたいに可愛い彼女って事だよ。じゃなかったら、ハンググライダーみたいなもので来るという事だろう」

リッキー「待ってください。話を聞く限り…彼女、飛行機と同じ高さで飛んでますよね」

ビッキー「まぁ…『風』っていう名前の飛行機に乗って飛んでくると解釈しておこ。
きっとジョンさんもまともな思考能力が働かない程悲しみに暮れてるんだよ」


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