……………


「…エ…エミリーッ……!…綺麗だッ……!」

「……………。」


式の5分前。

自分の姿を見てボロボロと涙を流している男性は

本物のフィアンセの父親。

涙で顔がよく見えていないのか?

鼻水まで垂らして泣いている彼を見て、ジムは若干引いている。


「さぁっ…グスッ……お前の晴れ舞台だっ…!父さんが全力でエスコートするぞぉっ!」

「あ…ありがとう。お父さん…」


何の疑いもないまま、嫁の父親と腕を組む事が出来た。

俺は…そんなに自然に溶け込める程違和感がない顔なのか?

男も女も間違われないなんて。

それはそれで若干傷つく。


バカパカパ〜ン♪

バカパカパ〜ン♪

パカパパン♪パカパパン♪…


そこでついに結婚式でお馴染みの、「結婚行進曲」がラッパの音で始まった。

ジムは緊張で小さく唾を飲む。


パカパパン♪パカパパン♪

徐々に音量が大きくなり…


パカパパ〜ン♪パ〜ン♪ハパパンパン♪


ガチャンッ!!


パカパパ〜ン♪


曲が最高潮に盛り上がった瞬間に、両開きの豪華な扉が大きく開いた!

ふわりと風を受け、乳白色のレースが軽くなびく。


「きゃぁぁっ!」

「わぁぁぁっ!」


目の前にはたくさんの参列者がいて、全員が花嫁と花嫁の父親に拍手を送っている。

花嫁の友人であろう若い女性達、ヒル家の会社と繋がりのありそうな貫禄あるお偉い様、スーツの中年男性達。


そして、長い薔薇色のバージンロードの向こうには


愛しの花婿が立っていた。


普段よりもしっかりと地面に足をつけ、目も眠そうな事には変わりないが、きちんとこちらの姿を目に焼き付けているジョン。

ジムと目が合うと、彼は優しい顔で微笑む。


ちょっとドキッとしてしまった…。(男なのに)


バカパパ〜ン♪パ〜ン♪


履き慣れないヒールで転ばないように丁寧に歩いて、真っ直ぐの道を進む。

徐々に壇上に近づき、ようやくジョンの前まで来た所で、組んでいた腕を離した父親。

ワックスできっちり固めたテカテカの黒髪。

一見イカついヤクザのような風貌だが、目には涙が溜まってそして充血して真っ赤だ。

そんな父親の表情を見つめた後、ジムは花婿であるジョンの隣に立つ。


そして一緒に一段…二段と段差を上がり、客席と向かい合う形でセットされた席に座った。


ふぅ…。

ここまではなんとか順調だな。



「皆様、本日は新郎ヒル家長男ジョンと、新婦バタフライ家長女エミリーの結婚披露宴にご参列頂き、誠にありがとうございます」

先程俺達を迎えに来た司会の男性が話を始めても、誰も疑う事なく席に座り続けている。


おいおい。この中には、その…エミリーとかいう女性の友達も来てるんだろ?

なんで誰ひとり俺が偽者という事に気づかない?

それともエミリーは男と間違われるくらいゴツい顔をした女なのか?





「…日。ジョンはヒルカンパニーの第一人者 スコット・ヒル、そして…」


あ。ジョンさんの生い立ち紹介が始まった。

ちっちゃい頃の写真が出てるけど、寝てるのばっかだな。


「…日。エミリーはバタフライ家 父、ジャル、母、アナとの間に生まれました」





ん?あれ…なんだ、この写真!?

全部、俺の子どもの頃の写真じゃん!

どこから入手……ってか、これじゃ絶対ばれるだろ!

スライド!スライド止めろ、司会者!!


父「こんなにちっ…ちゃかったエミリーが…グスッん…こんなに立派な女性に成長するなんてっ…ぐしゅしゅっ!!」


親父ぃぃっ!!

ほら、よく見ろ!

全然見覚えない写真ばっかだろーがッ!

一枚たりともお前の娘の写真はないぞ!



「ジョンとエミリーは5年前の夏、大学近くのカフェで出会い、趣味が同じ事から意気投合。

1ヵ月後、交際がスタートしました」





俺の顔を合成すんなぁぁぁッ!

気持ち悪いっ!どっからどー見ても、どっちも男だろ!!


「よくふたりでショッピングに行きました。
エミリーは買い物時間が長くて、ジョンはいつも『君の買った物でワシントンにお店が出せるんじゃないかい?』と嫌み混じりのジョークを言っていたそうです」






だから俺の顔を合成すんな!

しかも下手くそか!

合成するならもっときちんと合成しろ!!



参列者「Ahahahaha〜」


お前らも笑うなぁ!!

そんなくだらんジョークより、もっと突っ込む所があるだろうが!!



「ふたりだけで初めてグアム旅行に行った時は、海の美しさに感動して夜まで遊びまくったね」





なんで後ろにボビーの大群がいるんだぁぁッ!!

あの馬鹿達、完全に楽しんで編集してるだろ!

そしてボビーの合成は完璧なのが、またムカつく!!



父親「エッ…エミッ…エミリィィィィッ!

うぐぁぁっ…!…ぐしゅしゅんっ!!

帰って来たかったら、いつでも帰って来いいいッ!」


お前はいつまで泣いてんだぁぁッ!!

いい加減気づけや、馬鹿親父!



司会「それでは次に、神父による誓いの言葉、ふたりの誓いのキスです」


え!?それ今!?

順番おかしいぞ!

つーか、誓いのキスなんて聞いてないし!!

ちょっ…待っ…!!!///



ジョンに腕を握られ、つられて立ち上がるウエディングドレスのジム。

そこへ壇上へヨーロッパ系の大柄な神父が分厚い聖書を持って歩いてきた。


待って!待って!待って!

え、本当にやるの!?

サラ!ナイジェル!誰か助けて…!!



「シンロウ…ジョン。…アナタワ…コノジョセイヲ…ショウガイノツマトシテ…アイスルコトヲ…チカイマスカ?」


「……誓います…」


ジムの腹の底とは裏腹に、神父は勝手にその本を開いてお決まりの台詞をカタコト気味に話し出す。


ヤバいっ…これは…マジだ…


「シンプ、エミリー。…アナタワ…コノダンセイヲ…ショウガイノオットトシテ…アイスルコトヲ…チカイマスカ?」


いや…!チカイマスカ?なんて訊かれても!

俺、男だし!エミリーじゃないし!


「…ちかっ……誓います…」



「デワ…チカイノキスヲ…」


神父の言葉にジョンはゆっくりとジムの肩を抱く。


待って待って待って待って!

本当っ…これだけは勘弁して!!

俺…結婚式では、ちゃんと女としたいんだッ…!



「……………////」



お前もちゃっかり頬を染めてんじゃねーぞッ!!!(怒)

誰のせいでこんな事態になったと思ってんだ、馬鹿兄貴!



ぐにっ!


あれっ…



ガシャァァァァンッ!!!!


突然ジョンの手から肩が離れ、花嫁は地面に向かって一気に倒れ込んだっ!

会場中が何事かと騒然とする。


司会「ちょっ!大丈夫ですか!?」


「…っ……足を…捻って……っ…頭っ…変なとこっ……打った……


ヒールッ…て…怖……(チーン)」


ジョン「エミリーッ!しっかりしてくれ、エミリーッ!!エミリィィィィッ!!!!」










サラ「あら、お色直しの時間だわ。リッキー、ナイジェル。花嫁のエスコートをお願い」

「「承知しました」」


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