……………


まだ空がどんよりしている朝の8時。

今朝は結構冷え込んでるし、こんな早い時間には来てないかな。

2月の寒い季節に似合うオーカーのコートを着込み、白い息を吐いて美空はいつものカフェの入り口に立った。

僕もこの寒さで、こんなに早く目が覚めちゃったしな。

ミヤ君の「おじい病」が移ったのかも。


うぅ…寒い…

早く中に入ろ…



ドアを開けると、カランカランとベルの音が頭に降ってきた。

ふぅ。やっぱり中の方がずっと暖かい。


「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」

「あぁ…えっと…」


木材が主に使用されている店内を見渡すと、部屋の隅に探していた女の子の姿を発見した。

やはりさすがの今日は外のテラスではなく、中で詩を考えているらしい。


「待ち合わせしてるんです」

「そうでしたか。ごゆっくりどうぞ」

「ありがと♪」


店員の女性に手を振り、マフラーを外しながら美空はエマにそっと近づく。

ノートに目を向けている彼女は、男の存在に気づいていない。




ぷにゅっ




「…ハッ!」




突然ほっぺたを触られ、ビックリして椅子から立ち上がってしまったエマ。

目に映ったのは、寒さでまだ鼻が赤い彼の姿だ。


「七音君っ…」

「はははっ!相変わらず君は反応が面白いなぁ」


許可も取らずに、美空は勝手に向かい側の席に座りだした。

もしかして、私の事が心配で見に来てくれたのだろうか。

何も考えてなさそうにのんきに笑う顔を見て、エマはポーッとしたまま頬を片手で抑えた。



『詩は順調?』


コートを脱いで、コーヒーを頼んで…

一旦落ち着いた所で、早速美空は字を書いたメモ帳を見せてきた。


「…………。」


その字を見ると、彼女の表情はみるみる暗くなってくる。

口は開かない。

その後、申し訳なさそうに首を横に振った。


「え?まだ出来てないの?」


証拠に見せてもらったノートは、鉛筆で何度も書いて消した跡がたくさんあったが、結局はまっさらな状態のまま。

消した跡のうっすらと残った文字の数が、彼女の苦悩を物語っているようだった。


「…ごめん…なさい」

「あぁ…」


何も言い返してあげられなかった。

まだ客は僕達以外誰も来ていない店内。

店員から出されたコーヒーに自分の顔が映る。


若い男女は気まずそうに俯き気味になり、部屋の隅に座っていた。


「いつもっ……みたいに…書けないんです…。

緊張…してし……まって…

絶対に良い詩を…書かなきゃ……っ…考えると…

ペンが……思うように…進まない…」


どうやら意識してしまうと、いつものような素直な気持ちで文章を書く事が出来ないらしい。

それはまぁ…趣味で書いていた日記が、突然こんなに大きな話になりゃ無理もないか。


とりあえず、全部ミヤ君のせいにしとこ。


美空はメモ帳を再び手に取ってペンを進める。


『まだ1週間あるし。僕も一緒に考えるから、もう少し粘ろ?』


ひねくれ者だと自覚している自分から、こんな前向きな言葉が出るなんて。

こっぱずかしいし妙に照れ臭くて、自分で自分が気持ち悪くて具合悪くなりそう。

でもこれを読んだ彼女は、嬉しそうに笑ってくれたから…よしとするか。



「あ、そだ」

何かを思い出し、紙に綴る。

『エマちゃんにお土産があるんだ』

「?」

美空は椅子にかけていたコートのポケットを漁り、昨日仲間達から預かった飴玉とコーヒーの無料券を渡した。


「っ…誰から……ですか…?」

『全部僕から』

「券…の裏……クラウディより…って…書いて…ある…」

『ごめん。飴だけ僕から』


- 403 -

*PREV  NEXT#


ページ: