……………


『さぁ、本日も始まりました!
ウィンディラン主催、モトクロスバイクレース!
数々のライバルに差をつけ、一位の座に輝くのは一体どのライダーなのでしょうか!』



「「ワァ―――ッ!!!」」


「「キャ―――ッ!!!」」



アナウンサーの声が響き渡り、観客がどよめくバイクスタンド。

スタートラインに6台のバイクが並び、色とりどりのカラフルな列が出来る。




広い会場。


彼らの姿は観客にわかりやすいように
ジムは青、ボビーは緑など、各自のイメージカラーのスーツを身にまとってレースに挑むのだ。


また、ジャンプに強いリッキーは着地の衝撃に耐えられるようタイヤに補強を、

ターボ能力に長けているナイジェルには、他選手よりも強い力の出る強化エンジンを

それぞれ走り方に個性がある分、バイクにも違う能力が備わっている。


各自が最高のコンディションでレースに臨み、本日の一位を争う。


…もちろん上位に入れば、お給料も他選手より大分違うのでやる気も倍増(笑)


スタートコールが近づくにつれ、選手も観客も緊張感が高まってくる。


ライン一列に並びターボをふかして、仲間でありライバルのそれぞれの姿を最後に確認する。






『それでは、Ready…




GO!!!!』



ブオオオオッ!!!!!!


激しい土煙とエンジン音を轟かせ、6台のバイクが勢いよく飛び出した。




「キャアアアアアアッ!!」

「行けっ!押せっ!」


観客も自身に賭けた選手や、好きな選手を必死に応援する。


急カーブを曲がり、坂を駆け上がって高くジャンプ。

それぞれが巧みなハンドルさばきやテクニックを駆使し、3分程で1周目を突破。

現在、1位にリッキー、そしてその後を追うように2位がジム、3位がサラと続いている。

呼吸さえ忘れそうな集中力で走る中





何故だろう


自分でも全くわからないが…




ふと、昨晩のあるシーンがサラの脳裏に蘇ってきた。





暗い夜空に光る星。

白で統一されたベランダ。

そして隣に立っている



彼の顔…?




なんでっ…


私は今、どうしてこんな事を考えてるの?



レース中なのに、


他の事なんて考える余裕、全然ないはずなのに。



自分でもわからない






ガリッ…













「…ッ………」












それは一瞬の出来事だった。




たったそれだけの奇妙な音。




5秒…いや3秒もなかったと思う。




その緊張の糸が緩んだ、ほんの一瞬で…

















目の前の世界が180度変わった。


















ガシャアアアアアアアンッッ!!!






「「……ッ!!?」」




カーブライン真横の壁。


そこの一部分が、突然激しい音を立て煙を上げ始めたのだ。



周りのライダーはあまりに一瞬の出来事で、スピードがまだ落ちきっていない状態で振り返る。


観客も目が追いついていなかったのか、


先程までお祭りみたいに騒いでいた事がまるで嘘のようにスタンドは静まり返る。




それぞれのバイクが急ブレーキをかけ、灰色の煙が舞うその一点を見つめた。











「………サラッ…?」











リッキーは無意識にヘルメットの中で小さく呟いていた。



緑、オレンジ、青…


様々な色のスーツがあるのに…










黄色が見当たらない。



彼女のイメージカラーの黄色が。


観客が徐々にざわめき始める。





自分の目を疑った。


彼女の乗っていたバイクが大破して、数十メートル先に飛ばされている光景が見えたから。








嘘だ…




彼女がっ…




あの煙の中に…?







「サラッ!!」

「サラッ!」


ジムとビッキーがヘルメットを外し、慌ててバイクを乗り捨てて走り出したが、



俺は立ちすくんだままだった。





足が…震えて動かなかった…






ただ目の前の光景が、あまりに信じられなくて。







「…サラちゃ………ッ…!」


ボビーも急いで走り出したが、


「あれっ…」



何かに気がつき、途中で立ち止まる。


ジムとビッキーは煙を手で払い退け、だんだんと彼女のシルエットが見えるようになってきた。












……痛いッ…


全身が痛くて…動かない…


瞼が開かない。


口が動かない。


呼吸が苦しいッ…









でも…








生きてる。


私は、まだ生きてる。





ピクッ

ピクッ


少しずつだが手の指先が動くようになってきた。


徐々にだが呼吸も楽に。


目を開けなきゃ…


このままじゃ…



少しずつ薄汚れた視界が広がる。


ふたつの影


ジムとビッキーだ。



よかった。


私はちゃんと生きている。





「嘘…だろっ…」



震えるジムの声が聞こえた。


どうして…?


私は生きてるのに、どうしてそんな顔をしてるの?


横のビッキーも口に手を当てて、足がガタガタと震えている。



「ジムッ…ビッキー…私…大丈夫だか……っ…」












え…?







ふと手が、私じゃない誰か別の手と重なった。



ジムとビッキーは目の前に立っている。


それじゃ…これは一体誰のっ……
















「…………。」










やっとの思いで後ろを振り返った瞬間




恐怖で背筋が凍りついた。



壁にぶつかったと思っていた自分の体。



しかし壁と自分との間には、少しだけ距離が空いていた。






私の後ろに…下敷きとなって倒れている男。






ヘルメットの下から噴き出した血が、紫のスーツだけではなく私の背中まで真っ赤に染めていた。









「ナイ………ジェル…?」









彼は下を向いてピクリとも動かない。



嘘でしょ…



なんで貴方がここにいるの!?





「ナイジェルッ…!ねぇっ…ナイジェルッ!!」





自分の体も酷く痛んでいる事なんて忘れて、彼の肩を揺さぶるが



返事はない。




「ナイジェルッ!ナイジェル!ねぇ…起きてッ…!…ナイジェル!!」



サラの悲鳴に似た声が会場に響き渡り、地獄の始まりを告げた。


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