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……………
205…
206…
ナースセンターで教えてもらった番号を頼りに、ナイジェルがいる病室を探す。
慣れない松葉杖を使い、廊下を進み続け
209号室。
ここだ。
間違いない。
この扉の向こうに彼がいる。
ゴクリと一度だけ息を飲み込み、ドアに手をかけた。
スライド式のドアが音を立てずに静かに開く。
「………ッ…」
真っ白のベッドに彼は横たわっていた。
天井を見ていた男の視線は、ゆっくりとドアを開けた人物へ動く。
もう…二度と会えないかと思った。
そんな彼が今、呼吸をして瞬きをして…私の目の前にいる。
言葉にならない思いが込み上げ、胸が熱くなって
「ナイジェルッ…」
「誰…ですか…?」
「えっ…」
彼の口が小さく動いた。
それは…私に言っているのか?
ナイジェルは…生まれてから今日までの事を…何も覚えていません−…
リッキーから聞かされた、あの言葉が頭をよぎる。
「ナイジェル。もう…そういうのはいいから」
ベッドに歩み寄り、顔をきちんと見る。
間違いない。
目も鼻も口も髪も、全てあの人だ。
それなのに…
「…誰?」
「ナイジェル、もうやめて」
「………。」
初めて見るような目で、私の顔を見上げている。
信じたくなかった。
お願いだから、嘘だって言ってよ…
「私が…わからないの?」
「…すみません。わかりません」
聞いた事もない丁寧な口調。
彼は演技をしてはいない。
だけどそれを認めたくなくて、わかっていても自分の中で彼はまだ嘘をついていると信じ込もうとしてしまう。
「サラよ…。…思い出してよ」
「サラ…?」
その単語を頼りに、一生懸命私の事を思い出そうとしてくれる。
あんなにずっと一緒にいたんだもの。
私の存在くらい…思い出してよ…
「すみません。やっぱり…何も思い出せません…」
手が震える。
リッキーの言った通り
彼は私の事を何ひとつ覚えていなかった。
私のせいで…
今まで生きてきた全ての記憶を失ってしまっていた。
もう…この人は…
ナイジェルであって、ナイジェルではない。
それは…彼が死んでしまうのと同じくらい
私にとっては辛い結果。
私の知っているナイジェルは、
もうどこにもいなくなってしまっていた。
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