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……………


あれから数週間後。

ナイジェルの体も徐々に回復し、部屋は違うが私と同じ一般病棟に移ってきたとの知らせを受けた。


仲間達4人もレースを数ヶ月中止にする事を決断。


ほぼ毎日お見舞いに来て、私達の面倒やリハビリに付き合ってくれた。


彼らの私達への接し方は、事故前と何も変わらない。


私の不注意でこんな事故を起こしてしまい、もうあまり顔も合わせられないと考えていたが、

誰も私を責めたり変に慰めたりしなかったから、それが逆に救いだった。



「はい、いちっにっいちっにっ!」


ビッキーがリズムよく手を叩き、それに合わせて足を動かす。


今私に出来る事は、早く体を万全の状態まで回復させ、レースに復帰する事。


ナイジェルのおかげで、あれだけの事故だったのに軽傷で済んだのだ。


それを無駄にするわけにはいかない。





ナイジェルも他男性メンバーの手を借り、リハビリに励んでいた。


何故自分がこんな大怪我を負っているのか、そして周りにいる人間が未だに誰なのかもわからないまま。


恐らく内心、どうして自分がこんな目にと思っているだろうが、体がこんな状態ではどうしようもない。




「よし、今日はこれくらいでいいだろ」


ジムは後ろからナイジェルの肩を軽く叩いた。


「はい…ありがとうございます」

「そんな辛気臭い顔するなよ!俺達、仲間なんだから当たり前だろ!」


その言葉に彼は微妙な顔をして目を逸らす。



「やっぱり…まだ何も思い出せてないのか?」

「…はい」

「そっか。ま、徐々にゆっくり思い出していけばいいさ。俺達はいつまでも待ってるから」


リッキーとボビーも深く頷く。


いつまでも待ってる。


どれだけ俺達が頑張ったり他のライダーを入れたって、やっぱりお前の穴はお前じゃなきゃ埋められないんだ。




「あの…」

「ん?なんだ?」



ナイジェルは椅子に座ったまま、恐る恐る口を開いた。


「サラって女性がいたじゃないですか?俺と同じように怪我した金髪の…」

「あ!サラか!?覚えてるのか?」

「いや、何も覚えてないです。
ただ…怪我をしてたから、俺が怪我をしているのと関係があるのかと思って…」


「………ッ…」



若干、言葉に詰まる3人。

理由を知ったら、もしかしたらナイジェルは彼女の事を恨んでしまうんじゃないかと危惧したから。



「サラがモトクロスレースで事故を起こしたんだ。

それでお前は彼女の下敷きになった」


「……ッ…」



隠してもしょうがない。

ジムは覚悟を決めて、その事実を告げた。



「お前がたまたまその場所にいたのか、サラを庇おうと自分から突っ込んだのかは、俺達にもわからない」


「…………。」


「でも、お前はなんだかんだ言いながら仲間を大切にする奴だったから、俺は後者の方だと思ってるけど。
それにお前、サラの事気に入ってたしなぁ(笑)」


「気に入ってた…?」


その言葉に顔を上げる。


「あぁ。本気かどうかわからなかったが、隙がありゃ口説いてたし。まぁ、毎回のごとくあしらわれてたけどな!それが普通の光景って感じだった」


「…そう…なんですか。……ん?」



その言葉をジムが言った瞬間、一瞬だが後ろに立っている青年の表情が曇った気がした。



「何か思い出したか?」

「いや…何も…」

「そっか。お前がサラに対してそんな事言うなんて…なんか寂しいな」


ジムは冗談半分に笑いながら、ナイジェルをベッドへ戻そうと準備を始める。





ガラガラッ





そこで扉が開き、男性達の視線が集まった。


「やっほ♪来たよー!」


立っていたのは明るいテンションのビッキーと

噂をすればなんたらというか…

彼女に支えられたサラだ。



「お前。ここは病院なんだから、もう少し大人しく喋ろ」

「えぇ、いいじゃん!この部屋ナイジェルしかいないんだし!」


ビッキーはウィンディラン本部じゃなくても、こうやっていつもジムから説教を受けている。


やってきた女性ふたりの姿を、ナイジェルはじっと見つめてみた。



なんだか対照的な人達だな。

このビッキーという女の子は活発的で若いという印象だが、隣のサラという女性は妙に落ち着いている。


俺は、この人を気に入っていたのか…?


確かに美人だけど、口数が少なくてなんとなくドライな印象を受ける。

まだほとんど話した事もないが。


それに俺とは結構歳が離れているようだし、こんなに綺麗だから他に若い恋人がいて当たり前のように感じた。


前の俺は…どうして彼女の事を気に入っていたのだろう。


「どうしたの?」

「…いや、すいません」


見すぎたおかげで変に思われたようだ。


「ところで、ナイジェルは何か思い出した?」

「いや、まだ何も思い出してないみたいだ」

「そっかぁ。残念!」



ビシッ!


「イダッ!」


ビッキーは残念の気持ちを表現したかったのか、わざとジムの後頭部を強く叩く。


「何すんだよ!あぁ…もう…コーヒーこぼれた」

「あ!そうだ!ナイジェル、もう一回頭をポコン!って打てば治るんじゃない?」

「ビッキー、怪我人にもう一度打撲を負わせるつもりですか?ダメですよ」


お馬鹿ちゃんの計画は、リッキーが素早く阻止に入る。

愛しの彼の言う事だからか、すぐに断念した。



ジム「もっと俺達との思い出とか話せば、ふと思い出す事が出来るんじゃないか?」

リッキー「そうですね。ただ今は怪我で頭がいっぱいだと思うので、追々ゆっくり話していきましょう」



皆…俺の記憶を必死に呼び戻そうとしている。


こんなに自身の仕事やプライベートの時間を削って、身の周りの世話をしてくれる人達だ。


これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。


早く事故以前の生活を思い出さなければ…


未だに何も収穫のないナイジェルは、見慣れない外の景色を見つめた。


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