17
……………
ガチャン
「はぁ…」
ナイジェルの部屋の扉を閉め、小さくため息をついた。
これでよかったんだ。
これ以上、彼に辛い思いをさせるわけにはいかない。
元は、私が原因を招いたのだ。
私がなんとかしなければ…
「サラ、何してるんですか?」
男性にしては高めの声。
その声が右耳から先に入ってくる。
「…リッキー?」
一階に行く途中、たまたま通りかかったリッキーはサラの姿を発見したらしい。
いつもみたいに柔らかい笑顔。
歩み寄り、ふと彼女が出てきた部屋の番号を見上げた。
「ナイジェルの部屋…?」
「あぁ、違うの。勘違いしないで。その…トイレの場所を教えてたの」
我ながら下手な嘘だ。
いや、嘘ではない。
私は確かにトイレの場所を教えていた。
「そうなんですか。ナイジェル、何か思い出してましたか?」
「ううん。やっぱりまだ…」
首を横に振ると、リッキーは残念そうに肩を落とした。
今さっき、思い出さなくていいと言ったのだ。
ごめん…
「彼については、もう少し様子を見ましょう。
リッキーも今日は疲れたでしょ?ゆっくり休みな…」
「サラ?目の下にクマが出来てますよ」
「え?」
暗くなり始めた外の景色。
それを利用して窓を鏡代わりにしてみると、確かにうっすらクマが出来ている事が確認出来た。
「疲れてるのは、俺じゃなくて貴方の方みたいですね」
「別にそこまで疲れては…」
「昨日は何時に寝ましたか?」
「……。4時…」
恥ずかしいのか、目を背ける彼女。
なんとなく予想はつくけど…
彼女は寝なかったんじゃなくて、眠れなかったんだと思う。
この部屋の住人の事を考えて。
「悩んでるんですか?」
「悩んでなんてないわよ。ちょっと寝不足なだけ」
「悩んでるから寝不足になるんですよ」
見上げると後輩の彼は再び優しく笑ってくれた。
「今度は俺の番です」
「…っ?」
「力になれるかはわからないけど、俺だって相談に乗る事くらいは出来ますよ」
前にレース会場でふたりきりで話をした時の事を思い出した。
あれを言っているのかな。
「そんな。あの時は的確なアドバイスをしたわけじゃないし、私は何もしてな…」
「あれで俺は満足したんです。
サラが悩んでいるのであれば、俺は前の貴方みたいに満足させてあげたいから、何でも我が儘を言ってください」
ここにも面白い子がいた…
サラは声を出して思わず笑ってしまう。
「ははっ。リッキー、先輩に忠実なのはいいけど、あんまり優しすぎると悪い人に狙われちゃうわよ」
「またそうやって子ども扱いする…。違いますよ、俺は貴方だから言ってるんです」
「うん。わかった、ありがとう。
じゃ、夕飯を食べ終わって一時したら休憩室まで来て。
8時辺りがいいかな…
それまでにちゃんと頭の中を整理しておくから」
彼女は笑ってるけど、頭の中はたくさんの悩みに押し潰されそうになっているに違いない。
周りの事はよく見てあげるのに、自分の事は全く見ていない。
そしてそれを表に出さないから、その事に誰も気づいてないんだ。
だから余計に心配になってしまう。
あんな事故があった後だし。
「リッキー!ナイジェル!サラ!晩ご飯だぞ」
下の階からジムの声が聞こえる。
もう夕食の時間だ。
ナイジェルの部屋の扉「201号室」の表札を見上げ、そしてサラの顔を見た。
「お腹空いたわね。行きましょう」
「はい」
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