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……………


本日の夕食はジムが作ったカレーライスだった。

料理のレパートリーは少ないが、唯一絶対失敗せずに作れるものはカレーだと彼は自慢気に昔言っていた。

肉と野菜を切って、煮込んで、ルウを入れるだけだ。

カレー作りを失敗する人なんているのだろうかと、当時は思っていたけど


あろう事か、ナイジェルは大失敗してたな。



塩加減を間違えたとか言っていたけど…

どこで塩を入れたのだろう?

塩を入れている事自体が間違えている。


あの人らしいと言えばらしい事だが。




リッキーは狭い休憩室の蛍光灯の並んだ天井を見上げた。

そろそろサラと約束をした時間。

歯もちゃんと磨いたし、一応シャワーも浴びた。


あぁ、違う。

いかがわしい事とかは、全然考えてなくて…(汗)

彼女を不快にさせるような事態を防ぐ準備は行ったという事。

前回はバイクの練習後で泥だらけだったし、結構汗もかいていたから。




ガチャン




「あ、リッキー。もう来てたの?早いわね」


携帯を見た丁度その時、サラはやってきた。

ほぼ時間通りだ。

急いで電源を切り、それをポケットに仕舞う。

この時間を誰にも邪魔されたくないから。



「サラ。すみません、忙しいのに」

「それはこっちの台詞。色々話すの今日は私の方なんだから」


彼女は鎖骨の見えるシャツと短いスカートから、ポロシャツとジーンズに着替えていた。



「…何?その顔」

「いえ、なんでもないです…」



彼の隣に座り「疲れたぁ」と漏らしながらサラは背伸びをした。


「やっぱり疲れてるじゃないですか」

「仕事に久しぶり復帰して疲れてるの。入院してる時は暇で仕方なかったけど、いざこの生活に戻るとだるいわね」

「ダメですよ。また怪我なんてしたら。皆心配しますから」


「わかってるわよ」と、またリッキーはほっぺたをつねられた。

サラにはよくこれか、デコ(ハナ)ピンをされる。

…本人には言えないが結構痛い。




「やっぱり、サラが眠れない原因は…ナイジェルにあるんですか?」

「…………。」


サラはそっと彼の頬から手を離す。

突然暗い表情になり、それが図星だとすぐに確信した。


「私のせいで彼をあんな目に遭わせたんだもの。悩まない人間がどこにいんのよ」


サラは雑誌が置いてあるテーブルをじっと見つめる。


「でもね…どうしたらいいかわからないの。

一方的に過去の記憶を取り戻させようとしても、ナイジェルはきっと辛い思いをするだけだし。
でもこのままじゃ、リッキーや周りの皆に迷惑かけるのも見え見え。

私が撒いてしまった種なのに、何も出来ない自分が悔しくて」

「サラ…」


確かにそんな重大な問題を、俺なんかが解決出来るわけもない。

でもこんなに辛そうに頭を抱えている姿を、黙って見過ごせるわけもない。



…俺に何が出来る?



落ち込んでいる好きな女性を目の前に、リッキーは必死に頭の中で考えた。




「…何をして欲しい?」


「…え?」



無意識に出てきた言葉がそれだった。


「何をって…リッキーに?」

「俺は…何をすれば、サラの力になれますか?」


きょとんとしている彼女の顔。

あまりに漠然な質問すぎて、言葉が出なくなってしまったのだろうか。





…フフッ。




その数秒後、突然サラの口元が緩んだ。


「…サラ?」

「あははっ!いきなり何を言い出すかと思えば。
リッキーは今回の事故にはなんにも関係ないの。
だから何も気にする必要なんてない。

貴方も言ってたでしょ?話を聞いてもらえれば満足だって」


「………ッ…」


「私達の力ではどうする事も出来ない。
解決出来るのは、『時間』だけだって結局自分でもわかってるから」



サラ…

そうだ。それは俺が言った言葉…


それがわかった瞬間、途端にリッキーの元気がなくなった。

こうやって、色んな気持ちを咄嗟に隠せない所を見ると、まだ彼は幼いんだなと感じる。


まぁ、それが可愛い所なのだが。



「じゃぁ、ひとつだけ私のお願い聞いてくれる?」

「…なんですか?」

「たまにこうやって私の話し相手になって?
聞いてくれるだけでいいし、的確なアドバイスなんていらないから。忙しかったら断っても構わないし」



彼は数秒黙り、2〜3回瞬きを繰り返す。



「あ、当たり前じゃないですか!聞くに決まってます!
どんなに忙しくても真夜中でも、近くにいなかったら電話でも、絶対…」

「そんなしょっちゅうはしないわよ(笑)」


あまりの反応の良さに、彼女は面白くてお腹を抱えて笑った。

逆にその反応に恥ずかしくて顔が赤くなる。


サラが自分を頼ってくれた事が、何より嬉しくて仕方なかった。

この問題は考えているよりも深刻で、時間をかけて解決しないといけない状況だとはわかっている。

それでも俺達はこの場から逃げてはいけない。


たとえナイジェルの記憶が、この先ずっと戻らなかったとしても…

サラがきっと彼を助けてくれるはず。


そしてその彼女の重荷を俺が一緒に背負う事で、

少しでも事態が良い方向に傾いてくれるんじゃないだろうか。


サラの役に立てる。


俺が、彼女を支えてやる。


絶対に、もうひとりで悩ませたりなんかしない。




「リッキー…」


「はい?」


「ありがとう♪」


「………ッ…////」



頬を赤く染めながら、いつもの癖で笑って誤魔化してしまった。

全く、いつもヘラヘラしちゃって。


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