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……………


その後、ふたりは様々な場所へバイクを走らせた。

後ろから付いてくるナイジェルに合わせて、最初は若干ゆっくりめのスピードで走っていたが、案外余裕だったらしく

途中からはいつもとあまり変わらないスピードで。


よく気分転換に皆で散歩に来ていた河原。

行き慣れたショップ。

フリーマーケットが開催された広場。

怖い目に遭ったテレビ局。

有名歌手を見に行ったライブ会場。


ナイジェルの反応は全て、初めての場所に来る子どもみたいで、

高く見上げて「うわぁ」とか「凄い」とか感嘆詞の感想が多かった気がする。







時刻は空がオレンジ色に変わるあたりの時間。

最後にナイジェルがよく釣りに行っていた海まで案内してあげた。


「ここで休日にナイジェルはよく釣りをしてたわ」

「釣り…ですか?」

「好きだったわよ、釣り。顔に似合わずロマンとか語っててさ」



少しだけ頭を前に出して海の中を覗くと、小さな魚が何匹か泳ぐ姿が見えた。



「どう?」

「いや…覚えてないです」

「そう…。いいのよ、気にしなくて。
そろそろ帰りましょう。この時間になったらすぐ暗くなるから」


サラはナイジェルにヘルメットを渡す。




「サラ」

「何?」

「ひとつ訊きたいんですが、俺達が初めて会った場所ってどこですか?」

「初めて会った場所?」

「はい。必ず行くと思ったんですが、全く触れもしなかったので」


その言葉を聞いた彼女は、自分の黄色のヘルメットを握ってケラケラ笑い出した。


「あはははっ!案内する必要なんてないわよ。だってそれウチの玄関だもの」

「玄関?」

「私が酔っ払ってウィンディランの門の前で寝てた所を貴方達に助けられたの。我ながら情けないスタートだったわ」


当時の事を思い出して、笑いが止まらなくなる彼女。

一通り笑って落ち着いたのか、目尻を指で擦った。




「サラってなんか…イメージと違いますよね」

「え?」


ナイジェルは優しい顔で彼女を見ている。


「最初はもっとクールな人を想像してたんですが、よく笑うし思っていた以上に接しやすいというか…」

「最初は冷たい女に見えた?」

「あ…いや、そういうわけじゃ…」

「いいのよ、慣れてるから」


帰る準備をしながら会話は続く。



「サラに『無理に思い出さなくてもいい』とか『前の生活に戻らなくても構わない』と言われた時は、正直凄く嬉しかったです。

肩の荷が一気に下りてスッキリしたというか…
そう言ってくれたのも貴方だけだったし」


「…………。」



サラのナイジェルを見る顔は、夕陽でオレンジに染まっている。



「本当の事を言うと、記憶を無くしてからの俺はかなり不安定で、毎日どうすればいいのかわからない日が続いていました。

自分が誰なのかわからず、

周りから自分だけ取り残される事も不安だったし。

でも、そんな中でサラがそう言ってくれたり、こうやって忙しい中時間を割いて案内してくれたりして、感謝しています」

「もう…。ナイジェルはそういう事を簡単に言う人じゃないのよ」

「今の俺はそう思ってるんです」



「……………。」









「ありがとうございます。自分にとって貴方は、一番心強い存在です」


「…ッ……ナイジェル…」



とても彼とは思えない、別人のような台詞。


彼女は何か言いたそうな表情をしたが、やはり最後は黙って目を逸らしてしまった。


呼吸が多少乱れている。


「あの…大丈夫ですか?」

「あぁっ…えぇ。大丈夫よ。ごめんなさい」


その後は彼女に促されてナイジェルはバイクに跨がり、ウィンディラン本部へ走り出した。


サラはその間、一度も彼の顔を見なかったという。


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