25
……………
「はぁ」
夕食を済ませ、それぞれが自分の部屋へ戻り出し、サラもそれに合わせて自室に入った。
歯を磨き、シャワーを浴びて、
読みかけていた漫画本に手を伸ばしたが
「…………。」
なんとなく読む気にならない。
ごろんとそのままベッドに横たわり、何も面白くない天井を見上げた。
―自分にとって貴方は、一番心強い存在です――…
見慣れた天井を眺めながら、同じ言葉が何度も頭の中をグルグル回る。
ナイジェルは未だに何も思い出す気配がない。
もしかしたら、一生このままなのかもしれない。
前の彼は調子に乗ったらすぐ肩を抱いてきたり、デタラメな口説き文句ばかり言ってきてウザったかったけど
今はそれがとても懐かしく感じる。
今日のあの言葉は凄く嬉しかった。
でも、今のナイジェルは私の事をなんとも思っていない。
ただの「チームメイト」
もう冗談でも、私の事を「好き」だとは言ってくれない。
私は…欲張りすぎたのだろうか。
瞼を閉じると、その裏側に昔の彼の姿が映って胸が苦しくなった。
コンコン!
「…ッ!」
耳に入ってきたのは、私の部屋の扉を2回ノックする音。
ッ…?
もしかして…
すぐに起き上がり、扉へ急ぐ。
足は自然と早歩きになり、胸の高鳴りを抑えながらノブを掴み…
ガチャンッ!
「ナッ…」
「………?」
目の前にいたのは、予想していた人とは違う人物だった。
「リッキー…?」
「ははっ、ビックリした(笑)誰かも確認しないで出ると危ないですよ」
すぐに扉を開けて出てきた住人に、訪ねてきた本人も思わず吹き出してしまった。
「ご…ごめん…」
「いいんですよ。あ、もしかして、別の人を想像していましたか?」
「いや…別に…」
嘘をつくのが下手だな。
その瞬間少しだけ、彼の眉が下がった事がわかった。
「どうしたの?こんな時間に」
「大した用事じゃないんです。今日、ナイジェルと思い出の場所を回ったらしいですね。楽しかったですか?」
「え、なんで知ってるの?」
「天才をナメないでください(笑)」
意地悪っぽく笑う。
彼も入団当初に比べ、大分ものを言うようになった。
「うん…まぁ、楽しかったかな」
「そうですか。それは良かったです。彼は何か思い出しそうですか?」
「全然。前はあんな性格だったから単純な脳をしてると思ってたけど、やっぱりそう簡単にはいかないみたい」
「はは。一応彼も怪我人だったんですから、もっと優しくしてあげてください」
「…ふふ。そーね」
クスクスと笑い合った後、ふと彼女の目が虚ろになった。
「…サラ?」
「ねぇ…リッキー…」
「なんですか?」
「ナイジェルが…一生このままだったらどうする?」
「…………。」
サラの声はなんとなくだが、絶望の感情を帯びている気がした。
ナイジェルがずっとこのままだったら…
しかも自分の起こした事故のせいで。
そう考えただけで、心ここにあらずといった感じだ。
「…今まで通り接します。
色々気を遣うと、かえってあの人の負担になるだろうし、ゆっくりと関係を築いていくつもりです」
「偉いわね。そんな立派に考えられるなん…」
「今のはサラの相談相手としての、より理想的な模範回答を言っただけです(笑)」
「………。」
視線はリッキーの握った拳に向かい、そして彼の顔を見上げた。
「実際は…どうしたらいいのか、全然わかりません。
前のナイジェルに戻って欲しい以外…俺は何も望んでないから」
「…………。」
「それに…貴方の悩んだり思いつめてる顔はあんまり見たくないんです。
だから、俺はナイジェルの記憶が戻るまで根気よく色々やっていくつもりです」
彼は彼で色々と考えている。
多分、他の仲間達だって皆…
頑張っているのは、辛いのは、私だけじゃない。
「ありがとう、リッキー」
「いえ。すみません、いきなり押しかけてしまって」
「ううん。少し元気出た」
まだ半分無理してるようだけど、それでも彼女は笑顔を見せてくれた。
それが今のリッキーには純粋に嬉しい。
「じゃ、俺は部屋に戻ります。おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
「……サラッ…」
「……?」
「あの…っ…今回の件は確かに貴方の起こしてしまった事故が原因ですが…
でも、だからと言って自分を責めすぎないでください。
貴方は今でも十分…ナイジェルの為に頑張っているんですから」
「リッキー…」
「辛くなったら…俺を頼ってください。貴方の為なら何でもやります」
「…………。」
「それだけです。…おやすみなさい」
リッキーは軽く頭を下げ、そそくさと隣の自分の部屋へと戻って行った。
…ふふ。
変な子。
彼の突然の言葉に一瞬驚いたけど、サラは眉を下げて笑みを見せ、
少しだけ頬を赤く染めて扉を閉めた。
「はぁ…」
リッキーは玄関から部屋の中へ入る事なく、そのまま中腰で座る。
携帯を見ると、時間はもう夜の10時を過ぎている。
「練習いこ…」
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