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綺麗な女の人。


びしょ濡れのビッキーをウィンディラン本部まで送り届けた際、彼女の姿を初めて見ての印象。


慌てて部屋の奥までタオルを取りに行き、まるでお姉さんのように彼女の頭を拭いてあげていた。


何も考えずに、ただ単純に出てきた言葉が「綺麗な女の人」


スレンダーな美人だし、そう思わない男性はあまりいないと思う。



でも…ただそれだけ。



世の中に綺麗な女の人は星の数ほど存在する。


ありがたい事に俺のファンだと言ってくれる女性達がいてくれて、その中にだってそういう人はたくさんいる。



だけどそれは「綺麗」と感じるだけで「好き」という感情ではない。


「綺麗」だから「好き」になるなんて限らないし

俺の周りを取り囲む女性は、ほとんど似たような人が多かった。


いつも媚びを売るような視線を送り、自分の意見を持たない。

ただ周りから可愛く見られたいとか注目されたいとか人と比べたりとか、そんな事ばかり考えている。


正直、俺は昔からそれが苦手。


だから可愛いとか綺麗とは思っても、本気で女性を好きになるという感情が、今まで俺の中には存在しなかった。


そして「女の人とはこういうものなんだ」と、心のどこかで決めつけていたのかもしれない。



サラも、初めは同じような目で見ていた。


ただの「綺麗な女の人」


その考えが少し変わったのが、初めて話をした時だった。





……………




「じゃぁねリッキー!私、貴方の事狙いまくるから!!」


ビッキーという女の子は、先程の雨の時より態度がコロッと別人のように変わった。

なんともパワフルというか…元気な子だ。

毎日ああやって押し潰されてたら、体力が持たないかもしれない(笑)







「わっ」

「…ッ!」


考え事をしながら廊下を歩いていたら、曲がり角で丁度女性とぶつかりそうになった。


「あ、ごめんなさい!ボーっとしてて」

「いいわよ、全然。あ、貴方リッキーね?」




あ…あの女の人だ。



「はい、リッキー・スターンです。よろしくお願いします」

「話すのは初めてね。サラ・ヒルよ。よろしく」


軽く握手をして、サラは少しだけ笑った。

もっとクールな人かと思ったが、結構話してくれるし、案外優しい人なのかもしれな…






「よくトレーニングしてるのね」



「えっ…」



想像もしていない言葉を言われ、それが初めての事で正直戸惑った。

今まで初めて出会った女性はまず、しつこいくらい俺の外見とか自分の話ばかりをしてきていたから。


しかも密かにトレーニングをしている事は、周りに知られるのが嫌いなので他人に話した事は一切ない。


それを初対面の人に突然見抜かれて、動揺が隠せなかった。



「なんで…わかるんですか?」

「私も手の同じ所にマメがよく出来るの。バイクトレーニングしてたらたまに付くんだけど、リッキーは私よりたくさん付いてたから」




たった一度握手をしただけで、それがわかったのか?


なんだか彼女が超能力者に見えた。


よく考えれば、この時から既にサラには俺が密かに特訓をしている事がバレていたんだ。


「あのっ…」

「大丈夫よ。別に人に言いふらしたりしないから」



凄い…

これがプロなのだろうか。


「私、貴方の部屋の隣の202号室だから。わからない事があったら何でも訊いて」

「あ、ありがとうございます…」



サラは一度も俺の容姿についてとか周りの評価とか、そんな話はしなかった。


そんなものじゃなくて、俺が密かに努力している所を見抜いて、そこを褒めてくれた。


そんな事今までにない初めての経験だったから、サラとの会話は深く印象に残っている。



その後も彼女は俺に媚びを売ったり、嫌な顔をする事も全くなかった。


俺が失敗をしたら他の人と同じように叱り、そして慰め、共に成長していった。



それが…俺には嬉しかった。

特別扱いをしない。

他の男性と同じ態度でいてくれる。

決して俺の事に全く関心がないわけではなく、いつも陰から見ててくれて

俺が落ち込んでいると、必ず手を差し伸べてくれる。


前にバレルがこの場所を乗っ取ろうと来た時も、ずっと俺の帰りを待って、崩れかけていた俺を支えてくれた。



彼女は他の女性とは全く違う。


いつの間にかサラを目で追い、無意識に見ている時間が増え…

俺は初めてあの人が好きなんだと気がついた。


それに気づいたら、もう止まらなくて…


年上だろうがなんだろうが、そんな事は全く関係ない。


いつもクールにしてるけど、どこか庶民的で親しみやすい所。


たまに笑うと可愛い所。


すぐにほっぺたをつねってくる所。


そして俺と同じように陰で悩み、見えない所で必死に努力をしている所。


彼女の全てが好き。


好きで…好きでどうしようもない。


俺はあの人を好きになってから、

周りが何も見えなくなってしまっていた。


*****













チャリンと



持っていた小銭が音を立てて落ちた。





「ンッ…あっ…ナイジェッ…」




サラとナイジェルが…


ベランダで抱き合ってキスをしている光景が目に映っていた。


激しくお互いの体を抱き締め合い、彼女は衣服が乱れている。


深く愛し合っている大人の口付け。


夜の風でたなびく薄手のカーテンの向こう側。


メインルームに入った瞬間突きつけられた、ベランダで行われているリアルに、


俺はただ呆然と立ち尽くした。



「…ンッ…ちゅっ……ん…」

「はぐッ…んっ!///…あっ…ナイッ…


………ッ!」


サラの目にメインルームの扉の前に立っているリッキーの姿が見えて

咄嗟にナイジェルの体から手を離した。



「…んっ?」


それに気づき、彼もそちらの方を向く。




「リッキーッ……あの…」


「…………ッ…」



彼の目は何も信じられない目だった。



慌てて服を整え、リッキーの元へ駆け寄ろうとするが…









「すみませんっ…」






ガチャン!





彼は逃げるように部屋を出た。



「リッキー!!リッ…」


追いかけるのが無駄だとわかって、サラはすぐに足を止める。







「「…………。」」






どうしようもない空気。


後ろを振り返る事が出来なかった。




「やっぱり…」


同じく乱れた服を整えながら、ナイジェルがポツリと呟く。



「リッキーも…サラの事が好きだったんですね」

「えっ」

「貴方の話をする時だけ、なんとなく顔つきが変わってたから。もしかしてと思ってた」



サラは俯き、そして何も言えない。


「俺達…元々そういう関係だったんですか?俺もリッキーも…貴方の事が…」


「そんな事っ……いえ、ごめんなさい…」



やはり図星だった。

彼女の表情を見て、だんだんと事情がわかってきた。

前の俺と、あのリッキーという青年はどちらもこの女性に想いを寄せていて、

彼女は俺か彼か…どちらか選べないという状況で立ち止まっていたのか。


ついさっきまであんなに愛し合っていたのに突然気まずくなったのか、目を合わせてくれなくなる。



「本当にごめんなさい。今日は…一旦部屋に戻らせて」

「…………。」


彼女は背を向けたまま、メインルームを出ようとする。





「サラ!」


「……ッ!?」







「俺は…身を引くつもりはないから」



「………ッ…」




ナイジェルの最後の言葉に何も返せず、光と音のない部屋でドアを静かに閉めた。


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