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……………
あの日以来、リッキーは私の顔をまともに見なくなった。
いや、正確に言うと「見れなくなった」が正しいと思う。
しかしやり方は強引だったが、リッキーが私に想いを伝えてくれた事は嬉しかった。
本当は何故彼が私の事をそんなに慕ってくれるのか、今までずっと不思議に感じていた。
彼はバイク界に現れたスーパールーキーと呼ばれる逸材。
いつも女性達から黄色い声を浴びている。
私はというと彼より5つも年上で、可愛げも素っ気もないただの先輩。
彼から見ればオバサンに見えてもおかしくないかもしれない。
一緒に共同生活を送っていて外の他人より近い存在ではあるが、その分私のダメな部分もたくさん見ている。
酒癖が悪い所とか…愛想がない所とか…(汗)
彼の周りには、私より若くて可愛い女性がたくさんいる。
それなのに
ずっとずっと前から、貴方の事を見てきたから…―
彼の言葉を思い出して、鼓動が早くなってしまう私がいる。
「全く…私にどうしろっていうのよ…」
そう独り言を漏らす声と背中は小さく震えていた。
キュッとハンドルを捻ってシャワーの水を止めた。
頬や髪を滴る雫がシャワー室の床へ落ちる。
私は…どうすればいいのかわからない。
ナイジェルもリッキーも、真剣に私を愛してくれている。
なのに私は…そのどちらかを選べずに、いつまでも同じ場所で立ち止まったまま。
いずれ、こういう日が来るかもしれないとは覚悟していた。
でも、私はその答えをいつまでも後回しにして、結局いざその時が来たら自分の中で答えが導き出せない。
ふたりはハッキリ想いを伝えてくれたのに…
私の心の中は、未だに迷いが消えない。
シャワー室を出て、水浸しになった体をバスタオルで拭く。
髪…体…背中…手…足…
「………ッ…」
しかし拭いても拭いても、心はいつまでも湿っぽい。
決められない。
どちらかひとりだけなんて…
こんな事になってしまうなら、今までの関係の方がずっと良かった。
3人並んで話をしたり外へ出かけたり、くだらない事で笑い合ったり。
どちらも比べられないくらい、私にとっては大切な存在だから。
タオルを体に巻いたまま、脱衣所を出てリビングへ歩き
棚から3人で撮った写真を取り出した。
*****
サラ。今日俺と一緒に映画観に行かねーか?
チケットが2枚あんだよ。
ジムを誘おうと思ったけどよ。
ラブストーリーを野郎と観るより、オメーを隣にして観た方がテンション上がんだろ?
あ!ズルいですよ、自分ばっかり!
なら俺もチケット買って一緒に行きます!
ふざけんな。
オメーはひとりで特撮でも観に行け。
私今日、ビッキーとアニメ映画を観に行く約束してるの。
ナイジェルのチケット使ってふたりで行って来なさい。
えっ…
******
あの馬鹿達が、私をこんなに悩ませるなんて。
いつまで経っても成長しなくて、近くにいすぎた
変な仲間達。
あのふたりが…こんなに私を困らせるなんてね。
写真を持っている手は気づいた時には小さく震えていた。
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