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……………
「ナイジェル、リッキー」
「…ッ…」
レースが終了して更衣室へ戻る途中、サラはふたりを呼び止めた。
他のメンバーは空気を読んでそのまま足を止めずに歩き出す。
グレーの長いだけの何もないトンネル。
そこに3本の長い影が伸びていた。
「ごめんなさい。私がいつまでもこんなだから…ふたりに迷惑かけて」
「…………。」
俯いているサラを男達は黙って見ている。
「私には…選べないの。
ナイジェルもリッキーも好きで…好きすぎて
どちらかを捨てる事なんて…
今の私には出来ない」
リッキーの頭の中に、先日の彼女の言葉が蘇っていた。
誰のせいで私がこんなに悩んでると思ってるの…
あれは…そういう意味だったんだ。
彼女はそれくらい、俺の事を大切に思ってくれている。
そうと知って、喜びと同時に無理やり犯そうなんて考えた自分が情けなくなった。
「あれから自分なりに考えたの!
こんなに私を好いてくれている人がいるのに…私も貴方達の事…こんなに愛してるのに。
でもだから、そんな人を悲しませるのは絶対嫌だから…
答えが出なかった。出せなかったの。
本当に、ごめんなさい」
いつもはあっけらかんとしているあのサラが、深々と頭を下げて謝罪をした。
「いいんだ、サラ」
「……ッ…」
口を開いたのはナイジェルの方だった。
「今日はまだひとつのスタートにしかすぎねぇ。
その答えは、お前が今後じっくり考えて決めりゃいいだけの話だからな」
「ナイジェル…」
そこでリッキーも言葉を続けた。
「そうですよ。俺は…サラがそんなに俺の事を想ってくれているとわかっただけで十分です」
「ありがとう、リッキー…」
「それに…この間は本当にすみませんでした。俺、どうかしてたみたいで」
「いいのよ。私もリッキーの気持ち…嬉しかったから」
ナイジェル「…オイ、ふたりで何やったんだ?」
リッキー「あんな事やこんな事ですよ」
「はぁ!!?おい、それこそどーいう意味だ、コルァッ!?怒」
サラ「…何もしてないから」
歯を尖らせ、リッキーの胸ぐらに掴みかかるナイジェル。
「本当かよ」と、軽く舌打ちをして不機嫌そうに眉間にシワを寄せる。
本当に前の彼に戻ってくれたんだな。
「…ん?なんだ?」
「私はやっぱりこっちのだらしない貴方の方が好きだと思って」
「……ッ…///」
柄にもなくドキッとしてしまったのか、ナイジェルは珍しく頬を赤らめてサラから目を逸らした。
「ナイジェル!社長が戻ったぞ!挨拶に来い!」
遠くからジムの声が聞こえた。
どうやらナイジェルの記憶が戻ったと聞いて、社長が直々に車で駆けつけてくれたらしい。
「呼んでるわよ?」
「…ったく。忘れてた事を思い出しただけで大袈裟だな」
頭を無造作に掻き回しながら、彼は「行ってくる」も言わずに歩き出した。
その後ろ姿はまさに「ダメな大人の見本」
「本当に戻ってくれたんですね。ナイジェル」
「えぇ。一時はどうなる事かと思ったけど。まぁ…全ての元凶の私が言える事じゃないけどね」
長いトンネルの中。
残されたリッキーとサラはナイジェルの後ろ姿を見ながら軽く笑い合った。
「いえ、でもこれをきっかけに俺は前に進めた気がします。多分…サラもナイジェル自身も…」
「そうね。今は前より貴方達をずっと近くに感じる事が出来てる。
私にとってリッキーとナイジェルは、愛とか友情とか…全て越えた存在なのかもしれない」
彼女の目線が上がりリッキーと目を合わせた。
「冗談じゃ…ないですよね?」
「何が?」
「俺の事、愛してくれてるって…」
「それは…後輩としてじゃなくてって事?」
「…………。」
緊張感が走ったが、
サラはすぐに笑みを浮かべた。
「もしナイジェルと出会ってなかったら、私は真っ先に貴方と結婚してたかもね」
「…ケッ……!?///」
クールな印象とは程遠い、ニコッと効果音のつくような笑顔を見せ
彼女は長いトンネルの中を歩き出した。
「行くわよ、後輩くん」と促され、呆然としていたリッキーも慌てて先輩の背中を追いかける。
光が差し込む出口は、もうすぐだ。
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