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……………
「皆さん、本日は本当にご迷惑をおかけしました」
「いやいや!七音から呼び出されるのはしょっちゅうだけど、まさか雨宮君から電話がかかってくるなんて思ってなかったよ」
狭めのイベントホール入口カウンター。
そこに集まっているのはお馴染みのウィンディランのメンバーとweather lifeだ。
ジムは何度も謝る雨宮を見て、苦笑いを浮かべながら優しく肩を叩いた。
「本当に緊急だったのよね。七音みたいにくだらない用事じゃないってわかってたから全然構わないわよ」
美空「ちょっ!何それ、サラさん!」
「まぁまぁ。無事にライブも終わった事だし、一安心だろ?」
ジムがとりあえずその場をまとめる。
今日がバイクレースがない日で助かった。
理事長からのかったるいレポートをメインルームでまとめていた途中、突然ジムの携帯に電話がかかってきたのだ。
その相手側の名前はいつもの美空ではなく「雨宮」と表示されており、何事かと慌てて電話を取ったのが始まり。
「急遽来てほしい」との内容に急いで駆けつけたというわけだ。
そこで詳しく話を聞いたリッキーに疑問が湧いたのか口を開く。
「でも、そんなに人手が足りなかったんですか?
weather lifeって有名バンドだから、スタッフさんはたくさんいるイメージがあったんですが」
「普段はそうなのですが、今回は小さな会場という事もありスタッフの数も最小限に抑えていたので。こちらのミスです。
とりあえず既に配置についていた女性と、余っていたスタッフというか…関係者に任せていたのですが…」
「…おやおやおや!?」
そこでボビーが目を輝かせて美空の後ろを見ると、そこにはweather lifeとはまた別の人物がいる。
紫の髪をふたつに結った、小柄な見慣れない女の子。
怖がっているのか、背中からちょこんと顔だけを覗かせていた。
「おっ。可愛いお嬢ちゃんがいるじゃねーか。やるなぁ、七音」
「でしょー?可愛いでしょ?僕の彼女!」
「違います。ナイジェルさん」
そこで雨宮の鋭い突っ込みが入る。
「紹介します。僕達weather lifeに新しく作詞担当として加わったエマ・ガーネットです」
「へぇ、新しい仲間か!すげー可愛いお仲間じゃねぇか。どう?おじさんと一緒にどっか…」
ナイジェルがグイッと彼女に近づいた瞬間…
「ヒャァッ!」
「イダダダッ!」
エマという女の子は再び美空の後ろに隠れ、オッサンはいつものごとくサラに後ろ髪を引っ張られた。
それにしてもなんだか不思議なリアクションをしたエマ。
「この子、人が怖いの?」
「そこまではないのですが、男性が少し…いや、相当苦手なのです。彼女を臨時で受付に立たせていたのですが、やはり仕事にならず…」
ビッキーは「へぇ、信じらんなーい」と声を漏らす。
さすが無類の男好きの言う事は違う。
「あまっ……あまみや…くん…」
「どうした?」
美空の後ろに隠れながら、か細い声を出す彼女。
「今日…はっ……ごめんな…さい…」
「あぁ…えっと…」
彼は携帯電話を取り出し、何をするかと思えば突然メールを打ち出した。
「おいっ、彼女が喋ってるのに携帯って…」
「違います。これは彼女とのコミュニケーション方法なんです」
「コミュニケーション…?」
ジムが首を傾げる中、雨宮が文字を打ち続けていると、そこは代わりに雪之原が答えてくれた。
「エマっちはねぇ、耳が聞こえないんだよぉ。だから言葉を伝える時はこうやって携帯とか紙に文字を入れたり書いたりして見せてあげるの」
「耳が聞こえない?あの…この間リリースされた曲みたいですね」
「そうっすよ、リッキーさん!サイレントレディは彼女がモデルの歌なんっす」
「え、マジで!?私、あの歌大好きー!」
『仕方がない。無理とわかっていて押し付けた我々にも十分責任がある』
許しているのかそうじゃないのか、真面目すぎてよくわからない文章を雨宮から見せられた。
パタンと携帯を閉じ、そして彼はジム達の方向へ体の向きを戻す。
「会話を中断させてしまい失礼しました。
今回は本当にありがとうございました。
このお礼は後日改めてさせて頂きますので。
皆さんはもう戻られても結構で…」
「あれ〜?もう帰らせちゃうの??」
突然後ろから口を挟んできたのは、エマの前に立っている生意気な口調の美空だ。
「何を言ってるんだ、七音」
「ミヤ君の事だからてっきり『彼女の男性恐怖症を治したいんだ。このままでは今後の仕事に影響が出続ける可能性がある。それは我々weatherlifeにとっても大きな問題です。なんとか手を貸して頂けないでしょうか』とか言うと思ったのに!」
日晴「ちょ、美空さん!ここまで手伝ってもらっておいて、それはさすがに図々しいっすよ」
雨宮「………。」
日晴「…雨宮さん?」
雨宮「ウチの美空がまた失礼な事を言いました、すみません。皆さんは戻られて大丈夫ですので」
ジム「今、ちょっと考えたよね?今、ほんのちょっとだけ考えたよね、絶対」
「あああああッ!」
「次から次になんだ!?」
次に声を上げて叫んだのは、男(ただしイケメンに限る)が大好きなビッキーだ。
何を思いついたのか、周りをキョロッと見渡し…
「ねぇ、サラ!耳貸して!」
「え?」
彼女は背の高いサラを呼び出して、耳に手を当ててヒソヒソ話を始める。
「…そんな話したっけ?」
「したじゃーん!ほらこの間、映画観に行った時!」
「覚えてない」
「んもっ!じゃぁ、覚えてなくていいから!それでねそれでね!」
再び話を続ける。
「どう!?」
「…面白そう」
「よし!じゃ、決定!」
「何が?」という表情で見ている男性陣をよそに、ビッキーはひとりガッツポーズを決め込む。
「雨宮君!私達がエマちゃんの男性恐怖症を治してあげるよ!」
「えっ、本当ですか!?」
「任せなさい!ただ、ちょーっとだけ他の天気メンバーも借りるからね!雨宮君はエマちゃんとその辺の公園で時間を潰しておいて!
夜にまた迎えに来るから!」
「こ、公園には行きませんが…。わかりました」
美空「ビッキーちゃん何が始まんの!?楽しみ楽しみ!」
一体、この人は何を始めようとしているのだろうか。
何もわからないままエマとふたりだけ残され、他のメンバー4人はウィンディランの6人と共にワゴンに乗せられた。
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