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さてと。

ともかく、脱落者の続出で余っている男性がNIGEL、AMAMIYA、CLOUDYの3人のみとなった。


「んー…エマちゃんも同じ事の繰り返しだし、ここでそろそろ秘密兵器でも取り出すか」

サラは徐に携帯電話を取り出し、誰かにメールを始めた。


日晴「秘密兵器?俺達聞いてないっすよ?」

ジム「あのサラの事だ。何かとんでもない秘策を考えてるに違いない」



「サラさん、あの…もういいんじゃないでしょうか?」

メールを打っているサラに話しかけてきたのは眼鏡ホストの雨宮だ。

テーブルを挟んで向かい側に座っている彼を、顔を下げたまま彼女は覗く。


「あら、随分不安そうな顔ね。雨宮君」

「確かにエマの男性恐怖症を治してもらいたいと思ったのは事実です。
しかし、やはりどれだけ男性に触れ合わせても変わる気配もありませんし、これでは時間の無駄です。
やはりすぐに克服するには無理があるので、時間をかけて…」

「相変わらず堅苦しいわね(笑)大丈夫よ。心配しなくてもいざとなったら私達が守ってあげるから」

「そういう問題ではありません。僕が言いたいのは、このまま彼女に無理難題を押し付けるのは可哀想だと…」

「貴方にはエマちゃんが変わろうとしている姿が見えないの?」

「……ッ…」


メールを打つ指を止めて言われた台詞に、ふと雨宮はエマの方向を見る。



「ふぅ…ふぅ…」


こちら側の会話は聞こえておらず、

大きく深呼吸をし、3回以上手の平に「人」という字を書いては飲み込むおまじないを繰り返している。
















今日…はっ……ごめんな…さい…


あま…みやくん…怒ってます…か…?…

















変わりたい。


もう仲間達にあんな迷惑はかけたくない。


そう言っているように見える。


どうして…そこまで頑張ろうとするのか。




「…………。」

「彼女は彼女なりに前に進もうとしてる。
気持ちもわかるけど、もう少しだけ様子を見てあげたら?可愛い子には何とかって言うでしょ?」



雨宮は黙り込み、そして小さく呟いた。


「旅をさせるんですか」

「さすが優等生」

「………。わかりました。もう少し様子を見ましょう」


若干腑に落ちないものの大人しくソファーに座り直す雨宮を見て、サラはクスリと笑った。


「ふふ。気持ちはわからなくもないけどね。
それにしても貴方、他のメンバーより随分彼女の事を心配してるみたいじゃない?惚れてるの?」

「えっ…ち、違います!///突然何を言い出すんですか!?
彼女は一応weather lifeの一員です!メンバーを気遣うのは仲間として当ぜ…」

「冗談よ(笑)そんなにムキにならなくてもいいのに」

「………ッ…///」



パタンと携帯を閉じ、頬が赤くなっている雨宮を見てクスクスと笑う彼女。

見ていて反応が素直で面白い。






「おさまったのか?」

「何の話をしてたんでしょう」

部屋隅の脱落ルームから覗いていた輩がコソコソと話をしている。

ソファーが随分と騒がしかったが、ようやくおさまったようだ。

そこで壁に寄りかかって座っていた雪之原が、ふわっと手を上げた。



「サラさぁん。ところでさっき誰にメールしてたのぉ?」

「さっき言ってた秘密兵器よ。それはね…」







ガチャンッ!!





「…ッ…!?」

「…なっ!」

「……ゲッ…!」

「誰ぇ?」



ノックもせず、荒々しく扉を開けた客がそこにはいた。

男が黙って視線を右に左に動かすと、ほぼ全員が愕然とした顔でこちらを見ている様子が窺える。



「あ!バレルじゃん!」


ニコッと笑ったのはリッキーだけだった。


目の下に深い傷跡。

派手な蛇のピアス。

冷酷な冷めた表情。


そう。

そこに立っていたのは、今まで見てきた男の中で最も人相が悪く、普通の人でもビビって声をかけられない

泣く子もますます泣き出す、バレル・ヒューストンだった。

もちろん彼の姿を見たエマは、驚きと恐怖で体が凍りついてしまっている。

笑顔で手を振っているリッキーには目もくれず、バレルはサラの前まで歩いてきた。


「タダで飯が食えんのは…嘘じゃねぇだろーな?」



全員((ええええっ!!?君、まさかそれで来たの!?))



「嘘じゃないわよ。ここに並んでる料理、全部貴方が食べちゃっても構わないから」

「…………。」


不穏な空気が張り詰める。

ついさっきまでホストクラブ感全開だったのに、一瞬にしてお通夜のような空気になってしまった。


「ただし条件があるわ。あのソファーの真ん中にいるおさげの女の子。あの子の隣に座る事。
別に喋らなくていいから。ただそれだけ」

「女?」

「……ッ…」


視線を向けられただけで、エマは気を失いそうだ。


「フン」

「OKね。じゃぁ…」



「OKなわけないでしょうがッ!!」


もちろん首を突っ込んできたのは雨宮だ。


「先程と話が違うじゃないですか!?いくらなんでもこれは彼女には無理です!

…いや、お兄さん。貴方が悪いわけではないのですよ!

彼女は普通の男性と一緒にいる事すら『怖い』と感じるんです!
このような今にも人を殺しそうな人相の悪い男を目の前にしたら、もうそれどころの状態ではなくなるかもしれません!

いや、お兄さん。貴方が悪いわけではないんですよ!!」

バレル「やんのか、この眼鏡…」


サラはクスッと笑って雨宮を見る。

「たまには荒治療も悪くないんじゃない?その隣にはナイジェルを置いて…
うん、思春期の女の子には良い刺激になるわ」

「なりませんよ、こんなの!もう治療が荒いとかいう次元ではありません!生きるか死ぬかの問題です!」



サラと雨宮が言い合いをする中、腹が減ったのかバレルは勝手にソファーの真ん中へ歩き出した。

そして言われた通り、エマの隣に座って目の前のチキンを手に取る。


「………ッ…あッ…く…」

「何見てんだ…貴様…」

「………ッ…そのっ…(涙)」

「…アァ?ゞ」

「ヒャァッ!」


ポスンッ!

反対側へ倒れ込むと、グレーベストの胸の中へ。


ナイジェル「え?何?エマちゃん意外と大胆だなぁ。
オジサンが可愛がってやるから、このままふたりでどっか行こうか?」


「イヤァァァァァァッ!!!」


泣き叫び、ソファーから離れると勢いづいて床へ跪いた。


「大丈夫!?エマちゃん!」

「キャァッ!」


ジムが慌てて駆け寄るが、またも悲鳴をあげて外へ飛び出してしまった。


ビッキー「J、何やってるの!?」

「『J』って何だ!?松潤みたいでちょっと嬉しいけど!」

日晴「そんな事よりもう外は真っ暗っすよ!ここで見失ったらヤバいって!」

「クッ!」


雨宮が慌てて外へ飛び出し、それに合わせて他のメンバーも次々部屋を出る。



雨宮「エマッ!どこだ!?」

ジム「呼んでも聞こえないんだろ!?携帯とかは!?」

雪之原「彼女のバッグの中だよぉ。肝心のそれは部屋に置いたままだけど」

リッキー「女の子の足なのでまだ遠くへは行っていないはずです!手分けして探しましょう!」


男達は一斉に散らば…




「その必要はないわよ」

「…ッ…」


玄関から聞こえてきたサラの声に全員が振り返る。


「サラさん!この状況まできて、まだそんな悠長な事を…」

「私がこうなるかもしれないって事態を予測してなかったと思う?」

「えっ」


意味深な言葉。

その直後、暗闇から何者かがこちらへ向かって歩いてくる影が見えた。


カサッ

カサッ

カサッ




「ちょ…マジ待たせすぎなんだけどぉ!」

「あれっ…」


女装したボビーが…エマの肩を抱いてこちらまで歩いて来たのだ。

weather lifeのメンバー、あのクラウディでさえも状況が掴めずに目をパチクリさせている。


日晴「ボビーさんっ…なんで女の人の格好を?(というか、その胸は…)」

「えぇ〜?なにこのチャラ男〜?マジ誰系?」


「ボッ…ボビエ!?」


ジムが思わず声をあげた。

ボビエ…?

じゃぁ、この人はボビーさんじゃない?


大きな白い月がようやく雲の間から顔を覗かせて光が入る。

サラは男達を押し退け、謎の巨乳ギャルの隣まで歩いた。


「私がメールを送ったのはひとりじゃないの。紹介するわ。ボビーの妹、ボビエちゃん」

「ちょっ!アンタに『ボビエちゃん』とか言われたくないんですけどー!」

「ブサ可愛いでしょ?」

「はぁ!?何?アンタだって相変わらずケバケバしい顔してぇ!マジ化粧濃い系!マジョリカ超絶激おこヒステリック!!」



ボ…ボビーさんの妹!?

似てる似てないとかいう次元ではない。

顔の作りが全く一緒だ。

まさにボビーさんの頭に馬のしっぽがついて、胸に特大ボールを入れたような…

彼にこんな激似な妹がいるなんて聞いた事もなかった。


「サ…サラさん。でもどうしてこの人を?」

「さすがにバレルが近くにいれば怖くて突然逃げちゃう可能性があるって事くらい、誰でも予想出来るでしょ。
だからそれに備えて、確実に捕まえられる人を呼んでおいたまでよ」

「あぁそっかぁ。女の人だし、何よりボビーさんと顔が瓜二つって事は確実に怖がらない確信がさっきの件であったしねぇ」


何事もなかったかのように、雪之原は腰に手をあててヘラッと笑った。

それでもやはりまだ納得がいっていないのは、最初に飛び出した雨宮だ。


「しかし…そこまで危険を犯してまでこんな事をする必要がどこにあったのでしょうか。僕にはただ、彼女を怖い目に遭わせたとしか思えません」

「それはどうかしらね」

「…はい?」



サラの隣に立っていたビッキーは、デコった派手携帯に文字を打ち込んだ。


『よく頑張ったね★大丈夫?』

「…っ……」


小さくコクリと頷いた小柄な彼女。


『よかった!じゃぁもう今日はお開きにしようか!』

「………。」


もう一度頷きボビエの手を離れ、ゆっくりと雨宮達の前に立つ。


「エマ…」

「…帰…ろ。…一緒に…」

「……ッ…」



仲間に入って初めて。彼女からの誘いの言葉。

極力一定の距離を取っていた美空以外の他のメンバーに、初めて積極的に声をかけたのだ。

まだ少し声は震えているけど、記念すべき第一声。


今までした事のない色んな経験を今日一日だけで目まぐるしい程たくさん体験した。

正直…怖い事の連続だった。


初めて男の人の接客をした。

失敗をした。

こうやって私の為にこの場所が用意されて、男の人と目を合わせたり会話を一年分くらい経験した。

最後は怖くて我慢が出来ずに逃げてしまったけれど…

この人達がすぐに心配して追いかけて来てくれた所も全部見せてもらえた。


本当にただの思い込みかもしれないけど、

そんな経験を繰り返して、自分は少しだけ強くなれた気がする。

変わらなきゃって思えば思う程怖くて足が竦んじゃっていたけど、世の中にはもっと凄い事がたくさんあるんだ。

家とカフェ、学校を往復していただけの私の世界なんて、この地球上の本当に極わずか。ゴマ粒くらい。


この仲間達は、私の敵じゃない。

どれだけ失敗しても…最後は許してくれる。

せめてこの5人にだけは、恩返しをしなきゃって思えた。

今は…とても。



『無理はしなくていい』


雨宮が見せた携帯にもエマは素直に首を横に振った。


今なら、怖くないよ。

そう言いたかった。



「少しだけ強くなれたのかなぁ、エマっちも」

「そうっすね。なんかちょっと前より顔が凛々しくなったような感じがするっす!」


雪之原や日晴も笑っている。


そうか…

君は僕達が思っている程、弱い人間じゃなかったんだな。


クラウディがそれぞれの荷物、気を失ったままの美空を担いでいる事を確認し、雨宮はもう一度携帯を打ち込んだ。



『では帰ろう。暗いから我々が責任を持って君を自宅まで送り届ける』

「はいっ…」



エマは本日2度目の笑顔を雨宮に見せてくれた。



「じゃ、ジムさん達!今日は楽しかったっす!ありがとうございました!」

「僕も凄く楽しかったぁ。今度はウチでやりましょ〜。ホストクラブぅ」


日晴と雪之原がバイバイと手を振って歩き出す。


クラウディは美空を肩に担いだまま、ポケットから財布を取り出し、適当な金額をジムに渡した。


「無理やり連れて来たんだし、お金はいらない」と伝えるも、担いでいる美空を指差しニコリと微笑む。

全ての元凶であるコイツに後から請求するつもりなのか。

優しそうに見えて、案外したたかでちゃっかりしているんだ。

そして最後に雨宮はサラの方向を見た。


「今日は色々反発してすみません」

「いいのよ。私も楽しくて少しやりすぎた所もあるし」

「全くです。後日こちらのスーツはクリーニングに出した後返却します」

「あげるわよ、それ」

「こんな目に優しくない色のスーツ、僕の日常生活では今後二度と着る事はありません」

「あらそう?似合ってるのに」


雨宮の赤色のスーツを見て残念と眉を下げる。

お互い笑い合って、サラは雨宮の肩を2、3回軽く叩いた。


「今日は気が気じゃなかったでしょ。心配させすぎて胃に穴が開いたら私が手術代払ってあげるから」

「約束ですよ」


相変わらず最後はインテリっぽく眼鏡を上げる。


「七音に負けないように頑張りなさい(笑)」

「…ゴホン。言葉の意味が理解出来ません。それではお世話になりました。失礼します」


深々とお辞儀をして雨宮もエマを連れて歩き出した。


5人が並んでいる幅は皆一緒。

少しも離れている人なんていない。

6人は彼らの背中が見えなくなるまで手を振った。






ボビエ「っていうか〜!ボビエも超こんな真夜中!か弱い女子ひとりだから危ないっていうのにわざわざ来てやったんですけど〜!

何か見返りないと激おこスティックバイオレンスなんですけど〜!!」

サラ「そうね。リッキー、お礼に一回くらいちゅーしてあげれば?」

リッキー「ええっ!?そ…それは…」

ボビエ「ギャァァアア!!チョリからの情熱キッス萌ぇええええ〜〜!!!
早く、ダーリン!ボビエの唇に熱いブチューを!そしたらもう毎日でも来てあげる系ぃぃ!」

リッキー「ウワッ!来なくてい…ちょっ…誰か助けて!ああああああっ!早く!J!!」












ナイジェル「おい…バレル…。食ってばっかねーで外行かね?絶対俺ら忘れられてるぞ?」

バレル「うるせぇ、ガタガタ言ってねーで早くタッパーに入れろクズが」












ボビー「……へんなっ……へん…な………かおっ……(気絶中)」


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