「久しぶりだな。お前とこうやってふたりで買い物なんて」

「そうだね。久々にウィンディランの皆さんとも会えるんだもの。美味しいものたくさん作ってあげるね」


いつものとある水曜日。

手提げ袋を持った兄妹が、賑わう街路を仲良く歩いていた。

その手提げ袋の中には野菜や果物、お肉など今晩の夕食の材料がいくつも入っている。


ジムの隣を歩く桔梗色の髪の女性は、妹のローラだ。

知的な雰囲気の可愛い彼の自慢の妹。

自慢の妹だ。(大切な事なので2回言いました)


普段は日本に留学している教師の卵だが、月に1度程こちらへ帰ってきている。

そして本日はウィンディランで一晩過ごす予定となっていたので、そのお礼に料理を振る舞ってくれるらしく
たまの休日、久々にふたりで買い出しに来たのだ。

全く…自慢の妹だ。(大事な事なので念を押して3回言いました)


「お兄ちゃん、たこ焼きとお好み焼きどっちが好き?」

「…なんでお前も大阪の食べ物限定なんだ。…ん?」


一時歩いていると、ジムの目にある光景が映った。

何もない道端に何故か人がたくさん集まっている。

ローラもそれに気づいたらしい。


「なんだろう?有名人でも来てるのかな?」

「それにしては様子が変じゃないか?」


確かに芸能人が来てキャーキャー騒いでいる空気とはまた違う。

妙なざわつきというか、そういう楽しそうなものではない。


「ちょっと行ってみようよ」

「え?なんか怪しくないか」

「いいじゃん。ほら!」

ローラは見た目によらず、小さい頃から意外と好奇心が旺盛な子だった。

その名残が未だ残っているらしい。

先に走り出してしまい、兄も困惑しながらもその後ろに付いていった。

野次馬に近づき、ジムは近くにいた中年の男性に声をかけてみる。

「なんの人集りですか?」

「よくわからねーけど若い男達が殴り合いのケンカをしてるんだとよ。物騒な世の中だねぇ」

「ケンカ?」



そのワードだけで、なんとなく脳裏に嫌な予感がよぎる。

「お兄ちゃん?どうしたの?」

「あ、いや。別に…」


明らかにソワソワし出した様子の彼。

この人数。

どれだけ激しいケンカかは大体予想がつく。



「………。」

少し考えて、そして決心がついたらしい。

彼は妹の肩を叩いた。


「ローラ…ちょっとここで待ってろ。行ってくる!」

「え?ちょ…お兄ちゃん!?」


あっという間に野次馬に紛れて見えなくなってしまった兄。

ローラもどうしようか迷ったが、意を決して、自らもその人集りに潜り込んで兄の後を追った。

大勢の人をかき分けて進み、やっと辿り着いたそこには…








ガシャァァンッ!





「うわっ!」


人ごみから出られた途端、ジムの足元に突然ひとりの男性が飛んできた。


「うぐぐっ…」


腹を抑えて悶えている柄の悪そうな男。

何があったのかと目線を更に伸ばし、男が飛んできた方向を見ると…

更に柄の悪そうな男が冷酷な目つきでこちらを睨んでいた。



「バレル!やっぱりお前か!何してるんだ、こんな所で!」

「…………。」


ジムの問いかけにも彼は答えようとしない。

どうやらこの倒れている男性は、バレルに殴るか蹴るかの攻撃を受け、こちらへ飛ばされてきたんだろう。


「チクショッ……テメ…」

震える手でコンクリートに這いつくばる姿から、相当なダメージが想像出来る。




「大丈夫ですかっ」

「触んな!」


男はジムの手を振り払い、立ち上がろうとするが…



「今、警察を呼んだぞ!ふたりとも取り押さえろ!」

野次馬から聞こえてきた言葉。

その途端、男の体はピクンッと動いて慌てて立ち上がった。


「ちょっ…!」


警察沙汰なんてとんでもないと、フラフラの状態ながらも走り出す。


「追え!捕まえろ!」

「うわっ」


しゃがんでいたジムは、急いで野次馬達から離れ…


「コラッ、やめろ!離せ!」


気がつくとその男は何人もの人に囲まれ、そして取り押さえられていた。

これで少し一安心か…



「あ。そうだ…バレッ………!?」


咄嗟に視線を真逆へ移すジム。

彼の事だ。

もしかしたら逃げられているかもしれないと思いきや、

彼はひとりの女性に腕を掴まれて、その場所に立ったままだった。



「バレルさんっ!どこ行くんですか、ダメです!」

「…離せ」

「こんなに服に血が滲んでるじゃないですか!早く病院にっ…」

「離せっつってんだろーがッ!!」


バレルは荒々しい声でローラの手を強引に振り解いた。


「ローラッ!バレル、お前何すんっ…」

「…………。」

「ッ…」



ギロッ



蛇のような鋭い目つきに、思わず体が止まってしまう。

そして彼は、そのまま何も言わずに歩き出した。


「バレルさんっ…」

「ローラ、危ない!離れろ!」

「バレルさん!」


ガシッ!

再び彼の腕を掴み…


「…ッ…いい加減にしろ、貴様っ…」



ついにバレルは拳を彼女に振り上げる。



「……ッ…!」

「バレル、やめろッ!!」



















「…っ……?」


ローラは目を瞑ったが、特に何も起こらず体に痛みも感じない。

恐る恐る目を開けると…



「チッ」


バレルは彼女の手を再び荒く振り解いた。



「言われなくても消毒くらいはする」


小声で呟き、そして歩き出した。

家に帰るつもりだったのか…







ウー!ウー!



「あっ…ヤバい、パトカーの音だぞ!」


耳に入ってきたのはパトカーのサイレン音。

マズい。このままでは俺達まで巻き込まれるかもしれな…

あっ!


気がつくとローラはバレルの後を追って走り出し、みるみる姿が小さくなっていた。

ったく、なんでアイツにそこまで構ってやるのか。


「あーもっ…なんでこうなるかな…」


ジムは置いてきた手提げ袋を握り、ふたりの背中を急いで追いかけた。


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