……………


大通りから離れた暗く狭い一本道。

湿っぽいまるでどこかへの近道のようなルートを進み

ようやく辿り着いた古く汚い建物が並んでいる寂れた場所に、バレルが住んでいるアパートがひっそりとあった。

陽あたりも悪く、見た目も古い。

お世辞にも「素敵」とか「綺麗」という言葉は出てこなかった。


「バレルさんっ…あの…ここに住んでるんですか?」

「文句があるなら付いてくんな」

「いえっ…文句はありません」

「つーか、貴様誰だ?さっきから馴れ馴れしく話しかけたり付いてきたり」

「えっ…覚えてないんですか!?
ローラですよ!ローラ・リバースです!前に一緒にデートしてもらったじゃないですか!」

「…………。」

「バレルさ…?」

「知らん」

「…ッ!そんな…」


バレルに顔を覚えられていないと知った彼女。

肩を落としてガックリするも、顔をぶんぶん横に振って気を取り直した。


「忘れちゃってるなら今日から覚えてもらうまでです!とにかく今日はバレルさんの傷の手当てを私がします!いいですね!?」

「…勝手にしろ」


「あと、私の名前はローラ・リバースです!この顔ちゃんと覚えてくださいね!?」

「知らん」


周りに誰もいないような所なので、ローラの声がよく響く。

彼女を無視して錆びれた鉄製の階段を上がる彼を、ジムは何度突き落とそうかと考えていた。





















「少ししみますけど我慢してください」

「………。」


傷口を洗った後、消毒液を染み込ませたコットンをあてるが、特に反応を見せない彼。

本当は痛いはずなのに我慢してるのかな。


怪我をしている箇所は左腕に左足。

口端が切れて、頬や肩にも青いアザがある。

一番酷いのは左腕だ。

石か何かをぶつけられたのか、傷口がぱっくり裂けている。


酷い傷跡に目を塞ぎたくなったが、ローラは必死に手当てを続ける。

彼の顔は無表情のままだ。


「うわ…痛そうだな。大丈夫か、お前」

「貴様みたいにひ弱な体じゃねぇ。馬鹿にすんな」

「そうか。悪かったな、ひ弱な体で」


心の中で「明日、バイトの店長に怒られろ」と思った。


「…つーか、なんで貴様まで付いてくる?」

「当たり前だろうが!可愛い妹をこんな狼の住む屋敷にひとり連れて行くなんて、考えただけで吐き散らかしそうだ」

「吐いても散らかすな」



「はいっ…終わりました」

なんだかんだ話をしている間に、手当ては完了したようだ。

包帯が腕や足に巻きつき、口元に絆創膏が貼られている。


「ははっ!転んで怪我した小学生みてぇ」

「………。」

「あぁも…。そんな怖い顔で睨むなって」

「一応応急処置です。出来れば病院に行って欲しいですが、無理であれば毎日絆創膏と包帯は替えてくださいね」

「…………。」


わかったとは思ったのか、返事さえしなかったものの少し目を逸らした。

とりあえずは一段落だ。



それにしても、この部屋。

最初に入った時から思っていたが…


「それにしてもお前の部屋汚いなぁ」


ジムは思っていた事を隠さず素直に口にした。

アパート自体の外観も結構酷いと思ったが、部屋の中は更に酷い状態。

飲み終わったペットボトルが部屋の隅に何本も置いてあり、食べ終わった弁当やカップ麺がゴミ箱に積まれている。

脱ぎ終わった服も洗濯はしているようだが、畳まれずにそのまま。


ナイジェルの部屋といい勝負だ。

まさに私生活にだらしない男のひとり暮らしの部屋。

バイクの実力があるんだからもっと稼げそうなものを…

ウェイターの仕事、案外気に入ってるのか?


「あのっ…私、片付けましょうか?」

さすがに気を遣ったのかローラが声をかけるが…


「…いい。帰れ」

「洗濯物…畳みますよ」

「いい。帰れ」

「じゃぁ、せめてお料理でも作りますけど」

「いい。帰れ」

兄「テメェ…妹の親切心をなんだと思ってんだ(殺意)」


ったく…。

舌打ちをしながら、ジムは面倒臭そうにゴミ箱の中を覗いてみる。


『ドカ盛!チャーシュー味噌ラーメン』

『バリコク豚骨ラーメン200グラム増量』

『牛カルビ&豚大盛弁当』

『辛さ10倍!濃縮タンタン麺』

『焼肉さん太郎×15枚』



「…体に悪そうなものばっかだな(ボソッ)」

「…………。」

「なんかさ。バイト先で余り物の野菜とかお惣菜とか貰ってこないのか?」

「貰う」

「じゃぁ、それでいいじゃん。わざわざこんなものばっかり食べなくても…」

「あんな少ねぇ量で足りるわけねーだろ」

「お前、見た目の割に結構食べるんだな」

「悪いか?殺すぞ」

「なんでそれだけで死なないといけないの?俺」


するとその光景を見ていたローラが、居ても立ってもいられずに立ち上がった。


「やっぱり今日くらいは私がお料理を作ります!」

「………。帰れと言ってるのが聞こえねーのか」

「帰りません!なんと言われようと私はやっぱり貴方の体が心配なんです!」

「…………。」


強く睨みつけるバレルだが、やけに強気のローラは一歩も引く様子はない。


「フン」


珍しく負けを認めたのか、先に彼の方が目を逸らした。


「…勝手にしろ」

「ありがとうございます!」


許可が下り、軽くお辞儀をしたローラ。

早速、キッチンへ向かう妹を見てジムは数回瞬きを繰り返した。


「珍しいな、お前が先に折れるなんて」

「腹が減っただけだ」

「お前、本当にローラの事覚えてないのか?」

「…覚えてねぇっつってんだろーが」

「そうか。まぁいいや」


グイッ。

ジムは彼の襟を掴んで、無理やり立ち上がらせる。


「なんだっ…」

「あっちが料理を作っている間、こっちはこの部屋の片付けだ。とりあえずゴミだけまとめてゴミ袋に入れるぞ!いいな?」

「チッ。ウゼーな」


バレルが猫背気味に立ち尽くしていると、しっかり者のお兄ちゃんがゴミ袋を何枚も取り出した。


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