4
……………
「お待たせしました。料理出来てますよ!」
最初に訪問した時よりゴミの量が数倍減り、随分スッキリとしたバレルの部屋。
ゴミステーションにまとめた袋を出して部屋に戻ってくると、既にテーブルにはローラが作った手料理が並べられていた。
余りもので作ったポテトサラダのコロッケ、野菜サラダ。
ミネストローネとライスだ。
「おおっ!美味そう!」
「…貴様の分はねぇ」
「え、ケチだな。片付け手伝ったのに!」
もちろん返事は返ってこない。
テーブルの前に座るバレルは「頂きます」も言わずにスプーンを手に取った。
「味の保障は出来ませんが、とりあえずお野菜を多めにしてみました」
「…………。」
「美味い」も「不味い」も言わず、彼は無言で食べ進める。
余程お腹が空いていたのか早いスピードで食べ、あっという間に皿の中は空になってしまった。
「全部食べたな!美味しかったのか?」
「食い終わったんだからさっさと帰れ」
「またそうやって。わざわざ時間を割いて作ってくれたんだから、お礼くらい…」
「いいよ、お兄ちゃん。私はバレルさんが全部食べてくれただけで満足だから」
「ローラ…」
天使のように優しく微笑む彼女。
この優しさは、やはりまだバレルには届かないのか。
「では、お皿を洗ったら私達は帰ります」
彼女はバレルが食べ終わった皿を集めて、キッチンまで運び始める。
なんだか…妹があまりに健気で可哀想に見えるな。
そう考えながら黙って座っているバレルの横顔を見た。
この男。全体的に色々と問題がありすぎる。
こうやって無愛想だし、私生活だって俺達が来なければ汚い部屋のままだったし、またカップ麺でも食べていたと思う。
そして何より一番心配なのは…
「なぁ、バレル。なんでお前はすぐにケンカばかりするんだ?」
その質問に彼はようやく視線のみをジムに向けた。
「俺にはわからないんだ。お前がどうしてそうやっていつも危険なケンカばかりしてるのか。
この際、そのひん曲がった性格とか、だらしのない生活はどうでもいい」
「…………。」
「人を殴って楽しいのか?殴られて痛いとか思わないのか?…周りがどういう気持ちなのか考えた事はないのか?」
「…………。」
鋭い目つきでジムを睨み続けるバレル。
耳にはローラが皿を洗っている水の音が…
「…楽しいわけねーだろ」
「え」
彼のぽつりと呟いたひとつの言葉に、思わず拍子抜けしてしまう。
それは思ったよりもあっさりとした答えだった。
「じゃ…楽しくないのに、どうしてケンカばかりするんだよ?」
「関係ねーだろ」
「今日のケンカはどうだったんだ?」
「知らん。昔俺にケンカで負けたからどうこうとか言ってたが…俺が雑魚を一匹ずつ覚えてるわけねぇ」
バレルはジムと目を合わせない。
「俺にとっては、殴られたら殴り返す。ただそれだけの事だ」
「…バレル」
俺にはわからない。
そりゃ、見知らぬ野郎に殴られた事もなければ殴った事もない俺には、何もわからないだろう。
だが、その話を聞いてひとつ思った事があった。
コイツは、内心…
本当は寂しいんじゃないか、と。
バレルの過去は、リッキーやミランダとかいう女の話を聞いただけで、実際俺は近くで見ていたんじゃない。
ただ…
今でもまだ「自分は孤独なんだ」と思い込み、
その寂しさをケンカで紛らわしてるだけなんじゃないのだろうか。
無我夢中で人を殴っていれば、寂しさなんてきっと忘れるはず。
でも、それじゃダメなんだって事
わかっているのだろうか。
このままでは自分の体も心もボロボロになって、いつかは全てが壊れてしまう事…
まだ、気づいていないのだろうか?
「洗い物、終わりました」
山積みにされた洗濯物を見ながらボーっと考えていると、ハンドタオルで手を拭いているローラがキッチンから戻ってきた。
「あぁ、お疲れ。ローラ」
「いいよ。帰ろうか、お兄ちゃん」
「そうだな」
ジムが立ち上がる間、終始無言のバレル。
…今の俺が何を言っても、多分コイツは変わらない。
バレル本人が自分自身と向き合って、素直になる事が出来る日まで
今はきっと待つしか方法がないんだ。
恐らくそれまでは、こんな馬鹿みたいなケンカを繰り返す日々を続けるだろうが。
コイツにも心から信頼出来る大切な仲間や、守りたい存在が出来ればな。
「じゃあな。あんまり無理するなよ」
「…………。」
余計なお世話だ、と言いたそうな目。
まぁ、この視線も仕方ない。
ジムとローラは歩き出し、元来た玄関へ向かう。
ボロアパートの象徴、歩く度に軋む廊下。
外へ出ると空はすっかりオレンジ色に染まっていた。
「あ、お兄ちゃん」
「ん?なんだ?」
「忘れ物しちゃったみたい。取りに戻るね」
「あぁ…。ひとりでも大丈夫か?」
「平気。少し待ってて」
そう言い残し、妹のローラは再びバレルの部屋の中に戻った。
- 493 -
*PREV NEXT#
ページ: