……………


「お待たせしました。料理出来てますよ!」


最初に訪問した時よりゴミの量が数倍減り、随分スッキリとしたバレルの部屋。

ゴミステーションにまとめた袋を出して部屋に戻ってくると、既にテーブルにはローラが作った手料理が並べられていた。

余りもので作ったポテトサラダのコロッケ、野菜サラダ。

ミネストローネとライスだ。


「おおっ!美味そう!」

「…貴様の分はねぇ」

「え、ケチだな。片付け手伝ったのに!」


もちろん返事は返ってこない。

テーブルの前に座るバレルは「頂きます」も言わずにスプーンを手に取った。


「味の保障は出来ませんが、とりあえずお野菜を多めにしてみました」

「…………。」


「美味い」も「不味い」も言わず、彼は無言で食べ進める。

余程お腹が空いていたのか早いスピードで食べ、あっという間に皿の中は空になってしまった。


「全部食べたな!美味しかったのか?」

「食い終わったんだからさっさと帰れ」

「またそうやって。わざわざ時間を割いて作ってくれたんだから、お礼くらい…」

「いいよ、お兄ちゃん。私はバレルさんが全部食べてくれただけで満足だから」

「ローラ…」


天使のように優しく微笑む彼女。

この優しさは、やはりまだバレルには届かないのか。


「では、お皿を洗ったら私達は帰ります」


彼女はバレルが食べ終わった皿を集めて、キッチンまで運び始める。

なんだか…妹があまりに健気で可哀想に見えるな。

そう考えながら黙って座っているバレルの横顔を見た。


この男。全体的に色々と問題がありすぎる。

こうやって無愛想だし、私生活だって俺達が来なければ汚い部屋のままだったし、またカップ麺でも食べていたと思う。


そして何より一番心配なのは…


「なぁ、バレル。なんでお前はすぐにケンカばかりするんだ?」


その質問に彼はようやく視線のみをジムに向けた。


「俺にはわからないんだ。お前がどうしてそうやっていつも危険なケンカばかりしてるのか。
この際、そのひん曲がった性格とか、だらしのない生活はどうでもいい」

「…………。」


「人を殴って楽しいのか?殴られて痛いとか思わないのか?…周りがどういう気持ちなのか考えた事はないのか?」


「…………。」


鋭い目つきでジムを睨み続けるバレル。


耳にはローラが皿を洗っている水の音が…












「…楽しいわけねーだろ」

「え」




彼のぽつりと呟いたひとつの言葉に、思わず拍子抜けしてしまう。

それは思ったよりもあっさりとした答えだった。


「じゃ…楽しくないのに、どうしてケンカばかりするんだよ?」

「関係ねーだろ」

「今日のケンカはどうだったんだ?」

「知らん。昔俺にケンカで負けたからどうこうとか言ってたが…俺が雑魚を一匹ずつ覚えてるわけねぇ」


バレルはジムと目を合わせない。






「俺にとっては、殴られたら殴り返す。ただそれだけの事だ」



「…バレル」




俺にはわからない。

そりゃ、見知らぬ野郎に殴られた事もなければ殴った事もない俺には、何もわからないだろう。

だが、その話を聞いてひとつ思った事があった。


コイツは、内心…

本当は寂しいんじゃないか、と。


バレルの過去は、リッキーやミランダとかいう女の話を聞いただけで、実際俺は近くで見ていたんじゃない。



ただ…

今でもまだ「自分は孤独なんだ」と思い込み、

その寂しさをケンカで紛らわしてるだけなんじゃないのだろうか。


無我夢中で人を殴っていれば、寂しさなんてきっと忘れるはず。



でも、それじゃダメなんだって事

わかっているのだろうか。


このままでは自分の体も心もボロボロになって、いつかは全てが壊れてしまう事…

まだ、気づいていないのだろうか?







「洗い物、終わりました」


山積みにされた洗濯物を見ながらボーっと考えていると、ハンドタオルで手を拭いているローラがキッチンから戻ってきた。


「あぁ、お疲れ。ローラ」

「いいよ。帰ろうか、お兄ちゃん」

「そうだな」


ジムが立ち上がる間、終始無言のバレル。


…今の俺が何を言っても、多分コイツは変わらない。

バレル本人が自分自身と向き合って、素直になる事が出来る日まで

今はきっと待つしか方法がないんだ。

恐らくそれまでは、こんな馬鹿みたいなケンカを繰り返す日々を続けるだろうが。


コイツにも心から信頼出来る大切な仲間や、守りたい存在が出来ればな。



「じゃあな。あんまり無理するなよ」

「…………。」


余計なお世話だ、と言いたそうな目。

まぁ、この視線も仕方ない。


ジムとローラは歩き出し、元来た玄関へ向かう。

ボロアパートの象徴、歩く度に軋む廊下。

外へ出ると空はすっかりオレンジ色に染まっていた。



「あ、お兄ちゃん」

「ん?なんだ?」

「忘れ物しちゃったみたい。取りに戻るね」

「あぁ…。ひとりでも大丈夫か?」

「平気。少し待ってて」


そう言い残し、妹のローラは再びバレルの部屋の中に戻った。


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