5
ガチャン
「…………。」
ひとり部屋に戻ってきた彼女。
バレルは先程の体勢のまま、少しも動いていなかった。
「忘れ物をしました」
そう言いながらキッチンに起きっぱなしになっていた余った食材の袋を手に取る。
そのまま黙って帰ると思いきや
「バレルさん」
彼女は突然話しかけてきた。
「…………。」
視線さえ向かうものの、当然の事ながら返事は返ってこない。
「これを…置いていきます」
彼女はある物を、彼の座っている隣のテーブルの上にそっと置いた。
それはバレルの傷の手当てに使用した救急用品セット。
まだ絆創膏や消毒液が残っている事が彼も見てわかった。
「私の救急用ですが、今度また怪我をしたらこれを使ってください。きちんと傷口を洗ってから使用してくださいね」
「………。」
まるで置物のように動かない男。
「私は…」
ごくっと息を飲む音が聞こえ
ローラは口を開く。
「まだ…正直言うとバレルさんの事…怖いと感じている私もいます」
「………。」
「でもっ…そんな気持ちと同じくらい…貴方を支えたいと思っている私もいるんです。
だから…」
「帰れ」
「ッ…」
彼の言葉にピクッと止まってしまう。
「俺に
そういうくだらない存在は必要ない」
「バレルさん…本当にそれで…」
「帰れ。もうここには来るな」
「……ッ…」
ドクンッ…ドクンッ…
心臓が高鳴って、どうしようもない気持ちが込み上げる。
やっぱり…私が彼に構う行為は…
ただの迷惑だったのか。
どうしてっ…
貴方はどうしてそんな怖い顔をするんですか?
「ごめん……なさい…」
「………。」
ローラは震える声で一言呟いた。
「…帰ります。色々お節介な事してごめんなさい」
深くお辞儀をして、彼女はそのまま部屋を出た。
もうこの部屋へは来られない。
きっともう…二度と来られない…
ガチャンッ
「あ。ローラ…遅かっ………?」
扉から出てきた妹の様子がおかしい。
下を向いて
目の端がキラッと光った。
「ローラ…?泣いてるのか?」
「泣いてないよっ…」
「まさっ…アイツに何か言われたのか!?」
「お兄ちゃんっ!!」
「…!?」
突然大きな声を出して、兄は思わずビックリしてしまう。
「私…バレルさんを助けたいっ…」
「え…」
妹の口からその言葉は出てきた。
「バレルさんをっ…私が助けるからっ…。
絶対ッ!このままじゃいさせない!!」
「ローラ?どうしたんだ?」
「…絶対。絶対、ひとりになんかさせない…」
「決意表明」と小さくお尻に付け足した。
何か…あったのか。
いや、そんなのあったに決まっている。
でも、深い事情は何も訊く事は出来なかった。
その目の端にはやはり涙らしき光が見えて…
彼女は俺の目の前で大きく息を吐いた。
「以上…。買い物に行こう!」
錆びれた階段を颯爽と駆け足で下りていく。
「えっ?買い物ってさっき行っただろ!?」
「ほとんどバレルさんが食べちゃったよ!また最初から買い出しスタートだね」
アパートから離れていくふたつの影。
あの部屋に来るなって言われた以上、私はもう行かない。
でも、それ以外にも彼を救う方法は必ずあるはずだから。
この際…彼に嫌われたって構わない。
いや、むしろもう嫌われているのかもしれない。
でももうそんなの構わないよ。
ただ…彼を助けたい。
それだけの思いを原動力に、前に進む事を心の中で誓った。
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