……………


歩いて30分程の場所に、彼の住んでいるアパートがある。

お世辞にも「良い建物」とは言い難い古いアパート。

私は彼のいない時間帯を見計らい、月に1〜2回程、彼の部屋の前にこうやって食料や救急用品を置いていく。

今では道も完璧に覚えてしまったし、近道まで見つけてしまった。



「ふぅ。疲れた…」

毎回の事だが、アパートに着く頃にはすっかり息が切れてしまっている。

「楽に持てる」と思う荷物でも、長時間持って歩けば疲れてしまうものだ。

タクシーを使ってもいいが、さっき贅沢に使っちゃったしこの辺りで節約をしなくちゃ。


コツッ

コツッ


錆びれた階段を登り、そしてようやく部屋の前に着いた。


「やっぱり…まだ残ってる…」


目に映ったのは一ヶ月前に私が置いた救急用品。

使われずにずっとそのままだったんだ。

怪我をしてなくて使っていないというのならいいけど…やっぱり違うよな。


しかし、しょげてばかりもいられない。

食料はなくなっている。

きっと食べてくれた証拠だ。



「うん。大丈夫…」


自分にそう言い聞かせ、前回置いた救急用品を回収し新しく持ってきた物と交換。

そして保冷箱に入れた食料品を箱のまま置いておく。


食べ物は食べてくれるとして、救急用品も怪我をしたら使ってくれるといいな。


古い救急箱と保冷箱を手に取り、そしてなんとなく扉を見る。


表札も何もない。

こんな所にひとり寂しく住んでるなんて。

本当は…どういう気持ちなのかな。

小さく息を吐き、帰ろうと踵を返した。




が…






「…………。」


「……ッ!」



階段を上がってすぐの所。


そこにいつの間にか、この部屋の住人が立っていたのだ。


足音も何も聞こえなかったのでその存在に気がつかず、
彼の姿が目に入った途端、心臓が飛び上がって声も出なかったローラ。



「バッ…バレルさ…!…なんで…」

「もうここへは来るなと言ったはずだ」

「………っ…」


確かにそれは以前、彼に言われた言葉。

私はその忠告に「はい」と答えた過去がある。



「…ごめんなさい。バレルさんの迷惑にならないよう、貴方自身に会わなければいいと思って…」

「………。」



呆れてため息をつくわけでもなく、じっと鋭い目で睨みつけている。

普段から怒った顔が増して怖い顔に。


「ご…ごめんなさい…」

「………。」


彼は歩き出し、ローラに見向きもせずに部屋の扉を開ける。






「入れ」








「……え?」



一瞬耳を疑ったが、彼は2度も同じ事は言わずに中に入って扉を閉めた。

今…確かに「入れ」…と…


え?私に言ったの…?



ギギギギギ


恐る恐る扉を開けるが…なかなか部屋の中へは入れずにいると…



「早く来い」



…ッ!

やっぱり呼んでる!?


「は…はい!」


彼女は慌てて走り出した。

走っている最中、見えたのは床に散らばっているゴミ。

彼の部屋は前回3人で片付けたはずなのに、また同じように汚くなっていた。

そしてリビングに辿り着くと、黙ってこちらを見ている彼の姿が目に入る。


「ど…どうしたんですか?」

「………。」

「え…!?////バレッ…バレルさ…?」



ローラは思わず手で顔を覆ってしまう。

バレルが突然、自分の上着を脱ぎ出したのだ。

上半身が裸になり、現れた筋肉質の体。

男の人の体なんて(お兄ちゃん以外)ほとんど見る機会なんてないから、免疫がない彼女は咄嗟に目を塞ぎそうになってしまっていた。


「バレルさっ…///なんで…」

「いちいち喚くな。うぜーな」


ふと背中を向けた途端…


「……ッ…」


彼の言いたかった事がわかった。


「背中…怪我してるんですか…?」


背骨の横。

彼の体にはまたひとつ傷が増えていた。

この傷の手当てを…私にして欲しかったんだ。


「早くしろ」

「あっ…はいっ…」


断る余地もない。

言われるがまま玄関に置いてきた救急箱を回収し、急いで彼の背中を診る事になった。


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