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……………
傷は思った以上に深く、石のような堅いものでえぐられたようだった。
時間が経って血は黒く固まっていたものの、グロテスクな傷口に治療をしている最中気分が悪くなって何度も手を止めてしまった。
よく見ると脱ぎ捨てられた服の背中側にも滲んだ血の跡が残っている。
30分にもかかる長い応急処置を終え、ローラは箱を閉めた。
「終わりました…」
「………。」
もちろん「ありがとう」等、感謝の言葉が返ってくるはずもない。
バレルは脱ぎ捨てた血染めの服を洗濯カゴに入れ、棚から適当に取り出した黒のシャツを着た。
ようやく緊張状態だったローラの心も落ち着き始めたようだ。
「バレルさん…。今日もケンカしたんですか?」
「貴様には関係ねぇだろ」
「…………。」
冷たい返事をされて下を向く彼女。
多分またすぐ「もう帰れ」と言われてしまう。
「バレルさん…」
「帰れ」
「やっぱり」
クスッと笑うと、バレルはその顔を瞳だけ向けて見た。
「言うと思いました」
「…………。」
「大丈夫です。言われなくても帰ります。ただ最後に私の話を聞いてください」
「…………。」
「バレルさんが…一度でも自分から私を頼ってくれて嬉しかったです。
場所が場所だけに自分では手当て出来なかったという理由もありますが、少しでも貴方の力になれて嬉しかった」
「帰れ…」
「…………。」
彼は冷たい目で彼女を睨み続ける。
「もう一度言っておく。もうここへは来るな。頼んでもいないのに色々持って来なくていい」
「食べ物は…食べてますよね?」
「関係ねぇだろ。今すぐ帰れ」
やっぱりそう言ってしまうんですね…。
変わらない冷酷な視線に、胸が締め付けられそうだった。
「わかりました。帰ります」
「…………。」
「でもまた…私はここに来ます。これだけは譲れません」
「貴様…」
荷物をまとめ、急いで部屋の外へ。
バレルさんが少しでも私を頼ってくれた。
嬉しい。
どんなに冷たい言葉を浴びせられても、その事実が悲しみをかき消すくらい嬉しかった。
「ケンカをしないで」とは言えない。
してはいけない事は、恐らく彼自身が一番わかっているはずだから。
貴方に極力会わないように、私はまたこの場所に来ますよ。
貴方が周りの人間に心を開いてくれるまで。
ガチャン…
玄関の扉を閉める音がした。
「…………。」
その音が聞こえても、男は微動だにしない。
彼女が手当てしてくれた背中。
そっと携帯を開き、表示したのは未読になったままの彼女からのメールだった。
【栄養が偏らないようにちゃんとお野菜やお魚も食べてくださいね】
「チッ…」
メールを削除。
彼の口から聞こえたのは、小さな舌打ちの音。
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