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……………
もうここには来るな。
俺にそういうくだらない存在は必要ない。
「ローラ先生?ローラ先生!」
「……ッ…!」
気がつくと、ひとりの生徒が私の手を引いていた。
「あ…ごめんなさい」
「もう!ずっと呼んでるのに本を読んでばっかりで全然気づかないんだもん」
ここは日本の東京都にあるとある小学校。
私が研修生として働かせてもらっている場所だ。
ここで週に何日か小学生に英語を教え、そしてこの学校のお手伝いをするのが私の仕事。
私はここで色んな日本文化を勉強して、そして同じように英語を子ども達に教え、いずれは立派な英語教師として日本とアメリカを繋ぐ掛け橋になりたいと思っている。
生活をしていく上で文化の違いとか戸惑う部分も多くて辛い時もあるけど、なにより生徒の子ども達が皆可愛くて大好きだから頑張れる。
この子は確か…2組の北村君だ。
明るくて活発な小学3年生の男の子。
「…どうしたの?」
「この間ね!家族で京都旅行に行ったの!お菓子買ってきたから先生食べて!」
差し出されたのは淡いピンクの包装紙に包まれた日本らしい小さな羊羹だった。
「あ、美味しそう。ありがとう」
「あとね!給食、今日一緒に食べたいと思ってお誘いに来た!いい?」
「うん。いいよ」
「ありがとう!」
子どもの笑顔は本当に癒される。
無邪気で元気いっぱい。
いつも素直な気持ちで私に接してくれる。
「ねぇ?何の本読んでたの?」
「ん?内緒」
「えー、見せて見せて!」
不意を突かれ、グイッと机から本を取り上げられた。
「ひとの心の…ん?かいきほ…」
「ときほぐしかた。北村君にはまだ難しいよ」
ニコッと笑って本を取り返す。
「先生、好きな人いるの?」
「……え?」
「彼氏?彼氏の事をもっと知りたくて読んでるんでしょ!?お姉ちゃんもそーいう本読んでたもん」
「違います(笑)」
「ふーん。内緒にするなんてつまんないの!」
キーンコーン…
「ほら、チャイムが鳴ったよ。教室に戻らなきゃ」
「わかった!じゃぁまたお昼に来るね」
投げるように本を返され、その生徒が走りながら部屋を出る際、教頭先生に叱られていた。
最近の子どもはませてるな。
それに好きな人がいる事、見事に見透かされたし…
怖い怖い(笑)
机に並べられた5冊の本。
『人の心の解きほぐし方』
『栄養バランスを補える食材』
『人はひとりじゃない』
『怪我の対処マニュアル』
『男性でも簡単!お手軽健康レシピ』
この5冊の本は先日アメリカで入手出来たものだ。
ようやく巡り会えた、バレルさんのサポートをする為の情報を蓄積出来る唯一の足がかり。
先日から読みっぱなしで大分目が疲れてしまった。
本の表紙をじっと見つめ、彼の事を思い出す。
バレルさん…小さい頃はどんな子どもだったのかな。
やっぱり彼も昔は、いっぱい遊んだりおやつを食べたり親の手を握ったり…普通の子どもだったのかな。
そこでふと、さっきの生徒が持ってきた羊羹が目に入った。
「…あ、そうだ」
何か良い事でも思いついたようだ。
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