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……………
「お疲れ様ー!」
「お疲れ!」
ウィンディランモトクロスレース会場。
本日のバイクレースも盛大に盛り上がり、熱気冷めやらぬまま幕を閉じた。
1位がサラ。
2位がリッキー。
そして3位がボビー。
コースが複雑に入り組んでいる第3コースという事もあり
小回り操作が得意なサラとリッキーが上位を独占したようだ。
ボビーに至っては全員が全く気づかない間にゴールをしていた事もあり、走っている途中、次元をワープしたんじゃないか?と噂されていた。
一同はバイクを車庫に片付け、更衣室で着替えを済ませる。
動きやすい普段着に着替えた事もあり「仕事が終わった開放感」から、マイペースにのんびりメインルームへ向かっていた。
「あ!リッキーさん!」
「はい?」
そこで突然リッキーを呼び止めたのは、普段レースの実況をしているアナウンサーの男性だ。
「あの…お客さんが来てますよ?」
「俺にですか?」
「はい。女性がひとりですが、リッキーさんに会いたいとの事で…」
そこで隣にいたナイジェルが会話に割り込んでくる。
「ファンじゃねーのか?」
「いや、そう思ってお引取り願おうと思ったんですが、どうやらお知り合いの方らしく。ふたりだけで少しお話がしたいとの事でした」
「知り合い?」
「恋人じゃないの?」
「いませんよ、サラ!」
慌てて訂正し、とりあえずリッキーは指定された場所へ向かう事にした。
女の人で知り合い。
ふたりだけで話したいって…なんだろう。
「あ」
人気のない裏口の門の前。
そこには確かに知り合いの女性がひとり立っていた。
「…ローラさん?」
彼女はリッキーの顔を見るなり、ペコッと小さくお辞儀をする。
意外な人の登場にきょとんとするも、彼は急いで彼女の元へ向かった。
「ローラさん、どうしたんですか?ジムなら部屋に戻っちゃいましたよ?」
「あ…いや。今日はリッキー君に用事があって」
「俺に?なんですか?」
「ここではなんなので座りましょう」
促され、壁側に設置してあるベンチに並んで座る。
ローラさんが俺だけに用事だなんて…何があったんだろう。
「実は…バレルさんの事でリッキー君から話を聞きたくて」
「バレル?」
そういえば、彼女はバレルと前に一度だけ出かけた事があったな。
ふとその事を思い出した。
「私、知ってるかもしれませんが…バレルさんに気があるんです。
いえ、気があるというより…生活が不規則でケンカばかりしてる彼を助けたいと思っただけで、特別な関係になりたいと思っているわけではありません」
彼女はゆっくりと自分の出来事をリッキーに話し始めた。
「バレルさん。いつもケンカばかりで傷だらけだし、食事も健康に悪いものばっかり食べてるし…それにいつもひとり孤独で…
『可哀相だ、私が助けてあげなくちゃ』って思ったんです。
アメリカに帰ってくる度、体に良い食材や救急用品を彼の家の前に置いていきました。
毎回もう来るなって言われてたんですけどね(笑)」
「そうですか…」
「それでも彼の事を放っておけなかったんです。きっと寂しい思いをどこかでしているはずと思い込んで…」
「はい」
そこで彼女の握っている手の力が強くなった事が見てわかった。
「でも……この間…少し色々あって。私…彼を心の底から怖いと思ってしまったんです。
あの人の目の色は普通の人間と全然違いました。
ただただ孤独と絶望の中にいる人。私が思っている以上に暗く重い闇を抱えて…」
「………。」
「それを知った途端…自分が情けなくなってしまったんです。
生半可な気持ちで『この人を助けよう』とか思ったり、中途半端に優しくして『私は頑張ってる』って思い込んでいた自分が…」
「ローラさん…」
「一時は…もうバレルさんと関わるのはやめようと考えました。
でも、今の自分に正しい選択がなんなのか、未だにわからなくて…
この間、バレルさんとリッキー君が昔ながらの友人であった事を聞きました。
それで第三者として…貴方がどう思うかを聞いてみたくて」
「そうでしたか…」
彼女の姿を見ると胸が苦しくなった。
たまにこの場所へ遊びに来てくれるローラさん。
いつも優しく微笑んでいて、慣れない海の向こうの国で一生懸命頑張っているのに弱音なんか吐いた姿を見た事がない。
そんな彼女がこんな…
バレル…一体どんな酷い事をしたんだろう。
「ごめんなさい。リッキー君も忙しいのに。こんな事お兄ちゃんにも話せなくて」
「いや、いいんです。それは全然」
彼女は大きく息を吐き、そして呟いた。
「私…ダメな人間ですよね。バレルさんの事全然何も知らないのに、助けるとか勝手に言って
許可も取っていないのに勝手に物を置いていったりメールをしたり。
彼にとっては迷惑以外の何ものでもなかったのかもしれません」
「それは違います」
「……ッ」
それは違う。この言葉は自然と出てきた。
気がつけばうっすら霧状の雨が降ってきている。
「えっと…どう言えばいいか難しいけど…バレルは素直な人じゃないんです。
昔はそうじゃなかったんですが、少しいざこざがあって。彼は命の危機にまで晒された事もありました」
「…え?」
彼の言葉にローラの目が大きく見開いた。
「命…?」
「はい…。信頼していた人に裏切られ、騙され続け生死に関わる怪我をして、彼はいつの間にか他人を信用しなくなってしまいました。その責任は俺にも十分あります」
「リッキー君も?」
「俺も誤解とはいえ、彼を散々辛い目に遭わせました。だからまだ俺にも完全に心を開いてくれません」
「………。」
私も知らないバレルさんの壮絶な過去。
本当に私は…彼の1%も知らなかったんだ。
「でも…さっきも言った通り、昔はそういう人ではありませんでした。
少し近寄りがたくて怖い印象もありましたが、根は優しい人だったんです。その本質はまだバレルの体のどこかに残っているはずだって…俺は信じています」
「…………。」
「大抵の人はバレルの見た目や態度を恐れて必要以上には近寄りません。
彼の事が心配でも、実際声をかけてあげる人はいないのが現状です。
だけど、それでも貴方は多分ただひとり、バレルの事を思って行動に移してくれている。
それは彼にとって唯一の存在である事に違いはありません」
「…リッキー君」
彼はニコッと笑ってローラの顔を見た。
「それにメールをしたって事はアドレス変更の連絡も来たって事ですよね?」
「え…。まぁ…誰彼構わず適当に配信したんだと思いますが…」
「バレルのアドレスを知ってる人なんてそうそういないですよ。それにお兄さんには連絡来なかったですよ(笑)」
「来なかったんですか?お兄ちゃんには」
「その後、こっぴどく文句言ってましたけどね。
つまり、心の底からバレルは貴方の事を嫌っているわけじゃないって事ですよ」
「…………。」
あんな事をされて喜びたくない自分もいるのに…素直に嬉しいと感じてしまった。
バレルさん…貴方は本当は…私の事をどう思ってるんですか?
「ローラさん」
「…はい」
「俺が無責任に貴方にバレルを助けてあげてくださいとは言いません。
俺だって実際、今のバレルの事を全部知ってるわけじゃないし、あの人がローラさんに危害を加えない保障もないですから」
「…………。」
「だけど、バレルを助けてあげられる…その可能性が最もある人は貴方なんだと、俺は思います。
この先どうするかはご自分の判断で決めてください。
バレルから手を引いても誰も文句は言いません。むしろそっちの方が貴方にとって安全なので喜ぶ人が多そうですが。
俺から言える事はここまでです」
「…………。」
ローラはリッキーのこの言葉を聞いている間、終始口を抑えて無言だった。
様々な気持ちで胸が一杯になり、言葉が何も出せなかったのだろう。
「はぁ…っ」
少しだけ涙を拭き、そして顔を上げた。
「忙しいのにありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございます。ローラさん、本当に良い人ですね」
「そんな事…ないです」
私は今日…決心した。
何を迷っていたんだろう。
何を勝手に落ち込んでいたんだろう。
嫌われてもいいから、バレルさんを助けると決意表明したはずだ。
好かれなくたっていい。
うざいと思われたって嫌いと思われたって構わない。
バレルさんが安心して暮らせる日が来るまで、私がサポートをしてあげるんだっ…
小雨が降る中、ローラの決意は強く固まっていた。
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