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……………


「お疲れ様ですー」


ローラがリッキーを訪ねる数日前。

ファミリーレストラン「ジョイント」では、シフトの予定を終えた社員達が夜勤の社員と入れ替わる形で続々と着替えを済ませていた。

業務を終えたバレルも体中の絆創膏についてはこっぴどく店長に叱られたが、人手不足の為出勤停止にはならなかったようだ。


「あ!バレル君、お疲れ様!」

「…………。」


一緒にバイトをしているルーイが話しかけても、彼は無視して店を出る。


「はぁ。まだ私にも挨拶してくれないなぁ」

「バレル君はあのクールな性格が売りなんでしょ!?格好良いよねー、一匹狼って感じで!」


仲間のウェイトレスが落ち込んでいる彼女の肩をポンポン叩いた。

確かに見た目はハンサムだけど。

彼やっぱりどこか寂しそうだし、私達仕事仲間ともまだ距離を置いてるしなぁ。









……………










ザッ

ザッ


いつもの帰り道のルート。

いつもの周りの怯える視線。

最近はその辺を歩く野良猫さえ、怖がって自分を避けているような気がする。


だが、もうそれでいい。

何も不自由な事などない。

彼にとって「孤独でいる事」がもはや普通になってしまっていた。

ひとりでいる事は慣れた。

最近はあの女も連絡をよこさない。

ついに諦めたか…。

今日はどこぞの不良に絡まれる事なく、自宅アパートの前まで辿り着く事が出来たようだ。

無表情のまま錆びれた階段を上がろうとするが…




「…………。」




バレルはその階段を登らず黙って立ったまま。


何か物思いにふけているのかと思いきや、それは違った。




















「出てこい」



















アパートの横にある草陰に向かって放ったバレルの言葉。

返事は返ってこないが…



「出てこいっつってんだろ。バレバレなんだよ」















ガサッ…!


バレルの言う通り、そこの木の裏から隠れていたひとりの男が姿を現した。

両手を上げている姿を見る限り「降参」といった所か。


「誰だ、貴様…」


見た事のない知らない顔。

何故自分の住んでいるアパートを見張っていたのか、何をしていたかはわからない。

しかし、自分にケンカを売ってくるようなタチの悪い輩ではなさそうだ。


男が突然自分のポケットを漁り咄嗟に身構えると、想像してもいない物を取り出した。



コイツの携帯電話か…?



右手で操作を行い、そしてその画面をバレルに見せた。



「……ッ…」



オレンジ色の目を見開く。



ローラだ。

彼女が笑っている写真の画像。

その手には「人の心の解きほぐし方」という分厚い本が握られていて

その横には「栄養バランスを補える食材」や「怪我の対処マニュアル」など

難しそうなタイトルが並ぶ、同じく分厚い本が積まれている。

見る限り、彼女の背景は本棚がたくさん並んでいる。

図書館のようだ。


「なんだ…貴様…」

「…………。」













……………










バレルの自室。

帰ってきた彼は、疲れたように玄関に力無く座り込んだ。


そして目の前には、昔彼女が置いていった腐ってしまった食料品と埃を被った救急用具。


「………。」


彼はその袋を必要以上に睨みつけた後、片手で外へ放り出した。


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