17


……………

「はい、よく出来ましたー。じゃぁ次は鈴ちゃん!この単語わかるかな?」



ここはローラが研修職員として働いている日本の小学校。

緑豊かな草木の向こう。

窓に映るのは、子ども達に向けて授業をしている真っ最中の彼女の姿だ。

こうやって日本の文化を学び、そして日本の子ども達にも英語や外国の文化を知ってもらう。

これが今の私の一番の幸せ。

私の生き甲斐。


キーンコーン…


「あ、タイムアーップ!ここまで!正解はゾウさんでした!」

「えぇー!」

「はい、じゃぁチャイムが鳴ったので今日はここまでです」

「「ローラ先生、ありがとうございました!」」

「はい、ありがとうございました」


ニコッと笑う彼女は美人で優しい異国から来た先生という事もあり、生徒達には大人気だ。

いつものように授業を終え、そして教室を後にする。

今からはお昼の時間だ。

今日は生徒との約束もないし、少しゆっくりしようかな。

教員室自席の椅子に座り、テーブルから手作りのお弁当を取り出したローラ。


あ、そうだ。

そういえば今日学校へ来る途中、可愛いお花が咲いてたから写真を撮ったんだ。

最近あの人にメールを送ってないし、久しぶりにこれを送ろう。


To:バレルさん
件名:こんにちは
--------------------------------------------
バレルさん。
日本にはこんなに可愛らしい花が咲いています。
上手く撮れたのでお送りしますね。
--------------------------------------------



「あら、ローラ先生!彼氏にメール?」

「え?」


隣から話しかけてきたのは生活指導の小林先生だ。

彼女は人の世話とお喋りが大好きな中年の女性教師。

席が隣になってからはこうやってよく話をしたり、お昼ご飯もたまに一緒に食べている。


「違いますよ」

「またまた謙遜しちゃってー!ローラ先生ならアメリカにボーイフレンドのひとりやふたりくらいいるでしょ!?」

「いないですよ」


笑いながらお弁当の蓋を開ける。


「いいのよいいのよ!若いうちはたっくさん恋愛をしなさい!いいわよね〜恋!私の旦那も付き合いたての頃は星の王子様のようだったのに
今はハゲ散らかって太って、見るも無残になったものよ!」

「そんな事ないですよ」

「まぁ、私も昔は百恵ちゃん似の美少女だったから、見るも無残になったのは同じだったわ(笑)」


とにかくこのおばさん先生はお喋りが大好きでテンションが高い。

中年の女性でこういうノリの人が多いのは、アメリカも日本も変わらないんだなぁ。

そう思いながら朝焼いてきた玉子焼きを口にした。


「そうそう!またお煎餅とお饅頭持ってきたのよ!食後にふたりで食べましょう!」

「いいですね。もう…小林先生のせいで最近自分の体重が心配になってきましたよ」

「いいのよ、女の子はちょっとぷっくりしてるくらいが一番可愛いんだから!」

「ふふ。でも美味しいからちゃんと食べますよ」


するとふと、小林先生の目に置いていたローラの携帯が映った。


「あら?彼氏から返事返ってきたんじゃない?ランプがピカピカ光ってるわよ!」

「あぁ、定期的に送られてくるメルマガなので気にしなくていいですよ」

「そうなの?男の人の名前だから、てっきり彼氏さんからのお返事だと思ったわ」

「……え?」


つられて携帯を見てみると…




『バレルさん』


この表示になっていた。



「え…?」



バレルさんから…電話!?

ガチャンッ!と大きな音を立ててローラは立ち上がった。


「ローラ先生?どうしたの?」

「ちょっとだけ席を外します!ごめんなさい!」



慌てて教員室を飛び出し、やってきたのは人通りのない裏庭。

まだ着信も切れておらず、慌てて通話ボタンを押した。



「もっ…もしもし?」

『………。』

「バレルさん…ですよね?」




『何故…そこまで俺に拘る?』


「…ッ……」


彼の声は低すぎて聞き取りにくい。

でもハッキリとそう言った。




「バレルさっ…」

『これが最後の忠告だ。これ以上、俺に関わるな』


彼の声は今まで以上に怒っている様子。

私がまだバレルさんと関わりを持とうとするから。

でもどうしていきなり電話なんか…今までメール返信の一通も来た事なかったのに。



『いいか。今後一切俺に近づくな。俺のアパートにも来るな。俺がいなくてもだ。

来たらどうなるか…わかってんだろうな?』


威圧感のある男の声。

ローラは息をゴクンと飲み込んだ。




「バレルさんは、それでいいんですか?」


『……ッ…』


彼女の言葉に迷いはない。

緊張感さえあるものの、彼に対して「怖い」という感情は少なからずなくなっていた。

あの時、私は決めたから。

何があっても…バレルさんを見捨てない。

辛くても嫌われても酷い事を言われても…深く傷つけられたって。


「私は貴方に会いに行く事はしなくても、アパートには通い続けます」

『いい加減にしろ。貴様には理解能力がねぇのか?』

「貴方がケンカをやめてくれれば、もう今後一切貴方には関わりません。でも、やめなければ…私は通い続けます」

『ふざけんなよ…。今度会ったら本気で潰すぞ』

「潰したければ潰してください。貴方に…それが出来るのなら」

『………ッ…』




ブチッ




ツー

ツー




バレルが一方的に通話を切ったらしい。

彼女はそっと携帯を耳から離した。










……………






「クソがッ…!」


誰もいない自分の部屋。

バレルは通話を終えた後、ベッドに携帯電話を叩きつけた。


「ハァッ…ハァッ…」



指先がピクピク震えて呼吸が荒い。

普段絡まれる不良達には見せない怒りの表情だ。


「チッ」


ガシャアアアアンッ!!Σ


テーブルを足で強く蹴飛ばし、激しい音が。










バレルさん。今日雨上がりに虹が出ていました。
上手く写真が撮れたのでおすそ分けしますね。


バレルさん。日本にはこんなに可愛らしい花が咲いています。上手く撮れたのでお送りしますね。



小さな傷を負った時は絆創膏ではなく空気が入らないようラップを巻くと傷の治りが早いようです。
機会があれば一度試してみてください。







俺に虹の写真を送ってどうなる?

俺に花の写真を送ってどうなる?

貴様が怪我をするわけでもないのに、んな事覚えてどうすんだ…?


壁に立て掛かっている鏡。

その中に自分の姿が映っている。


「チッ」


ガシャンッ!!!


拳でその鏡を割ると指が切れて血が出てくる。

それでも彼の中のどうしようもないムシャクシャが鎮まらず…

その怒りの矛先は壁へ。


ガシャン!

ガシャン!



ウゼェ…ウゼェ…




何度も壁に拳をぶつけ、血の跡が色濃く残る。


最後には激しく額を押し付け


そのまま呼吸荒くズルズルと堕ちて膝をついた。


- 513 -

*PREV  NEXT#


ページ: