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ガシッ






ガシャアアアアアアンッ!!!



「グハッ!」

「んはっ!」


何者かがクマ男の後頭部を掴み、そして後ろへ強く叩きつける。

それと同時にローラも地面へ振り落とされて倒れ込んでしまった。




「ゲホッ!ゲホッ!!…ッ…!」



舞う土煙。

痛みと恐怖で足が動かない中、なんとか目を開けて首を上げる事だけは出来た。


彼女の目に映ったのは…




「…………。」



バレルの姿だった。




「ウソっ…どうして……ッ!」


メールッ…?

私がさっき送ったメールで…!



「ハグッ!」


考えていると、いきなりクマ男から首を掴まれて持ち上げられた彼女。


「クッソ…女だけバックレて逃げんぞ!!」






ギロッ




ガシッ!!


「痛ッ!」


男の左腕をバレルが強い力で掴みかかり、その痛みで手を放されてローラはまた地面へ振り落とされた。


「イテェ!何すんだテ…」



ガシャアアアアンッ!!!


顔面に足蹴りを食らわせ、痩せ型の男は飛んできたクマ男の下敷きになった。



「クッソ、テメェエエエエ!!!」



ガシャンッ!!Σ

ガシャンッ!!

ボコッ!!Σ

ガシャンッ!!Σ

ズドッ!!


「グハッ!!」

「ガァッ!」

「グッ!!」



地面に這いつくばっている男達を、問答無用で踏みつけるバレル。

顔や腹。胸。背中。

何度も何度も…

終わりが見えないくらい。







違うっ…今までのバレルさんじゃないっ!





彼は自分に襲ってくる人を攻撃しても、地面に倒れて戦力のない人を容赦なく傷つけたりするような人じゃなかった。

それなのにっ…!!



ガシャンッ!!

ガシャンッ!!

ボコッ!!Σ

ガシャンッ!!Σ

ズドッ!!


「グッ!!」

「やめっガァッ!」

「ガフッ!!」

「タスッ…助ケッ…グァッ!!」

「ゴボッ!グボボッ!」





痩せている男の人が血まで吐いた。

それなのに…

それなのに…!



「バレルさんッ!!!Σ」



ガシッ!!



腕を掴まれ、バレルの足が既の所でピタリと止まる。

後ろには涙目になりながら必死にその腕にすがるローラの姿が。



「やめてくださいっ…これ以上やると…本当に死んでしまいます!」

「…………。」

「もうこの人達は戦おうとはしていません!もう傷つける必要もないです!」


砂まみれの手でギュッと彼の服を掴む。

頬には地面に振り落とされた際に出来た擦り傷が。

強く強く、服にシワが出来るくらい握った。









「…わかった」





ようやく足を引いた彼。




ゴクンッ…


息を飲んで、ローラは手を慎重に離した。


「救急車を呼んでっ…私達はここから離れましょう…」

「…………。」

「バッグ取ってきます」



足元が覚束ないまま遠くに落ちているバッグまで走り、中から携帯電話を取り出す。

不良の人達をこのままにするわけにはいかない。

悪い人達だけど…ちゃんと手当てをしてもらわなきゃ。

鼻水を拭きながら震える手で携帯を開き、番号を…


バレルもローラの方向へ歩いて来ていた。









































ズドーンッ!!!!!!!!!Σ




























「……え?」










聞き慣れない激しい音。










まだ番号も打ち終わっていない。












恐る恐る振り返ると…



















バレルが血を流して地面に倒れていた。













「……………。」










状況の判断も出来ず、呆然として涙も出ない。





「へッ……へへへへ…」





倒れているニット帽の男の手には…銃が握られている。

興奮しているのか耳まで赤くし、不気味に笑ったまま止まって。



「ハッ……ハハハ…ハハ!!!やったぜ、ついに俺はッ……




ヒャアアアアアアアッ!!!!!!」





奇声を上げながら逃げ出す男。








バレルさん…?



嘘でしょ…?






「バッ……バレルさんッ!!!!」



ローラは握っていた携帯電話を捨て、すぐさま彼の元へ駆け寄った。






「ハァッ…!ハァッ!…グアァァッ…!」



地面にドクドクと流れ出している赤い液体。

聞いた事もない、苦しみ悶える彼の声。

あんな怪我をしても声ひとつ漏らさなかったこの人が…!


「バレルさんッ!しっかりしてください!!」


どうやらわき腹を撃たれたようだ。

急所は外しているようだが、このままだと危ないっ…!



「バレルさん!バレルさん!」


彼の手を握ると、激しい痛みからか強い力で握り返してくる。


「ハァッ!グアッ…ガッ…!!!」


悶える手でローラの服を掴み、彼女の体にすがるとあっという間に手や服が血で真っ赤に…


「バレルさん!!」


その大きな銃声に野次馬が徐々に公園に集まってきた。






―…え?人が撃たれたの?

痛そうー。大丈夫かな







「早く!見ているのなら誰か早く救急車を呼んでくださいッ!!」


無我夢中で野次馬に叫び、先頭にいたおじさんが慌てて電話をかけ始めた。

でも救急車が来るまで最低5分はかかる。

その間にも血は見るに堪えない程止まらない…!




ふと、日本で読んでいた本の事を思い出した。


『怪我の対処マニュアル』


これだっ…


急いで止血をしないと!



確か本には、布のようなもので強く抑えて圧迫し、出血を止める…



でもっ…そんな抑えるような布なんて今はないっ…!!!



どうしよう!



どうし…




「………ッ…」



そこでローラの目にある物が映った。


倒れているバレルのジーンズのポケットから何か少しはみ出している?


それは彼女にとっては、とても見慣れたあるもの…



何も考える余裕などなく、慌ててポケットからソレを取り出した。












「バレルさッ……ん…ッ…」









いきなり溢れだしてしまう大粒の涙。


ローラはその涙で目の前が霞みながらも、ソレで必死に傷口を抑えた。





*****




「バッ…バレルさん、大丈夫ですか!?」

彼が倒れている不良に背を向けると、ローラが慌てて駆け寄ってきた。

目にはまだ涙が溜まっており、手に震えが残っている。


「血が出てるじゃないですか…!見せてください!」

「いい」

「ダメです!早く病院に…」

「………。」


眉間にシワを寄せて見てくる彼に、ローラはビクンと体を小さくして取り出したハンカチを引っ込めた。





手は動いていた。

ローラが持っていたハンカチを奪い取り、勝手に頭の血をそれで拭き始めたのだ。


「あの…」

「なんだ?」

「あっ…いえ…」


ハンカチは彼の鮮血ですぐに真っ赤になり、彼女はまた少しだけの恐怖にかられドキッとしてしまう。

するとある程度拭いた所で、バレルはそのハンカチを彼女に返す事もなく、自分のパンツのポケットに突っ込んでしまった。


「っ…。あの…」

「新しいのは俺が買う」

「えっ…?」


*****






最初に私達があの不良の人達に襲われた時。


頭を負傷したバレルさんに私が渡したハンカチ。


そのハンカチが…彼の服のポケットに入っていた。



強面なこの人には似合わないお花とハート柄のハンカチッ…


綺麗に洗濯して、畳んで…


ずっと持っていてくれたんだ…。







「ググッ…!ハァッ!アァッ!!ガッ…!」

「バレルさん!もうすぐ救急車が来ます!頑張ってくださいっ…」


ローラの涙がバレルの服に何滴も落ちる。

血と涙が混ざり合い、それでも色は真っ赤のまま。


「ハァッ…!ハァッ!グハッ…!グッ…!」

「バレルさんっ…!!お願い、死なないで!バレルさん!!」



徐々に呼吸が乱れ、目の前で弱っていく彼。

血まみれになったハンカチで傷口を抑え、ローラは何度も何度も何度も公園の真ん中で叫び続けた。


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