……………

雨宮に別れを告げたクラウディは、宣言通り2階へ上がり大きな本棚をいくつも通り過ぎていた。

そして手に取った本。

最近ハマッている推理小説だ。

なんでも、大人だった探偵が謎の毒薬を飲まされ子どもに戻り、その姿のままあらゆる事件を解決してゆく新感覚ストーリー。

これが一度読み始めると止まらなくなってしまった。

よかった。最後の一冊だ。ギリギリセーフ。

口には出さないがそう言いたげな表情で端をつり上げた。

あとはこの本をカウンターまで持っていき、このカードで借りるだけ。




「…………ッ…」



歩き出した直後。

カウンターを目指すクラウディの目に、偶然あるひとりの女性の後ろ姿が映った。

テーブルで一冊の絵本を読んでいる彼女。

あの絵は…


自然と彼は女性の方へ向かって歩き出していた。





「Er det interessant?(面白いですか?)」

「…ッ…」






ふとクラウディを見上げた女性。

突然、知らない国の言葉で話しかけられ戸惑うかと思いきや…



「Det er veldig interessant(とても面白いですよ)」



彼の顔を見た後、微笑みながら同じ言語で返してきた。


クラウディが何気なく話かけた女性。


彼女の手には彼の母国、ノルウェーに昔からある絵本が握られていた。


「自分、ノルウェーの出身なんです。小さい頃からこの本は大好きでした」

「そうなんですか。この主人公の男の子が健気で可愛いんですよね」


この可愛い表紙の一冊の絵本。

主人公の10歳の男の子が大人の女性に恋をし、彼女に想いを伝えようとプレゼントを探してまわる物語。

クラウディも小さい頃によく読んでいた子ども向けの本だ。

白水玉のマフラーと赤い洋服が特徴の男の子の表紙は、恐らくこの国の人間なら一度は見た事のあるもの。

その懐かしさに惹かれ、いつの間にか彼女に話しかけていたのだ。


「迷惑でなければ、隣…いいですか?」

「もちろん」



彼女はローラさんという名前の女性。

自分より少し年上だが、そうは見えないくらい可愛らしく、小柄でなにより清楚で賢そうな人だった。

長い桔梗色のパーマがかった髪を横で結っており、口元のホクロがとってもチャーミングだと感じる。

話を聞くと、彼女は普段日本に住んでおり、将来は向こうで教師として働きたいと小学生に英語を教えながら勉強をしているらしい。

ヨーロッパの文化にも興味があり、この国の本を気に入ったローラさんは、
手に持っているその絵本を、自分が教えている日本の学校の子ども達に教えてあげたいと考えていたようだ。



「クラウディ君は…学生?」

「はい。普段はその…副業をやっているのですが、一応高校生です」

「副業?何をやってるの?」

「まぁ…音楽関係…」


ローラさんはその辺りのメディアには疎いらしく、自分の存在も知らなかった。

だから黄色い声を上げたりしないし、普通の友達のように自分に接してくれる。

本を読む事が好きという共通点もあり、彼女とはすぐに打ち解けあう事が出来た。

好きな本の話。ノルウェーの話。日本やアメリカでの生活の話。

何時間も色んな話をした。

その途中、彼女はなんとあのジムさんの妹だというビッグニュースも発覚したが、
そこの繋がりの話をすると自分が芸能界で活動している事もばれてしまいそうだったし、あえてお兄さんとの繋がりは秘密にしておく事にした。


彼女はとても頭が良く、話をしていて非常に心地が良い。

途中自分の宿題なんかも見てもらったりしたら、すっかり問題が解決して…

家庭教師にも向いていそうな人だと感じた。




「凄い!自分、この問題全然わからなくて」

「このくらいなら教えてあげられるよ」


優しく笑う彼女。

ジムさんがシスターコンプレックスだという話を雪之原から聞いていたが。

そうなる気持ちもなんとなくわかる気がする。



「ローラさん」

「何?」

「この図書館にはよく来るんですか?」

「アメリカに帰ってくる度に通ってるよ。この場所は静かだしたくさんの本もあるし、私が一番落ち着く場所」

「自分みたいなハンサムな男の子とも出会えるし?」

「はは!それもあるね!」

「冗談ですよ」


クスクスと笑い合うふたり。

一時して彼女は腕時計を見るなり「帰らなきゃ」と呟いて席を立った。


「ありがとう。今日はとても楽しかったよ」

「自分も楽しかったです」

「ふふ。また会えるといいね。じゃぁね」


お昼の12時。

まるでシンデレラが帰ってしまうように彼女は自分の前から姿を消した。


また会えるといいね…


その言葉がクラウディの頭に何度もよぎっていた。









コツッ

コツッ



「あ!ディ!どこ行ってたの!?探したんだよ!」


一階へ戻ると、本を並べて大きなテーブルを占領していた4人組がこちらを見る。

美空は席を立ってクラウディの方へ駆け寄った。


「もー!全然帰って来ないから宿題が嫌で逃げたのかと思ったし!」

雨宮「逃げたのはお前だろ」

「皆でやってるから一緒にやろーよ!もう、ミヤ君の説明難しくてー!」

「…♪」


ヒラッ(ノートを見せびらかす音)


「………ッ?あれ?ディ、全部終わってるじゃん!いつからそんな頭良くなったの!?」


「写させて!」と、飛びついてきた美空の手をクラウディは華麗にかわしてみせた。


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