……………


「クラウディ。ちょっといいか?」

「?」


あの日から約一ヶ月後のある日の朝。

日晴や美空が部屋の隅でゲーム対戦をしている声が聞こえる。

音楽事務所で靴を履き直している途中、クラウディは雨宮から突然呼び止められて振り返った。


「お前にベストドラマー賞受賞の知らせが来ているんだ。凄いな。さすがクラウディだ」

「…ッ」



ベストドラマー賞とはアメリカ音楽協会が毎年選ぶ、今年最も活躍したドラムアーティストに贈られる賞だ。

年に極わずかな人数しか受賞出来ない、ドラムをやっている人間なら誰もが憧れる賞。

その話が今年初めてクラウディにやってきたのだ。


「それでもし受けてくれるのであれば、午後から会ってその話をしたいと協会から依頼が来ているんだがOKしてもいいよな?」

報告をする雨宮もなんだか誇らしげ。

なにせ自分のバンド仲間が、これほど大きな賞を勝ち取る事が出来たのだから。

しかし、肝心のクラウディは…

「…………。」

「っ…?」


靴を履いて立ち上がった彼は、その答えとしてまさかの首を横に振る回答を出したのだ。


「えっ…まさか、受賞を辞退するのか?」

コクリと頷く彼。


「どうしてだ?こんな名誉ある賞、滅多に取れるものじゃ…」


ニコッと笑い、クラウディは雨宮の肩を軽く叩く。


自分はドラムが好きだからやっているだけ。

名誉ある肩書きが欲しいからやっているんじゃない。

そんなものを貰ってしまえば、自分がドラムをやっている意味が変わってしまう気がした。

それにこんな考えを持っている自分が貰うより、もっとこの目標に向かって努力をしている人に貰われる方がトロフィーだって嬉しいに決まっている。


だから、そんなものいらない。



それに…



自分には今日やる事がある。

それは今日しか出来ない。


そんな仕事に縛られている人達との面会よりも、もっともっと大事な…


自分の仕事。



「そうか。まぁ、それもお前らしくていいかもな」

クラウディの気持ちが読みとれたのか、雨宮も納得してくれた様子。

背の高い彼はまた優しく笑い、そして玄関から外へ出て行ってしまった。



雪之原「クララ、ベスドラ賞断ったのぉ?勿体ないねぇ、代わりに僕が貰ってあげようかなぁ」

雨宮「ピアノしか弾けないお前が貰えるわけないだろ」

日晴「それにしても、最近クラウディさんよく出かけるっすねぇ」

雨宮「そうだな。恐らく図書館だろう。よく通っているようだし」

美空「あ。そういえば一昨日ミヤ君に連れて行かれた時もディいたね!なんか色んな本を一生懸命かき集めてたみたいだけど…何してたのかな?」

日晴「あれじゃないっすか?ハマってる名探偵の小説」

美空「いや、それが漫画とか小説コーナーじゃなくて別のコーナーにずっといたの!なんか…暮らしや生活に役立つ本とか、お料理本とか…」

雪之原「ついに主婦になりたくなったのかなぁ?」


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