……………


「ディ、大丈夫?今日MCの時寝てたの?」

コンサートが終わった直後、クラウディに話しかけてきたのはボーカル担当の美空だ。

自分の集中力の無さに申し訳ないと思ったのか、彼は眉を下げてペコッとお辞儀をする。

ごめんねって言ってるのかな?


「いいよ!最近仕事でバタバタしてたし、大好きな図書館にも行けなかったみたいだしね!」


それは違うけど。

図書館には自分からもう行かないと決めていたし。

心の中でクラウディがそう考えている事なんて美空は知らない。


「ま、明日っから休みだしゆっくりしなよ♪そうだ!よかったら僕と一緒に女狩りに行く?」

「行かない」


























「うああああああッ!!見た!?ミヤ君、今聞いた!?ディが喋ったよ!」

「は?そんな訳ないだろ」

「言ったんだって!凄いドスの効いた声で『行かない』って言ったんだって!ねぇ、信じてよ、ミヤ君!!」









「………ッ…」


慌てる美空をよそになんとなく上着のポケットから携帯を取り出すと、オレンジ色のランプが点滅していた。

メールか着信があった証だが、クラウディがその内容を確認すると…


「ねぇ、信じてってばミヤ君〜っ!」














着信
ローラさん
19:53











今から丁度20分前にローラさんから着信が入っており、呑気に騒いでいる美空の傍でクラウディの表情が変わる。


何故、今頃っ…?


とりあえずチームメイトから離れた場所へ隠れるように去り、人気のない廊下で誰もいない事を確認して通話のボタンを押した。




プルルルルッ…


プルルルルッ…



カチャン


出た。




「ローラさん?クラウディです」

「…………。」


名前を名乗ったが返事がない?

出ている…よね?



「ローラさん…?どうかしたんですか?」

「……ッ…」


なんだか…しゃっくりみたいな。

鼻をすするような音が聞こえる。


もしかして…泣いてる?


「ローラさん…?何かあったんですか?」





「クラウディ君っ…わ、たし…」



やはり泣いている。

何かあったに違いない。









「ねぇ〜!クララ知らな〜い?お客さんが来てるんだけどぉ」

「あれ?さっきまでここにいたのに。ディ〜!どこ行った〜?」




マズい。

自分を探す声だ。


もっと誰にも見つからない、入り組んだ場所に隠れないと見つかってしまう。


クラウディは慌てて非常口から外へ飛び出し、設置された階段を下りる。


そしてすぐ傍にあった物置の中に急いで隠れた。





「クラウディ君…?」

「話して?」

「いいよっ……なんか忙しそうだし」

「大丈夫です。話してください」



周りに箒や塵取など掃除道具が収納されている、電気もない真っ暗の物置の中。






「……はい。


……はい…」



彼女の話を聞いているうちに…再び、またあのどうしようもない怒りが込み上げてきた。

いやっ…今は前の時よりももっと強く。


あの純粋で優しい彼女の前で人を殺す勢いのケンカをし…

挙句ローラさんの胸ぐらを掴んで…



信じられなかった。

その男は彼女の恩も思いやりも全て踏みにじる最低の人間。



「私…どうしたらいいかわからないよっ…」


電話越しの彼女は失意のどん底にあり、言葉にするとその場面が蘇ってしまうのか余計に泣いてしまう。


今すぐにでも彼女の元へ行き

抱き締めてあげたい。



何故、自分はこんな場所にいるんだ。



何故、自分と彼女との距離はこんなにも遠い?






「ごめんなさい…。クラウディ君は何も関係ないのにっ…

でもこんな話…他の誰にも出来なくて…」

「ローラさん…」


なんと言ってあげればいいのかわからない。


『元気だして?』『負けないで?』

そんな誰にでも言える薄っぺらい言葉、軽々しく口に出来ない。

じゃぁ『そんな男もう近づく必要はない』『その男は最低です』

深く傷ついた今の彼女にそんなトゲトゲしい言葉…言えない。

そしてひとつだけ、出てきた言葉が…



「…ごめんなさい。何も…言えなくて」


謝る事だけだった。


「ッ…いいの…。誰かに聞いてもらえただけで…ごめんね。いきなり電話して…」

「…いえ。すいません」

「ありがとう…。じゃぁ…切るね…」



プチンッ…


ツー

ツー




切れてしまった電話。

せっかく久しぶりにローラさんの声が聞けたのに。


携帯を耳に当てたまま、クラウディは力なく埃まみれの床に座り込んでしまった。



自分が…情けない。

何もしてあげられなかった自分が。

こんな時、傍にいる事さえ出来ない自分は無力だ。



思い出してしまう、図書館にいた頃の彼女の笑顔。

悔しい。

自分はこんな小さな小屋の中で塞ぎ込む事しか出来ない。

普段こんなにも周りに頼られる存在だと正直思っていたのに。

自分の一番大切な人には結局何もしてあげられない。



ローラさん…


ごめんね


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