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……………


「……………。」


「ディ!ディってばー!」

「……ッ…」


weather lifeの音楽事務所。

窓際に立って本を読む事に夢中になっていたクラウディは、目の前にいる美空の話しかける声に全く気がつかなかった。


「あ、やっと気づいた!この距離なのに全然気づかないんだもん。僕、ついに透明人間になれたのかと思ったわー!」

雪之原「存在が薄くなったんじゃないのぉ?」

美空「ちょっとー、ジムさんになりかけてる感じ?やめてよー」





……………


ジム「ヘグシッ!」

ビッキー「風邪?移さないでよー!」

ジム「心配してくれ」


……………




ぽかんと周りのメンバーの話を聞いていたクラウディ。

すると美空が学校で使用しているノートや教材を取り出してそれを見せてきた。


「ねぇ!ディ!また君の大好きな図書館に5人で行こうよ!宿題また溜まっちゃっててさぁ、教えて欲しいんだけど!」

雨宮「宿題なら僕が教えてやると言っているだろう」

「だってミヤ君、例えが難しすぎて全然わかんないんだもん!何?この間の計算式の解き方。
『この眼鏡の右フレームの角をXとして、左側の角をYとする。すると中央にある眼鏡のブリッジ中心がa点となり、ここから伸びるモダン(耳かけ)の先がbダッシュに…』
もう意味わかんねーよ!なんで数学の計算式の例えが眼鏡なの!?」

「答えがよく見えるからだ」

「上手くねーし!なんかウザいんだけど、この人!」





図書館か…。

そういえばもうあの日以来、一度も足を運んでいない。

あの場所は確かに自分の好きな場所だ。

でも…


周りが言い合いをしている中、こっそりと携帯電話を開いた。












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クラウディ君。
私、少しだけだけどバレルさんと打ち解け合う事が出来たよ!

応援してくれてありがとう!
これからも私の支えになってください。

ローラ
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先週、彼女から届いたメールだ。

一緒に夕食を食べてから数日後、彼女は自分の力であの男性と打ち解け合う事が出来たらしい。

何があったのかは知らないけど、全て彼女の力だ。

自分は何も手を貸していない。

文章を読む限り、まだ深い進展はないのだろうが、少しずつその男性との距離を縮める為にこれからも努力を続けるそうだ。




「……………。」

「ん?どうしたの、ディ」



なんでもない、と、静かに横に首を振るクラウディ。

あの図書館は大好きな場所。

だけど今は…好きだった女性の姿を思い出してしまう辛い場所。

彼女のいつも座っていた席。

彼女が読んでいた本。

全部…思い出したくなくても脳裏に蘇ってしまう。

だから、今まで足を踏み出す事が出来なかった。


「ねぇ!ディ!行こう行こう!」

「♪」


子どもみたいに強請ってくる美空の頭を撫でてクラウディは頷いた。


「よし決定!早速行くとなったらミヤ君の眼鏡をかけて出発だー!」


クラウディは読みかけていた本に栞を挟み、ぱたんと静かに閉じた。

この本はローラさんに生活知識の本を渡した時に一緒に渡そうと思ったけど、結局そうしなかった最後の一冊。

あの雪だるま刺繍の大きな紺色バッグにずっと入れたままだった。


結局最後は…自分が読む事になっちゃったな。




クラウディが自分の選んだ本を渡す為に彼女を図書館へ呼びだしたあの日。

彼は本を5冊ではなく6冊持ってきていた。



『人の心の解きほぐし方』

『栄養バランスを補える食材』

『人はひとりじゃない』

『怪我の対処マニュアル』

『男性でも簡単!お手軽健康レシピ』



そして最後の一冊。





『失恋から立ち直る50の秘訣』




ローラさんがその男性と上手くいかなかった時の事を考えて選んだ本だけど…

希望に満ちている彼女にこんな本を渡せるわけがなかった。

いや、少しでも自分の中に…結ばれないで欲しいという黒い気持ちがあったのかもしれない。

表紙を見つめ、そして小さく息を吐く。


まるで小説のような恋。

自分の恋は叶う事はないだろうけど、これからも好きになった女性の幸せを願いながら本を読み続ける。


そういえばあのノルウェーの絵本。まだあったかな。

図書館に行ったら、久しぶりにあの絵本を読み返そう。






To:Rola
From:Cloudy
件名:Re:Historien om dagen
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Congrats!
(おめでとう!)

Du, du ler gjøre det alltid
(貴方はいつもそうやって笑っていてください)

Deres liker møter du smilende er den beste :-)
(自分は貴方の笑った顔が一番好きだよ)


Cloudy
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fin


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