……………



僕はもう何時間、この場所にいるんだろう。

携帯はいつの間にか僕の言う事を聞かずに、画面は真っ黒のまま動かなくなってしまい…

ボビー君からの連絡も途絶えた。

そういえば…もうすぐ理事長と会議の時間だった。

遅刻したら怒られるだろうな。


それにしても寒い。

寒すぎて体まで言う事を聞かない。

瞼が徐々に重たくなってくる。

まるで雪山で遭難して、死を待つ最期の哀れな人間の気持ちだ。
(※バイク事務所玄関)






…社長!


社長!―――




あれ…。

なんだか聞き覚えのある声が聞こえてくる。


うっすらと視界に光が入る。

何人かの集団がこちらへ走って、その先頭の男性が僕の名前を呼んでいた。



何度も話した事のある人。

平凡な青がかった髪に、どこにでもいそうな顔。


あれは…えっと…


…あれ?


誰だっけ…?












ジム「社長!やっぱり門の前で死にかけて座ってるの、ウチの社長だぞ!」

「まさかホントにずっと待ってたなんて!」


見えてきた、本部前の門に小さく座るオッサンがひとり。

誰もこの組織の頭領とは思えない程、小さく弱々しくうずくまっている。


「ジム!一体何なんですか!?」


訳がわからないリッキーが前を走るジムに問いかける。


「お前がチンタラ遊んでいる間に、社長は寂しさとこの寒さの中、ずっと俺達を待ってたんだよ!」

「え!?俺、遊んでなんかいませんよ!」

「野良猫の写メ撮りながらキャビア食ってただろーが!あともう少しだ!いいから走れ!」




「なんでそれをっ…うわっ!!」















社長君…!!

僕の社長君!








ボビー君の声。


嗚呼…ボビー君がやっと迎えに来てくれたんだ。

だんだんと近づいてくる、まるでハンバーグのような丸い形に茶色の焦げたような…





「みん…」




ブチャァァアアアアッッ!!



こちらへ飛んできたソレは、瞬く間に社長の顔や体。

目や鼻の穴まで飛んできた。


ツンとした匂いの、ボビー色の液体。










リッキー「…あ」




ジム「『あ』じゃねーよ!何すっ転んでんだ、お前!!!」


社長を助ける直前、彼の元に駆けていた6人だが

リッキーだけが石に躓いて転倒し、そして手に持っていたソレをビニール袋ごと撒き散らしてしまったらしい。

命がけで買ってきた





『濃口醤油』





ジム「しかも間違ってんじゃねーか!!
ウスターソースって言っただろ!なんで醤油買ってきてんだ!」





寒さと寂しさで弱っていた社長にその醤油が丸ごと一本ぶちまけられ、顔は醤油まみれ、スーツもまっ茶色でベチャベチャに…。



「…………。」

「あ……あのっ…社ちょ…」



黙り込んでしまう我らの頭領。

ヤバい…。

さすがにこればかりは、温厚なこの人もっ…




「ボビー君!!!やっと来てくれたのかい!」


予想は大ハズレ。

社長はボビーの顔を見た途端、まるで花が咲いたような笑顔で立ち上がった。


ジム「えっ…しゃちょ…」

「待っていたよ!もう来てくれないかと思って泣きそうだった!はい、先日の資料だよ」

ボビー「うむ。ご苦労」

ジム「あのっ…社長…」


「わっ!いっけね!もうこんな時間だ!会議遅刻したら理事長に怒られちゃう!
あの人怒ったら本当怖いよね、ナイジェル君。唾いっぱい飛んでくるし」

「……えっ…あの…」


「だよね!ギリギリに帰ってきてくれてよかった!
じゃぁね皆!また連絡するよ!来週のレース、頑張って!」


テロテロッと謎の足音の効果音を立てて、慌ててその場を去っていく30代のオッサン。

たったこれだけの為に何時間もずっと待っていたのか…。

はたまたそれ程ボビーに会いたかったのか。



ビッキー「っていうか叔父さん。醤油ぶちまけられたの気づいた?」

サラ「気づいてないんじゃない…?あの様子だと」

ナイジェル「あの格好のまま会議に出んのか。何かの事件に巻き込まれたと思われて逆に怒られないかもしれねーな。俺も今度実践するか…」


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