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……………
あれから数日経った日曜日。
ウィンディラン一行が集まっていたのは、海沿いのとある小さなバス停だ。
ジムが腕時計で確認すると、時刻は午後2時前。
そろそろアイツらも来る時間だな。
「まだかな?まだかな?」
「もうすぐで来るだろうからお前は少し落ち着け」
「だって!スッゴく楽しみじゃーん!」
「ビッキーちゅぁん!僕だってもちろん楽しみだよ!だって…ビッキーちゅぁんと…」
「うっさい喋んな鼻に海水流し込まれてーのか。まだかなぁ★まだかなぁ★」
恋のアタックが海水と共に打ち砕かれて絶望しているボビー。
それをよそに、毒を吐き切ったビッキーがワクワクしながら周りを見渡している。
格好はオレンジのトレンチコートに黒タイツ、厚手の毛玉がついた可愛らしいブーツを履いている。
そして手には、小さめのキャリーバッグ。
色はもちろん目立つピンク色だ。
他のメンバーもマフラーを巻いたり、ポンチョやダッフルを羽織っていたり。
ブーツに運動靴、同じようなサイズのキャリーバッグと…どうやら海で遊ぶスタイルではない。
季節も春とはいえ肌寒い3月。
まだまだ冷たい風が6人の体に吹き荒れ、筋肉を自然と縮こませる。
ナイジェル「うぅ…さみぃ。どっか建物に入ってようぜ」
サラ「建物はないけど風よけさえあればね。まぁ…そろそろ約束の時間なんだし我慢しなさい」
「あ!あれじゃない!?」
何かが見えたのか、ビッキーが道路のずっと先を指さした。
そこには…
「ビッキーちゃぁぁん!」
子どものように大きく手を振って、海岸通りを走ってくる姿。
間違いない。美空だ。
隣の一般自動車と同じくらい驚異のスピードで走ってきた彼は、ビッキーに抱きつこうとした所でジムに止められた。
「おっと…さすがにガード固いねぇ!」
「何をしでかすかわからないからな、お前は」
「せっかく僕が親切に誘ってあげたってのに冷たいなぁ!」
「誘ってあげた」というのは、先日の電話の件。
あの日、ジムの携帯に一本の電話がかかってきた。
発信元はこの男だ。
その場にいた全員が「また負の話題を持ち込んできたのか」と想像していたが、
今回の電話の内容は、普段とは全く違うものだったらしく…
「まさかオメーみてぇなクソガキが俺達に温泉旅行をプレゼントしてくれるなんてな。空から槍でも降ってくるかと思ったわ」
「ナイジェルさん、ひどーい!」
電話の内容はナイジェルの言う通り「温泉旅行のお誘い」であった。
隣の州から外れた山奥に秘湯があるらしく、そこの旅館で自分達と一泊旅行をしようという、
美空からの電話とは思えない夢のような内容で、最初に聞いた時はそれぞれが耳を疑った。
「ま!僕だって清らかで優しい心を持った好青年なんだから、いつもお世話になってるジムさん達にこのくらいのプレゼントなんて当たりま…」
「たまたま出演したテレビ番組で貰えたチケットで、たまたま人数がピッタリだったからお誘いしたんだろ」
そこで美空の後ろから走らずに歩いてきた雨宮とその他3人、そしてエマもジム達の元へ到着した。
雨宮「ご無沙汰しております」
日晴「ういっす!」
雪之原「こんにちわぁ」
クライディ「(ペコッ)」
いつものメンバー。
私服姿でもやはり芸能人は目立つな(格好良いという意味で)
雨宮は黒のコートに紺のパンツと、普段とあまり変わらない衣装だが革靴に高級感がある。
雪之原はオーカーのガウンを羽織り普段より大人っぽい印象。
日晴はボーダーのタイツを穿いていたり、クラウディは洒落たマフラーを巻いている。
weather life5人のプライベート私服姿を見られるなんて…まして一緒に温泉とは。
他のファンが聞いたら相当羨ましがるだろう。
ジム「久しぶりだな、皆!
それより七音。そーいう事か。なにが『このくらいのプレゼントなんて当たり前』なんだ(笑)」
美空「ちょっとミヤ君、そこは正直に言わなくてもいいのにー!」
サラ「ま、誘ってくれた事には変わりないんだし。感謝してるから落ち込まないの」
ジム「コイツ俺が電話に出てる間、ずっと『切れ切れ』言ってたぞ(笑)」
サラ「ジム君、そこは正直に言わなくていいのよ(怒)」
青い空の下。
冷たい海風があたる人通りのない海岸道路。
なんだかんだ話をしている間に、携帯の時計表示が2時を過ぎている事に気づいたリッキー。
「あ。もう2時過ぎてますよ。雨宮君、バスってそろそろ来るんじゃないんですか?」
「そうですね。一応14時15分に出発予定なのでそろそろ来るはずです」
すると丁度その時間に、白と青色のカラーリングが施されている大型バスが彼らの元へやってきた。
ナイスタイミングだ。
「こんにちは」
「「こんにちは」」
大型バスは12人の真横で止まり、窓から若干中年太り気味の運転手の男性が顔を出した。
「えっと…ウェザーライフさんと…その連れのお客さんかい?」
「はい、そうです」
その質問には雨宮が代表して答える。
「10…11…12…人数も全員揃ってるようだね。優秀だねぇ。じゃ、旅館まで連れて行ってあげるから、順番に乗りなよ」
皆でバスに乗って旅行だなんて…なんだか学生時代を思い出してしまうジム。
まさか大人になって、またこういう経験が出来るとはな。
「それでは皆さん、順番に乗車しましょう。
2人席のようなので誰が誰の隣に座るか適当に決めてください」
「じゃ、僕はビッキーちゃんとエマちゃんに挟まれて一番後ろに乗る〜!」
「キャッ!」
「危ねっ」
美空に抱きつかれそうになって、驚いたのかバランスを崩したエマ。
それを咄嗟に後ろにいたナイジェルが受け止めた。
「大丈夫か、お嬢ちゃん?」
「……ッ…///!」
「はは。ずっと一緒にいる割には、まだ七音には懐いてねぇみてーだな(笑)
んな危ねー男の隣なんか嫌だよな?お嬢ちゃんは俺のお膝に……イダダダダッ!」
続けてナイジェルもそう言いかけた所で、サラが彼の耳を強く引っ張った。
「馬鹿な事言わないで頂戴。アンタ達みたいな人間の皮を被った狼達の傍に易々と置けるわけないでしょ」
「…?」
…どうしたのかな?
サラさん…なんか恐い顔で男の人達に話してるけど。
耳が聞こえない故、何の情報も入ってこないエマがサラの顔を見上げていると…
あれ?
こちらを見たお姉さんの顔は、何故か先程と打って変わって緩みまくっていて…
「エマちゃん、超可愛い♪」
「…ッ!」
訳もわからないまま、体を抱き締められる。
「サラさッ…///!何してるんですか!」
「女同士はいいのよ」
そうか。
忘れていた。
サラは女性なのに、何故か小柄で愛らしい女の子が大好きなのだ。
それはそれはもう、一部には怪しい疑惑が浮上する程に。
前のホストの一件以来、小柄でお人形のようなエマをすっかり気に入ってしまったらしい。
焦る雨宮をよそに、小動物を愛でるようにぎゅっと抱き締める。
ビッキー「そうよ!そうよ!エマちゃんが狼達に食べられちゃう前に私達がこの子を守るんだから!後ろには私とサラと彼女だけで座るからね!」
美空「えっ…僕は?」
ビッキー「雨宮君がいるじゃん!」
美空「そんなぁ!何時間も野郎の隣に座り続けるなんて、僕もう干からびて死んじゃう!せっかくの温泉旅行なのに〜」
結局、座席のペアは男は男の隣に座る羽目になり、女性陣はまとめて後ろの席へ。
午後2時15分丁度。
12人全員が乗り込んだバスは、その秘湯がある温泉旅館に向けて走り出した。
「雨宮君。その旅館までは片道何時間くらいなんですか?」
「約3時間程ですね。旅館到着予定は17時頃となっています」
「んな長い時間ずっと座ってなきゃいけねーのか。ケツが痛くなるな」
リッキーとその隣に座っているナイジェルが、後ろの雨宮に話しかけている。
「これから行く旅館『なごみ荘』はまだ創立して10年と歴史は浅いですが、日本人が営む本格的な和の旅館という事でアメリカ中から注目を集めています」
美空「着物の綺麗なお姉さんもいるのかな!?」
雨宮「お前は旅行が決まってからそればかりだな…」
日本式の本格的な旅館に宿泊するのは、バイク組にとっても初めての経験だ。
想像するだけで胸が膨らみ、ますます楽しい旅行気分になってしまう。
まだ着いてもいないのに、こんなにワクワクするなんて何年ぶりだろう。
日晴「ねぇ!旅館に着くまで長いんすから、なんかゲームしましょうよ!」
美空「お!いいねぇヒーちゃん!僕、PSP持ってきたよ」
ジム「俺達が持ってないから(笑)やるとしたらもっと普通のゲームだろ?しりとりとか山手線ゲームとか」
日晴「まぁそれでもいいっすけど、もっと斬新なゲームやらないっすか?回転式座席跳び渡りゲームとか!」
雨宮「なんだその遊びは。確実に怪我人が出るだろ。そうだな…暇が潰せるゲームか…」
雪之原「リツ君に考えさせても、メンコかゴム跳びしか出ないでしょぉ〜?」
雨宮「僕をいつの時代の人間だと思っている」
ボビー「じゃぁ、恐怖の『ぼびざしりとり合戦』やるかい?負けた人は全身ボビ刺しの刑だよ」
ジム「よーし、皆で回転式座席跳び渡りゲームをやろうぜー」
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