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バスに揺られながら3時間。
地獄のしりとりゲームを続けていた一行を乗せたバスは街路を抜け、入り組んだ森の小道に入り…
ようやくそれらしき建物が見えてきた。
思ったよりも小さく上品な、まさに隠れ家的旅館。
こじんまりした門をくぐり抜け、駐車場の白線の中で、ずっと回り続けていたタイヤは動きを止めた。
「着いたっすか!?」
「わぁ。まさに隠れた旅館って感じだねぇ」
窓から日晴と雪之原が顔を出す。
静かで優しい雰囲気は、まさに「なごみ荘」というネーミングがピッタリだ。
運転手から促されバスを降りると、旅館の中から20代くらいの綺麗な和服姿の女性が出てきた。
「遠い所ようこそお越しくださいました」
「weather lifeの雨宮です。本日12名で予約をしていたのですが」
「はい。承っております。私、『なごみ荘』若女将の松本と申します。よろしくお願いします」
「松本」と名乗ったその女性は丁寧に深々と頭を下げる。
黒髪とよく似合う淡い青の着物。
そして右目下にある泣き黒子が魅力的な女性だ。
ナイジェル「良い旅館だな」
美空「同じく」
サラ「…あそ」
「長旅でお疲れになられたでしょう。すぐ、お部屋にご案内します」
「はい。お願いします」
玄関で靴を脱ぎ、若女将に案内されて廊下を進む。
途中書道の掛け軸が飾っていたり、内装も見るからに「和」そのもの。
所々見える庭には、鹿威しや狸の置物が設置してある。
「ご希望通り、窓側の一番眺めの良い大部屋と小部屋を一部屋ずつご用意しております」
「ありがとうございます」
美空「え、なんで二部屋?大部屋に皆で泊まればいいじゃん!」
雨宮「お前にはデリカシーというものがないのか。男部屋と女部屋を一緒にする訳にはいかんだろう」
ビッキー「えぇー!それじゃリッキーを夜中に襲えない!」
リッキー「雨宮君、その大部屋に鍵は付いてますか?汗」
「さ、着きましたよ。こちらがお部屋になっております」
「おおお!」
案内されたのは「桜の間」と名前の付けられた大部屋と、その隣の「撫子の間」という小部屋。
どちらも部屋に大きな窓が設置されており、緑の生い茂る美しい自然を一望出来る。
床も一面畳張りで木彫りのテーブル、端にテレビと、部屋の大きさは違えど作りはほぼ同じ。
「キャァァアッ!」
「キャホー!!」
真っ先に大部屋に飛び込んだのは、ビッキーに美空、ボビーに日晴とやんちゃ精神全開の4人だ。
「スッゴい景色綺麗だよ!ジャイムもおいでよ!」
「ジムだ」
「スッゲェ!叫びたいっす!窓開けて大声で叫んでいいっすか!?」
「響介、周りに迷惑だからやめろ」
ガララララッ!(窓を開ける音)
ボビー「僕のビッグマグナ…(強制終了)」
あまり見慣れない畳の部屋。
案内された一同は、とにかく大盛り上がりだ。
「ふふ。今日は貴方方以外お客様はおられませんので、思う存分お休みを満喫されてください」
「ありがとうございます、若女将さん」
「あ、そうだ。美味しいお茶菓子があるんです。お持ちしますので少し待っていてくださいね」
「わぁ。わざわざありがとうございます」
ジムが頭を下げると若女将も優しく微笑み、正座をしたまま戸を閉めた。
あの閉め方も日本の「礼儀作法」というものなんだろう。
とりあえず、撫子の間に荷物を置いた女性達も一旦は大部屋に移動し、これからのスケジュールについて話し合う事にした。
真ん中にあった大きなテーブルを退かし、12人が輪になって畳の上に座る。
「やっぱり!まずは温泉でしょ!?」
ビッキーの第一声。
それに便乗して、雪之原や日晴が手を上げる。
「さんせ〜い。もう、ずっとバスの中で座りっぱなしだったし疲れちゃったぁ」
「俺も温泉入りたいっす!お湯の温度は48度で!」
雨宮「湯加減はお前じゃ調節出来ん」
ジム「というか…熱くね?いつも君はそんな罰ゲームみたいな熱湯風呂に入ってるの?」
アダルト組も首を縦に振り、「温泉」という選択肢には賛成らしい。
ナイジェル「ゆっくり湯に浸かりてーな」
サラ「そうね。こんな景色見ながらお風呂に入れるなんて楽しみ」
美空「ねぇ!ここ混浴!?混浴!?ビッキーちゃんの湯けむり温泉姿、僕見…ムゴッ!」
異常な思春期反応を見せる美空には、お父さん役のクラウディがきっちりガードする。
「まぁ、混浴があるかどうかはさっきの若女将さんに訊いてみればいいだろ。そろそろ言ってたお菓子を持って来てくれるだろうし」
タッ
タッ
タッ
「あ、足音。来てくれたみたいですよ」
「ゥオオオオ!!ビッキーちゃんとドキドキ入浴タァァァイム!ついでに若女将、僕の背中を流してくれぇえ!!」
扉が開きかけた所でボビーが「自分が聞いてくる」と走り出す。
まるで山奥に現れたイノシシの猛突進。
ジムが思わずその行動を止めようとして…
「若女…」
「お前等さっきからやかましいんじゃァァァアアアアッ!!!!!」
「うっわっ!」
「ヒャッ!」
何かわからないが、突然の威圧感に全員が襲われる。
飛んでいったボビーがその気迫に跳ね返され、立ち上がりかけたジムが思わず腰を抜かす。
そして声が聞こえないはずのエマがビクンッと恐怖で縮こまり、咄嗟に隣にいた雪之原が庇うように両肩を支えた。
「……………。」
途端に静かになる桜の間。
目に映ったのは想像していた人物ではなかった。
戸から現れたのは先程の細身で美しい若女将ではなく、着物姿ではあるが顔やガタイがゴツゴツした、なんともイカついほとんど男のような女性。
いや…本当に女性?
それさえ危うい程、その人物の体は壁のように大きい。
強面の顔にやたら真っ赤な口紅が印象的だ。
「百目鬼さん!?どうされたんですか?」
そこでようやくやってきたのは、若女将の松本さん。
ボビー「こっ…このお岩さんは誰だい!?」
「誰が『お岩さん』や!客やと思って調子乗ってたらシバくで、ホンマ!」
独特の切れ目で鬼のごとくボビーを睨みつけ、若女将は慌ててその女性の背中をさすった。
「皆さん、ビックリさせてしまいすみません。
この方、この『なごみ荘』大女将の百目鬼(ドメキ)さんです」
「「大女将!!?」」
さすがにこれには全員が声を揃える。
「なごみ」の要素0.1%も感じられないこのオバサンが…!
この旅館の大女将!?
似合ってなさすぎる!
凄すぎるだろ、なんだこの重圧感!
『すごみ荘大女将』の間違いだろ!
それぞれが何も言えずに固まっていると、大女将は強面の顔のまま生八橋の入ったカゴをボビーの前に置いた。
「全く…せっかく菓子を持ってきてやったってのに。
ええか!?ここに泊まってもらうからには、この旅館のルールに従ってもらう!ルールは3つ!」
大女将は太い三本指を立てて12人に見せつける。
「ひとつ!温泉内で泳いだりする行為は禁止!
あと若い男も多いみたいやけどな、女風呂の覗きは絶対厳禁!そんなふしだらな奴は即はたき落としてやるわ!!」
美空「えぇ!混浴じゃないの?」
「じゃかしいッ!!」
「怖っ!」
「ふたつ!出された料理は残さず食べきる事!この旅館の料理はここら近辺で採れた魚や野菜など天然の物ばかり!それを粗末にする奴は絶対許さんからな!」
ごくっ…
すごみのある話し方に、何者かが息を飲む音が聞こえた。
「そして最後みっつ!旅館内で必要以上にはしゃぎまわる事は厳禁!
ここはカラオケボックスやないんや!ゆっくり体を休める場所!
ちなみに枕投げなんて以ての外やぞ!見つけ次第、徹底的にシバいたるからな!!
以上三点!絶対守るように!ええな!煤v
「「……えっと…」」
大女将「ええなッ!!!煤v
「「はっ…はいっ…」」
それぞれが返事をした事を確認すると「よろしい」と頷き、大女将は熊のような足音を立ててその場から立ち去った。
ジム「こ…怖かった…」
美空「ッ…ディ?大丈夫!?今意識飛んでたでしょ!?」
ようやく室内は落ち着きを取り戻し、全員が大きく息を吐いた。
「皆さん、ビックリされたでしょう。あれがいつもの大女将なんです」
先程の圧力のあった大女将とは違い、若女将は優しい口調で12人の傍に近づいた。
「俺…日本の女の人って皆おっとりしてるもんだと思ってたから度肝抜かされた気分だわ」
「彼女は特別なんです。旦那様が亡くなって、この『なごみ荘』を守りたいと思う気持ちが人一倍強いのです。だからついついお客様に厳しくしてしまうんですよ」
「そーなんですか」とナイジェルが呟く。
「まぁ、それが今は『名物女将』として取り上げられてるから良い事なんでしょうけどね。
さ。皆さん、温泉に入ろうとしてたんですよね?
残念ながらうちは混浴ではありませんが、絶景を眺めながらお湯に浸かれますよ。どうぞゆっくりされてください」
時間も夕方の5時半。
陽が良い感じに沈み始めて、神秘的な景色を見ながら入れそうだ。
ジム「よし!じゃ、気を取り直してお菓子を食べ終わったら温泉に行くか!」
日晴「オッシャ!風呂入りたいっす!」
ビッキー「七音君、さっきのオバサンも言ってたけど覗いちゃダメだよ!」
美空「チェ〜」
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