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……………
「オラァ!くらえ!」
「やりやがったな!クソが!!」
扉の前に立つと、まるで不良のケンカのような単語が飛び交っている声まで聞こえ…
バンッ!!
扉に何かが激しくぶつかる振動が伝わり、エマがビクッと体を震わせてサラの後ろに隠れる。
「超楽しそう!」
「嫌な予感しかしないんだけど」
ガチャン!!!
乗り気ではないサラを無視し、怖いもの知らずのビッキーが勢いよく扉を開けた。
「アンタ達!自分達ばっかりで楽しい事を…キャァッ!」
咄嗟に身を屈めたビッキー。
自分の真横スレスレを何かがかすめ、壁にぶつかった!?
ドアの向こうからその光景を見て、サラが「やっぱり」と呆れた声を漏らした。
美空「くらえっ!絶対音感シュゥゥゥゥト!!」
雪之原「あははは!そんなへぼいシュートじゃ当たんないよぉ」
リッキー「フグッ!誰ですか、今投げたのは!」
旅行恒例。
男子だけの枕投げ大会だ。
誰が最初に仕掛けたかは不明だが、男達はこの広い部屋に布団を敷いて、まるで中学生のように全力で枕を投げ合っていた。
「皆さん、やめてください!枕投げは厳禁と言われたでしょうが!!」
雨宮が無謀にもひとりでその大会を止めようとするも、周りの声が大きすぎて彼の声は全く届いていない。
肝心のもうひとりの真面目役。ジムはというと…
誰にやられたのか、枕を顔面に乗せたまま既に失神していた。
「きゃぁ!楽しそう!私も混ぜて!」
「ビッキーちゃーん!いいよおいで、僕が君を命がけで守ってあげるから!」
先程驚いて縮こまったにもかかわらず、楽しそうに美空の元へ走っていくビッキー。
その代わりにサラとエマの元へ走ってきたのは眼鏡がズレた雨宮だ。
「ちょっ!サラさん!彼らを止めてください!」
「もういいじゃない、放っておけば」
「そういうわけにはいかないでしょう!ダメだと言われている以上、これはルール違反です!阻止しなければ」
「じゃぁ、雨宮君も参加してひとりずつ倒していけばいいじゃない(笑)」
「この人数で勝ち目があると思ってるんですか!?」
ボビー「ナイジェルくーん!この枕に乗って、今日こそ僕を抱いてくれ!」
ナイジェル「イッテ!なんでテメーはさっきから足腰ばっかり狙って投げてくるんだ!」
日晴「弱点だからっすよ!笑」
ナイジェル「うるせぇ!」
バチンッ!と日晴に枕を投げつけるが、忍者のようなアクロバットな動きであっさりかわされてしまった。
雨宮「やめろと言ってるだろうが!七音、いい加減に…」
美空「くらえ!特注・強度近視眼鏡ビィィィィイイムッ!!」
雨宮「僕の眼鏡を投げるなぁッ!」
リッキー「やりますね!こちらもいきますよ、ユキ君!」
雪之原「はいは〜い」
リッキー「くらえっ!猫とウサギのきゃわたん乱れ投げ!!」
キン!
キン!
キン!
ビッキー「すごーい!クラウディ君、ドラムスティックを投げて猫とウサギを跳ね返した!」
ナイジェル「つか、オメーら枕を投げろよ!!」
「桜の間」という美しいネーミングからかけ離れたこの騒がしさ。
サラは呆れて首をポリポリと掻いた。
「はぁ…馬鹿馬鹿しい。エマちゃん、あんな馬鹿達はほっといて隣の部屋に戻りましょ」
「?…きゃっ!」
その瞬間、彼女の背中にも枕が直撃。
驚いてピクン!と体が飛び上がった。
「あはは!なにその声、可愛い〜!ね、エマちゃんもやろうよ!」
彼女の元へ走ってきたのは、天真爛漫な笑みを浮かべる美空。
どうやらコイツが悪ふざけでエマに枕をぶつけたらしい。
「な…おと…くっ…ちょっ…!」
「いーから!いーから!超楽しいよ!」
悪気もなく彼女の腕をグイグイ引っ張り始める。
ただ単に枕投げの人数を増やしたいだけだろうが、明らかにエマは困っている様子だ。
サラはまた大きなため息を吐き、仕方なくその場を離れる。
「エ〜マ〜ちゃ〜ん〜!!早く〜!」
「ッ…やっちゃ……ダメってっ…サラさんがっ…」
「いいからぁいいからぁ!気にしない…」
ガシャァァァアンッ!!!!!!
エマ「キャァッ!」
突然の大きな音に全員の動きが一時的に止まる。
そして視線が集中。
枕ではない巨大な何かが飛んできて美空に直撃したのだ。
彼は吹っ飛ばされて、その飛ばされたものの下敷きに。
サラ「ふふ。デートのお誘いもあんまりしつこいと嫌われるわよ、七音君(笑)」
美空の上に重くのしかかっているのは
「…………(チーン)」
気絶したバイク組のリーダー。
詳しく言うと、彼女の先輩であり上司。
どうやらこの細身の女性が抱えて投げつけたらしい。
あれだけ騒がしかった室内が一瞬で静まり返るのも無理はなかった。
日晴「こ…怖ぇ…」
クラウディ「………(゜д゜;)」
ドスッ…
ドスッ…
ドスッ…
ボビー「っ…おや…」
何やら足音が聞こえる。
これは全員一度は聞いた事のある。
この普通の足音とは違う、重みのある…
威圧感のある足音。
明らかにその音が廊下からこちらに向かって近づいている。
途端にそれぞれの背筋がスーッと冷たくなった。
ナイジェル「や…やっべ!ババァが来たぞ!」
美空「あぃててて。え?何?」
ビッキー「とりあえず!電気消して隠れなきゃ!」
リッキー「あっ、でもまだジムが!」
ドスン!
ドスン!
ドスン!
まるでゴジラのような足音に、冷静さを失ってあたふたするメンバー達。
「止むを得ない!隠れますよ!」
雨宮の一声で全員が身の危険を感じ、一様に散らばり始めた。
テーブルの下に隠れる者。壁の隙間に入り込む者。
「エマちゃん!こっち来て!」
「ッ…?」
何もわからずに扉の前できょとんとしているエマに気づき、サラが急いで彼女を呼ぶが
耳が聞こえない彼女には「来て」の声が届かない。
しかし先程距離を取りすぎてしまった為、彼女のいる扉側へ行く余裕もなく…
ナイジェル「サラ、バレんぞ!」
「ちょっ!」
「…ッ?」
慌ただしい空気。
皆何を話してるの!?
今何かサラさんがジェスチャーをしてたけどっ…全然わからなかった。
ドスンッ!!
ドスンッ!!
ドスンッ!!
「エマさん!隠れて!」
「…?…ッ!!」
日晴君が向こう側で何かを言っているのが見えた瞬間、突然左側から強い力で手を引かれた。
パチンッ!
その瞬間、視界が真っ暗になって…
グァシャ!!
「アレだけ騒ぐなと言っただろうがァアアアアアアッ!!!煤v
壊しそうな程の強い力で扉が開かれ、夕方の迫力の倍以上の爆音にそれぞれ力みながら耳を塞いだ。
その衝撃で地響きが起こり、カーテンがフワッと舞い上がる。
「…………。」
瞳を右に左に動かす大女将(ゴジラ)。
部屋の中は明かりが消されていて真っ暗、物音もなく静まり返っている。
中には布団に潜って寝たフリをしている者、隠れている者も多そうだ。
堂々と丸出しの状態で大女将の前に現れたのは、気を失ったジムくらい。
「おうおう。お前は度胸がええなぁ」
彼はヒョイと背中から軽くつまみ上げられる。
暗いっ…
ここどこっ…?
気がつくと、暗くて狭い場所にエマはいた。
どうなってるんだろ?
皆はっ…
「んっ!」
咄嗟に後ろから手で口を塞がれる。
えっ…?
だ…誰!?
そういえば、体の後ろに誰かが密着しているような…人の体温のような温かさを感じる。
振り返りたくても振り返れない。
いや、たとえそれが出来たとしても真っ暗で恐らく誰かわからない。
周りの声も聞こえなくて、もう何がなんだか全然わかんなっ…
「…………ッ…/////!」
というか
今更気づいたけど…
サラさんやビッキーさんに抱き締められた感覚と違う?
妙に体が硬いというかっ…手も大きいしっ…
えっ…
まさか…
お…男の人!?////
「ンンウッ!!煤v
慌ててその場を離れようとしたが、今度は物凄い力で後ろから体をガッチリ羽交い締めにされる。
間違いない、男の人だっ!
「んぅっ!」
大女将「あ?アタシの声が聞こえない奴がまだいるのかぁ〜」
「ンッ!んうぅっ!」
片手から両手で口を塞がれ、ジタバタしようとする足や手も大きな体で抑えつけられる。
その男性の息が耳にあたり、なんだか恥ずかしくなる////
小声で何か言ってるみたいだけどっ
なんにも聞こえないよ!!
誰!?
本当に誰なの!?
「フンッ。まぁえぇ。次こういう事があればタダじゃおかんからな」
大女将はジムだけを抱えたまま部屋を出て行った。
どうやら…今回だけは見逃してくれたらしい。
パチンッ…
部屋の明かりがついて、ようやく全員が隠れていた場所から顔を出し始めた。
雪之原やクラウディのように寝たフリをしていた者。
リッキーと雨宮はテーブルの下に隠れて、ビッキーと日晴は壁の隙間に…
サラもナイジェルに押し込まれてふたりで押入に隠れていたようだ。
そしてボビーは何故か天井に張り付いていた。
雪之原「大丈夫〜?みんなぁ」
ナイジェル「あぁ、とりあえずな。サラ、大丈夫か?」
「えぇ…」
大女将(ゴジラ)がいなくなった事を確認し、やっと顔だけではなく全身が出てきた。
ビッキー「怖かったねぇ!ドキドキしちゃった!」
日晴「ビッキーさん、かくれんぼじゃないんすよ…」
リッキー「全くですよ。心臓止まるかと思いました。ね、雨宮く……雨宮君?」
「……ッ…////」
エマは口をだらしなく半開きにしてポーッとしている。
布団を押し退けてやっとの思いで明るい世界に出ると、信じられない人が彼女の瞳に映っていた。
うそ…?///
え…っ…ホントに…
「あーもう!エマちゃんスッゴくジタバタするんだもん!静かにしてってあれほど言ったじゃーん!」
な…おと……くッ…////?
目の前にいたのは、イタズラな笑みを浮かべる美空七音。
あまりの驚きと恥ずかしさに、エマの顔がまるで苺のように真っ赤になる。
「でも、今のリアルに修学旅行の甘々シチュエーションじゃね!?まさか学生のうちに経験出来ると思わなかった!ラッキー!」
あの…後ろから抱き締められて…
口を塞がれて…
耳に息があたるくらい近づかれてっ…////
「ね!?もっかいやる!?ふたりだけの甘酸っぱい修学旅行の青春ごっk…」
ガシッ!
「…え?」
物凄い力で肩を握られる美空。
それに…感じた事のない狂気。
なんとなく振り返ると、そこには黒いオーラをまとった鬼の形相の雨宮が立っていた。
「あり?ミヤ君、どしたの?怖い顔して」
「何をした…?」
「何をしたって決まってるじゃん。ふたりでお布団に潜って密着するとなれば、ウフンアハンな楽しい…」
「…………。」
ガシッ!
「フグッ!!」
雨宮は美空の後頭部を荒く掴んで額を床に押し付けた後、
続けざまに彼の後ろ襟を掴んで無言のまま扉まで引きずり出した。
その瞳は眼鏡の反射で窺えないが、完全にブチギレモード。
「ちょっ…冗談に決まってんじゃん!そこまでやってないし!痛いっ!痛い痛い本気で痛いってば!!」
「…………。」
「マジで痛いって!ちょっと聞いてんの、ミヤ君!!」
ガチャン!
そのまま美空は、彼の手によって強引に部屋の外へ連れ出されてしまった。
「なっ…七音…君とっ…わた…////」
しかし、一方のエマはそれどころではない。
夢にも考えていない出来事に、目の前で繰り広げられた誘拐行為も全く目に入らなかった。
ただただ頭から湯気が出て、ほっぺたに手をあてたまま「心ここにあらず」状態だ。
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