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……………

深夜12時。

枕投げ騒動も終了し、ようやくそれぞれは自らの布団へ潜り込んだ。





〜女性部屋〜

「あぁ〜!楽しかったね!枕投げ大会」

「私とエマちゃんは巻き込まれただけよ」


電気も消えた真っ暗の撫子の間。

暗闇になった直後は視界が真っ暗でわからなかったが、目が慣れてきてようやく気づいたらしい。

右隣に布団を敷いているビッキーが気持ち悪いくらいニヤニヤしながらサラをガン見していた。


「何?怖いんだけど」

「『アレ』やろうよ!」

「『アレ』って?」

「修学旅行の深夜女子寮は恋バナ祭りに決まってるじゃん!」

「修学旅行じゃないわよ」


予想はしてたけど

…絶対どこかで言うと思った。

面倒臭そうに寝返りを打って左側に視線を移すと

何故かエマちゃんまでも私をガン見している。


「…え?貴方も?」

「……ッ…////」


頬が赤く、恥ずかしそうに口元を布団で隠して何か言いたそう。

あぁ…もしかしてさっきの…


「あれ?エマちゃん、顔赤いよ。どうしたの?」

「アンタは知らなくていいの」

「えぇっ!気になるじゃん!教えて教えて!」


自分の体に毛布をくるめ、ビッキーはサラの上に飛び乗ってエマの顔を見た。


「…重い」

「エマちゃん、なんで顔赤いの!?」

「聞こえてないわよ」


…はぁ。全く、貴方は恋愛事には敏感のはずでしょ。

サラは大きなため息をつき、枕元に置いていた自分の携帯電話を握った。








「…えっ?」


変換されながら打ち込んでいる文字を読んでビッキーは声を漏らす。


「なんでそんな事打つの?」

「決まってるでしょ?」


文字を打ち終わりエマに見せると、驚いた顔をしてますます頬が赤くなった。


画面に表示されていた言葉は


『七音と密着出来て良かったわね』



「この子、あの馬鹿が好きなのよ」

「えぇっ!?あの馬鹿って七音君!?」

「隣に聞こえるからもっと静かに喋りなさい」

「あぁっ…ごめん」


突然の告白に戸惑いを隠せず、ここは自然に謝ったビッキー。

何を言っているのかわからず、エマは固まったままだ。


「…うっそ!?マジで?」

「見てればわかるでしょ」

「全然知らなかった!いつから!?」

「そこまでは知らないけど」

「へぇ!!そうなんだぁ!エマちゃん、七音君の事好きだったんだぁ!」


面白そうな恋バナテーマが浮上し、ビッキーのテンションが更に上がる。

重いから人の上で飛び跳ねないで欲しいんだけど。


「サラはいつから知ってたの?」

「気づいてないの、アンタみたいな鈍感な子だけよ。まぁ、ウチはそんな鈍感が多いから、半数以上は気づいてないんじゃない?」

「へぇ!そうなんだぁ!そうなんだぁ!」






ぴょんぴょん飛び跳ねていると思ったら、今度はやたらニヤニヤした顔でビッキーさんがこちらを見ている。

さっきのサラさんの言葉もだし…バレちゃってるのかな…///



「ビッキー…さ…ん……っ///あのっ…」

『恋する乙女の気持ちわかるよーッ★私だっていつもリッキーの事を考えてるもん!』

サラ「アンタ別の彼氏いるじゃん」



どうしよう…やっぱりバレちゃってる。

そう思うと急に恥ずかしくなったのか、エマは小さくなって下を向いた。


「ふふ、恥ずかしがっちゃって」


「な…」


「ん?」


エマが突然何かを言いかけた。

とても小さい声で、ふたりは大人しく耳を傾ける。



「七音君……みたいに…人気者は……
私…みたいな……子…興味ないの……わかってます…」

「え!そんな事ないよ!」

「………。」


ビッキーが何を言っているか想像づいているようだが、それでも彼女は返事を返さない。


「まぁね…。実際七音は女友達も多いし、エマちゃんを仲間に入れたと言っても、彼女の事は周りの女友達の一人としてしか数えてないのかもね」

「そんな事ないよ!七音君だってエマちゃんの気持ちわかって…」

「そんな事あるの。昔から好きじゃない女性にでも平気で抱きついたりするし。
そのくせ、自分に好意を持たれても全然気づかない。
現にエマちゃんに好かれてる事だって、本人は気づいてないんじゃない?」

「うぅん…」


笑って近づいてきたり、抱きついたりするのも

美空にとってそれは、ただのコミュニケーションのひとつ。

元々そういう性格だから仕方ないのかなと、ビッキーも感じた。

言われてみれば、私にも普通に飛びついてくるし「大好き」とか言ってくるし…サラの話、私が否定するのはおかしいか。


「ま。本人に悪気はないんだけどね」

「一級フラグ建築士ってヤツ!?ネットで見た事ある!」

「何よ、それ」


ケラケラと女性ふたりが笑い合っていると…



「でも……私…七音君の事……好き…です」

「「…ッ…」」



か細く途切れそうな声に笑いが止まる。

エマの顔を見ると今度は真っ直ぐに自分達の方を見てきて…


「…それっ……でも…わた…しは……好き…です。
七音君……は…私の全部…を…変えてくれたから…」

「エマちゃん…」







引っ込み思案で友達もおらず、いつも自分に自信がなかった私。

周りの人を極力避けて生きてきたはずなのに…

でも七音君は自然に私の世界に入ってきた。

自分でも知らなかった私の才能を気づかせてくれて

笑い合える「仲間の存在」を与えてくれた。

こんな私に「居場所」をくれた。



そんな人…今までに出会った事がなかったから…

私は傍にいればいるほど、七音君に惹かれてしまう。



必死に恥ずかしさを堪えて「好き」という言葉を絞り出すエマの姿を見て、サラとビッキーも顔を見合わせて笑った。

きっとふたりにも彼女の思いが伝わったのだろう。


『いつか七音君にその想いが届くといいね』

「…ッ…」


ビッキーがその文字を打ち込んだ、自身の携帯を見せてくれた。

それは応援するという意味の言葉。

隣のサラも、同じ感情を抱いた優しい顔だった。


『あれはクソガキだから、エマちゃんには勿体ないくらいだけどね』

「なにそれー(笑)」

「思った事を打ったまでよ」

「そんなんだからサラは七音君に女性扱いされないんだよ〜」


笑う彼女達がエマの目に映る。








―エマちゃんは耳が聞こえないから面倒臭いー。


どうせ聞こえてないんだからいいだろ?


暗いよねぇ。何考えてるかよくわからないし―…






今まで色々な人に障害者扱いされ、仲間の輪から外されて。

最初はどうして自分だけこういう思いをしなきゃいけないんだろうと、自分の耳を憎んでいた。

恨んで、悲しくて。

でも自分の両親も恨めなくて、どこに怒りをぶつけていいのかわからなくて毎晩泣いてた時期もある。

そして長い年月を重ね、最近はそれにさえ疲れて前向きに生きる事を諦めてしまっていた。


周りに自分をわかってくれる人がいないのなら…ずっとひとりでいればいい。

誰にも迷惑をかけないように自分だけの世界を作り、その枠の中だけでひっそり生活をしていれば問題ない。

そう思って、学校でも外でも人との間に壁を作り、出かける時もいつもひとりで

他人とあまり接さない行動パターンを作り上げ、それを淡々と毎日繰り返していた。

そうして、私はいつの間にか独り自分の殻に閉じこもる事に慣れてしまっていた。









「 お姉さぁぁぁん!!!僕とお茶しな…………あ! 」






最初に出会ったのは、私が赤信号で横断歩道の前に立っていた時。

彼が…多分間違って私に声をかけてきた。

あの時、私の顔を見て「しまった」って顔をしてたし。



でもあの瞬間から…

私の世界が一変したんだ。



あんなに人に煙たがられてた私が。

weather lifeの人達から「仲間」として認められ

こんな優しくて綺麗な人達に出会えて…初めて女性の友達が出来た。


嬉しい。


全部全部…七音君が引き寄せてくれた偶然なんだ。


ありがとう。


たとえ貴方と結ばれる事が叶わないとしても…

私はこの世界で一番幸せなんだって思ってるよ。





「エマちゃん、超幸せそうに笑ってるね!うんうん!私も恋する乙女の味方だから!」

「だからアンタ彼氏いるじゃんって」


気がつくとサラが再び自分の携帯に文字を打ち込み始めていた。


「え?何?エマちゃんの恋のエピソードを根掘り葉掘り訊こうって魂胆!?」

「こっちは私の趣味よ」

「趣味?」



打ち込みを終えたサラは、右手を伸ばしてそれをエマに見せた。

それと同時にビッキーもその画面を覗き込む。



「「え?」」


美空の話の続きかと思えば、その内容は先程と全く違うものだった。

ふたりともきょとんとしてサラの顔を見る。



「…あまみ…や…君?」

「え?なんで雨宮君が出てくんの?」




『雨宮君の事はどう思ってる?』




サラの携帯に打ち込まれた文字。

先程まで美空の話で盛り上がっていたはずなのに、何故急に彼が話題に浮上するのか。


「サラ!まさか…!」

「………。」

「そうだよね!雨宮君は天気組のお母さんだもんね!七音君の傍若無人ぶりも知ってるから、それはお母さんとしてはエマちゃんの事が心配になるよね!」



この女狐が馬鹿でよかった。

心底そう思った。


「で?どうなの?」

ビッキーが「じゃぁクララも心配してるよね!お父さんだし!」とひとりで盛り上がっているうちに、サラが枕を持ってエマに詰め寄る。



雨宮君を…どう思ってる?

今まで七音君の事で頭がいっぱいで…彼の事を真剣に考えた事があまりなかった。

考え込み、彼の今までの印象を改めて思い返してみる。



「一番……優しい…人…」

「ッ…」


最初に出てきた、雨宮君の印象。

その言葉を聞いたサラさんが少し驚いた顔をする。

次にビッキーさんも目を見開いて会話の輪の中に戻ってきた。


「え、一番優しい!?雨宮君が!?嘘?いや…私達には確かに礼儀正しいけど、正直優しさとは無縁の人じゃない!?」

「しれっと失礼ね」

「でも、ぶっちゃけサラもそう思うでしょ!いつもチーム員を叱ってる所見るし、仕事に厳しそうだし面白くないくらい真面目だし!」

「だから失礼よ、本人がいないからって。でもまぁ…言わんとする事はわかるけど」


なんとなくエマにもビッキーがどんな事を言っているのか想像がついた。

雨宮君の事…厳しいって言う人多いみたいだけど。

家のベッドを貸して寒いのに自分は椅子で寝てくれたり、私が仕事で困ってたらすぐ助けてくれるし。

何より、人が言う程全然怒らない。(他の人を怒ってる所はよく見るけど)


誤解されやすいけど、優しい人だと思うんだけどな。



「…あ。…でも最近……わたし…避けられ…てるみたい…で…」

サラ『どうして?』

「……目…合わせても…すぐ…逸らされちゃう…。……嫌われ…てるのかな…」

「ホラ!優しくないじゃん!」

「ふぅん…」


私の言葉を聞いたビッキーさんとサラさんの反応が全く違う。

ビッキーさんは怒ってるみたいだけど、サラさんは…何が面白いのかニヤニヤしてる。



サラ『他に、優しい以外に思う事はある?』

「えっ…」



どうしてそんなに雨宮君の事を訊いてくるのかな?

とりあえず頭の中で、彼の他の印象を探してみたけど…


「眼鏡……かけてる」

「そんな事皆わかってるわよ!」


サラさんは私の言葉を聞いて口を抑えて笑った。

あれ?何か変な事言ったかな…?

一通り笑い終えて、彼女は笑った拍子に出てきた涙を指で拭う。


「まぁいいわ。(これ以上絞り出せそうにないし)ありがと、エマちゃん」

「ねぇ。なんでそんな彼について訊くの?」

「アンタにもそのうちわかるわ。さ、そろそろ寝るわよ」


上に乗っていたビッキーの体を右側の敷布団の上に戻して、サラはエマに携帯を向けた。


『お話聞かせてくれてありがとう。おやすみ』

「……おやすみ…なさい」


コクリと頷き、それぞれは目を閉じた。



ビッキー「エマちゃんと七音君はいつくっつくのかなぁー!あー、楽しみで眠れない!」

サラ「眠れないなら意識飛ぶまでボビーの数でも数えてなさい」


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