……………

ニンジン。ジャガイモ。キャベツにトマト。

たくさんの野菜や健康食品の入った保冷箱を抱え、ローラは街路を歩いていた。

やはり何度歩いても、この量を持って歩くのは慣れないなぁ。

タクシーを使おうかと何度も考えたが、それだって安くつくわけじゃない。

少しでも節約の為と、休み休みながら重い荷物を抱えて足を前に進めた。

時間はお昼の2時。

空は雲ひとつない快晴で絶好のお洗濯日和だ。

家の中に入れたらバレルさんのお洋服とか洗濯してあげたいんだけどな。

というかあの人、洗濯とかちゃんとしてるのかな。

2度程家に入ったけど、いっつも衣類は地面に積み上げられてた状態だったし。

心配だな。


そうこう考えている間にバレルの住んでいるアパートに到着。

相変わらず古びているというか、年季が入っているというか…

錆びて底が抜けそうな不安な鉄製の階段を上がり、一番奥がバレルさんが住んでいる部屋。


「ふぅ」と一息ついて荷物を置いた。

表札も植物も置いていない殺風景な扉の前。

まぁ、あのバレルさんが可愛い表札を掲げてチューリップとかいっぱい飾ってたら、それこそ一大事だよね…。


ふと目に、扉の横のインターホンのボタンが入った。


…お洗濯。ちゃんとしてるのかな?

部屋とかまた散らかってるかも。


頭にその考えがよぎるが、さすがに今はバイトの時間かなと予想する。


…でも。

インターホンを押すだけ…タダだよね。

いなかったらいなかったで素直に帰ればいいし、いたとしてもいきなり怒鳴られたりはしないと思う(多分)


指をそっと近づけ、そして一度だけ息を飲んだ。

ちょっと…間違って指が触れちゃっただけ。

そう。わざとじゃなくて…たまたまバランスを崩しかけた拍子に…





ピンポーン!





色んな言い訳を考えながら、勇気を出してインターホンを鳴らしてみる。



「……………。」


やはり反応はない。

バイトの時間かな。

これで自分にも諦めがつく。


「はぁ」と小さくため息をついた事から、少なからず内心落ち込んでいる様子だ。

仕方ない。真っ直ぐ帰ろう。

肩にかけていた小さなバッグを持ち直し、そして扉を離れた。


バレルさんがお休みの日とか訊いておけばよかったかな。

でもまたかえって、面倒臭いと思われて教えてもらえないかもしれないし。







ガチャン…





「っ…?」


階段を下りようとした瞬間、扉が開く音が耳に入る。

え、まさか…



「………。」

振り返ると、先程自分が押したインターホンの部屋から人が出てきていた。

バレルさん!

いたんだ…!よかっ…



ふと、ローラの瞳孔が開く。

バレルさっ…



「バレルさん!どうしたんですか!?」


彼の顔を見た途端、ローラは慌てて来た廊下を戻って扉の前まで走った。

顔に傷を負っている。

それだけじゃない。

手や首筋も。

見えている肌ほぼ全てに痛々しい傷跡や青いアザが見受けられたのだ。

服も破れたり泥だらけ。


「またケンカしたんですか!?」

「…………。」


何も答えないバレル。

必死で質問を繰り返すローラの目には涙が溜まっていた。


「バレルさん、どうして何も答えてくれないんですかっ」

「…………。」


ギロッと睨みつけられ小さな体が縮こまる。

きっと…答えたくないのだろう。

そう察した。

しかし、こんな傷だらけの人をそのまま放って帰るわけにはいかない。


「とりあえず、手当します。部屋に入ってもいいですか?」

「…あぁ」


その質問には素直に答えたバレル。

きっと手当をしてもらいたくて、扉を開けたのだろう。

バッグから救急用品を取り出して、ローラは彼の部屋へ入った。


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