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……………
上着を脱いで上半身が裸になると、衣類に隠れて見えなかった傷がまだいくつもあった。
もう恥ずかしいなんて言ってられない。
「………ッ…」
目に入った脇腹の一番目立つ跡。
これは以前、私の目の前で撃たれた時のものだ。
「早くしろ」
「は、はい…」
過去の記憶が蘇って一瞬背筋が凍りついたが、彼に促されて特にそれには触れずに治療を始める。
この傷は今は問題ない。
とにかく今は、他の部分の手当を。
傷口を洗い消毒を行い、止血の為に一応包帯を巻く。
小さな傷には絆創膏を。
しかしあまりの傷の多さにそれさえ足りない。
今まで何度か彼の傷の手当をしてきたけど、こんなにたくさん怪我をしている姿は初めてだ。
ケンカをしている事は間違いない。
でもあのバレルさんが素手でケンカをして負けている所なんて見た事ないし。
もしかして、物凄く強い相手と戦ったとか…
それにしてもこの傷の多さは明らかに不自然だ。
簡単にガード出来そうな所にまでこんなに傷が。
バレルさん。何かあったのかな…。
内心色んな事を考えながら、無言で傷の治療を行うローラ。
バレルも背を向けたまま何も言わない。
「ッ…」
「しみますか?少し我慢してください」
ピクッと反応を見せた彼だが、すぐに普段の無表情な顔に戻る。
本当は…凄く痛いんだろうな。
「バレルさん…あの…」
「………。」
腕の傷に消毒液を染み込ませたコットンを当てながら、ローラは控えめの口調で話しかける。
「いつもより…その…多く怪我をしていますね」
「…………。」
「私っ…あんまり、バレルさんが痛い思いをするの嫌だから…えっと…。あ、治療が面倒というわけじゃないですよ!
もちろん怪我をすれば出来る限り手当をします。
でも…ケンカをすればする程、こんなに傷だらけになって…」
ウザいと思われる覚悟でポツリと言葉を呟いた。
もう、そう思われる事は慣れている。
きっと、面倒だ。しつこいとか…そう思われているだろう。
「…ごめんなさい。でしゃばった事を言ってしまって」
「…………。」
バレルさんは下を向いたまま動かない。
前髪で顔が隠れてしまって、どんな表情をしているのかもわからない。
「終わりました。一応…応急処置です」
「あぁ…」
彼の返事は暗い。
普段から声は低いけど、今は普段にも増して暗い声になっている。
やっぱり…何かあったのだろうか。
バレルは床に置いていた上着を着て、そのおかげで痛々しい傷跡が少しは隠れた。
「……………。」
何も言わない彼。
今はひとりにしておいて欲しいのかな。
深く訊いても迷惑なだけだ。
ローラはバレルの前からゆっくり立ち上がった。
「では、帰りますね。包帯や絆創膏は定期的に替えてください」
「…わかった」
こうやって素直に返事をしてくれるようになっただけでも十分な進歩だよね。
昔だったらきっと無視されていたし。
今日はとりあえず帰ろう。
あとはきっと…
「オイ」
「…?」
玄関へ向かおうとすると、突然バレルの方から話しかけてきた。
先程の小さく暗い声ではなく、少し大きめの…咄嗟に引き止めるような声。
「なんですか?」
「………」
「バレルさん?」
「…腹が減った。何か作れ」
「…え?」
聞こえた言葉が信じられなくて、何と答えていいのかわからず数秒動けなくなる。
バレルさん…?今…なんて…
「聞こえねーのか?」
「えっ…?あ、はいっ…」
バレルさんが…え?
頭の中を整理しながら、とりあえず玄関に置いてきた食材を取りに戻る。
自分から私にお願い事をしてきた?
あのバレルさんが?
ほ…本当に??
キッチンに食材を置いて、ようやくその事実が理解出来て
「い、いいんですか!?」
今更ながらその質問を彼にぶつけると
「早くしろ」
「はっ…はい!!」
嬉しさのあまり自分でもビックリするような大きな声が出てしまった。
その元気の良さに彼も一瞬目を大きく開く。
本当にっ…
本当にバレルさんが自分から私を頼ってくれた!
嬉しい。
今までこんな事なかったから、信じられない程嬉しかった。
心臓が興奮でバクバク鳴っている。
私は頭が真っ白になりながらも、急いで袋から野菜や缶詰を取り出した。
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