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……………

「サラさん!お待たせしてしまってすみません」


お手洗いに行っていたロビンがようやく戻ってきた。

ベンチに座って休憩していたサラも安心して立ち上がる。


「いえ、いいんですよ」

「それにしても本当に大きなお家ですね。お手洗いの場所に行くまでも迷ってしまいましたよ」

「ふふ。教えようとしたらロビンさん全速力で走って行ったから。そんなに限界だったんですか?笑」

「あ、バレてしまいましたか?笑」




……………

「おい!いたぞ!」


草陰からジムがジョンを含む5人を呼んだ。

目線の先には先程トイレで怪しい電話をしていたロビンが、平然とサラの隣に立っている。


「どうやって引き離す?」

「僕に任せてください…」


それぞれが顔を見合わせる中、名乗り出たのは彼女の兄のジョン。

妹を危険な目に遭わせたくないという気持ちが滲み出ている。


「大丈夫ですか?」

「僕の方が身内ですし、上手く誤魔化せると思います…」


確かに急に第三者の我々が出ていっても不自然で怪しまれる可能性がある。

兄である彼が出て行った方が自然だ。

「気をつけてください」というジムの言葉に深く頷き、彼は草陰を抜け出した。








「そうなんですか」

「それでですね。私ったら…」


「お話中失礼します。よろしいですか?」


見合い中のふたりの中へ自然と入ってきたのは、サラにとっては幼い頃から馴染みの顔。

自分の兄のジョンだ。


「お兄ちゃ…?ちょっと!今忙しいの、あっち行ってて!」


サラは兄の登場に驚き、すぐさま彼を追い出そうとしたが

「構わないですよ。何かあったんですか?」とロビンはサラの腕を握り、あっさりと相談を引き受けてくれた。


「はい。僕…サラの部屋に携帯電話を忘れてしまったみたいで…。部屋の扉は指紋認証でしか開かないので、少しだけ妹をお借りしてもよろしいですか…?」


誰が見ても彼がロビンを疑って近づいているようには見えない。

この緊張感のない顔を見ていると、本当に携帯電話を忘れてしまったとしか思えなくなってくる。

普段と変わらない目をうっすら開いている眠そうな表情。

これも演技なのかと、5人は草陰から意外な顔をして覗いていた。



「…………。」

ジョンの言葉に黙り込むロビン。

「どうかされましたか?」

「…あ、いえ。そういう事であれば。サラさん、行ってきていいですよ」

「……」

「すみませんね。出来てない兄なもので」


ヘラヘラと笑って駄目な兄貴をアピール。

「眠そうなのにやるな」と、ジムがポツリと呟いた。


OKサインが出ると、兄はすぐに妹の手を握って歩き出す。

「ちょっと!何するの!?」

「だから言っただろう?僕、サラの部屋に携帯を忘れちゃったって」

「お兄ちゃん、いつ私の部屋になんて入ったのよ!?そんなの知らな…」

「いいから付いて来い!」


ロビンとの距離がある程度離れた途端、彼は突然怖い顔をして彼女の腕を強く引っ張った。

いつものんびりとした優しい兄のこんなにも怒った顔は初めて見る。

大人しく腕を引っ張られて歩いて行くと、そこには自分のバイク仲間が全員揃っていた。


「アンタ達…まだ帰ってなかったの!?」

「サラァ!」


泣きながら彼女の胸に飛び込んでくるビッキー。

「怪我はないか?」と、駆け寄ってくるジムや他のメンバー。

状況が理解出来ない。


「何?どうしたって言うのよ!?」

「良かったぁ、サラァ!」

「あ、そういえばお兄ちゃん。私の部屋には行かなくていいの?」

「あぁ…あれは嘘だ」


えっ?と目を丸くする。

「は?嘘!?ちょっ何なの!?私は今遊んでられる程暇じゃないの!」


自分がからかわれたのだと思い込み、サラは兄の肩を強く叩く。

本当にこの見合いに必死なのだろう。


「サラ、落ち着いて聞いてください」

「だから何なのよ一体!」

「だから落ち着いてください」

「冗談じゃないわ!邪魔するのもいい加減にし…」

「貴方の命がかかっているんです!」

「……ッ」


怒り興奮していた彼女が、その言葉に突然大人しくなる。


「…待って。リッキー、何の話?」

「サラ。今から話す事は嘘ではありません。よく聞いてください」


普段の優しい雰囲気とは違うリッキーの険しい表情に、サラもいつもと違う空気を感じた。


彼は自分達が聞いた内容を全て話す。

この見合いは全て向こうの策略だという事。

ロビンは用が済んだら、サラを手にかけようと思っている事。

全ては合併された会社を乗っ取る為の彼の芝居。


話を聞いている彼女は、瞬きもせず呆然と立ち尽くしていた。



「わかりましたか?」

「えっ、嘘でしょ?冗談言わないでよ」

嘘だと信じて笑いながら言ったが、リッキーの表情は全く変わらない。


「全て本当です」

「そんな…」


手で頭を抱えたまま、彼女は隣にあった木に寄りかかった。


「あの人…さっきトイレに行きましたよね?その時丁度彼が電話している所を、俺とナイジェルがたまたま聞いたんです。間違いありません、あの男の声でした」

「………。」


彼女は下を向いたまま動かない。

一族を背負うプレッシャーに押し潰されそうになりながら、必死にここまで来た。

その努力が、こんな形で裏切られてしまうなんて…

私は…一体今まで何をしてきたの?

何の為に覚悟を決め仲間を捨て、ここへ来たの?


彼女は木に寄りかかりながら、力なく地面に座り込んでしまった。


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