……………


リッキー「でへへ(笑)褒められちゃいました」

ジム「『でへへ(笑)』じゃねんだよ、なに上機嫌になって帰ってきてるんだ、お前は!」


何の進展もなく、ただ単純に褒められて喜んで帰ってきただけの天然男。

その成果は少しも見られず、話を聞いていた限りではビッキーが諦めた様子も全くなかった。

作戦は間違いなく失敗だ。


「だって無理ですよ!あんなに褒めてくれる子に『俺様ゲイだから君には興味ナイ。グへへへ(笑)』なんて言えません!」

「そんな言い方すりゃ一発でフラれる事間違いなしなのにな!」

「とにかく俺の事をそこまで慕って追いかけてくれる子に、そんな仕打ちをするのは良心が痛みます」

「その追いかけ方に一番の問題があるんだけどな」

「何か別の方法に変更してください」



リッキー本人の希望により、作戦は振り出しに。

5人は仕方なく元いた休憩室に戻り、『第2回ビッキーちゃん    女子計画』を始める事にした。




「まさか俺の『ゲイ』作戦が通用しねーとは…。末恐ろしい娘だな」

「それ以前に意味が通じてなかったからね」

「難しいものですね。どうしたらいいか…」


そこで腕を組んで悩んでいるリッキーの顔に、突然暗い影が落ちる。

気づいたら、テーブルを挟んだ向かい側に座っていたボビーが顔をぬっとかがみ込んで覗いてきていたのだ。


「う、うわッ!…なにその顔、怖いです」

「そんな簡単な事もわからないなんて、君は今まで鼻クソをほじって食べるだけの生活をしていたのかい?」

「鼻クソはほじっても食べません。簡単な事?なんですか?」

「例えば、サラちゃんがナイジェル君と付き合っていたら君はどうする?」

「え」


ボビーの突然の提案。

そこで彼が言いたい事がわかったらしく、ジムがぽん!と自分の手を叩いた。


「あ、なるほどな!お前に他に付き合っている恋人がいればいいんだ!それなら必然的にビッキーも諦めざるを得ない!」

「そうなんですか?」

「そうなんですかってお前…仮にサラがナイジェルとくっついてればお前だって諦めるだろ?」

「諦めませんよ」

「え…だってほら…一応、もう別の決まった相手がいれば…」

「諦めませんよ」

「あ、あのね…」

「諦めませんよ」

「…………。」


ナイジェル「…なにこの子、怖いんだけど。サラ。俺どうしよう」

サラ「ジム。4巻取って」

ボビー「巨人に夢中で全然話を聞いてないね」


どうなってるんだ、コイツの神経は。

とりあえず気を改めて、ジムはリッキーの方を見た。


「つまりだ。(お前のルールは知らないが)世間一般、好きな人にお付き合いをしている人がいれば諦めて次の恋に走るのがセオリーなんだ。
ビッキーだってお前にきちんと恋人がいれば諦める。そうなれば今後、首を絞められたり床に押し潰されたりする心配もなくなるってわけだ」

「そうですか!それならやります」


話がようやく伝わって、拳を握って大きく頷いた彼。

今まで相当身体的被害に遭ってきたからな、コイツも(ボビーの次くらいに)

愛は時として憎しみに変わるって言うし。

まぁビッキーの場合は、好きすぎて単純に暴走してるだけだけど。馬鹿だから。

ジムは空気を変える為に、もう一度咳払いをする。


「それじゃ、仮の恋人役がいるな。サラ、お前リッキーと一回ちゅーでもしてこい」

「えっ///」


これにはさすがのリッキーも頬が赤くなり、サラもやっと漫画本から視線をジムに戻す。



「アンタ、どんどん図々しくなってるわね」

「別にいいだろ、減るものでもないし。お前ら映画の時に一回やってるからいいだろ」

「それは…そうですけど」


思い出して急に恥ずかしくなっているのか、目の前でリッキーが苦笑いしてるけど…

なんとなく顔はニヤついている。

しかし、もちろんこれに全員賛成なわけもなく…


ナイジェル「ふざけんな。ダメに決まってんだろーが、嫁入り前の娘の唇をなんだと思ってる」


この男だ。

多分コイツは食いついてくるとは思ったけど。


ジム「お父さんか!ったく、お前はどーでもいい所には熱意を燃やすんだな」

ナイジェル「うるせぇ。そんなに恋人役が欲しいならオメーがまた女装すりゃいい話だろーが」

リッキー「それは俺が嫌です」

ジム「ナイジェル…お前がサラの事好きなのもわかるけど、一応演技なんだし。ふたりとも了承して…」


「いつ私がやるって言ったの。無理に決まってるでしょ」


そこで漫画本を閉じたサラがだるそうに口を開いた。


「え…?サラ、嫌なのか?」

「別にキスする分には構わないけど、さっきリッキー『男が好き』って言ったじゃない」


「…………。」


全員の脳裏に先程の作戦が思い浮かぶ。

ビッキーに思いは伝わらなかったものの、この男は確かに先程「男が好きだ」と断言していた。



「えっ…でもさ。ビッキーにはその話通じなかったんだし」

「嘘に大切なものって何かわかる、ジム?それはリアリティよ」

「リアッ…」


静かな部屋の中。

何故か背中にゾワッと冷たい感覚が伝わる。

もちろん、むさくるしい男だけに。


「ええ。例えそれが伝わらなかったとしても、一度ついた嘘はもうそれは彼女の中では現実のものになってるの。
ここで私とリッキーがキスしてしまったら『男が好き』という言葉は現実のものじゃなくなる。
ここまで来てしまった以上、男とするのが当然よ」


サラの言葉に固まり、横を見るとリッキーの目が可哀想な程引きつっている。

当たり前だ。

今から女性の前で男とキスをしろと強要されているのだから。

彼女は漫画本を再び開き、ページを捲りながら言葉を続けた。


「相手がボビーだと100%ギャグにしかならないし、肝心の恋人のジムが他の男とキスしてたなんて言語道断。だとすると残りは…」


全員の目線がひとりの男に集中。


ナイジェル「ちょ、待て!は!?まさかそれを俺にやれって言うのか!?」

サラ「仕方ないでしょ。もう貴方しか残ってないんだから」

リッキー「俺だって嫌ですよ!ヒゲがジョリジョリするじゃないですか!」

ジム「そこなのか!?」

ボビー「異議あり!サラちゃん!嫁入り前のヒゲの唇をなんだと思っているんだい!?」

サラ「嫁入り前のヒゲの唇って何?」

ボビー「リッキー君もこんなに嫌がっているじゃないか!仕方ない!ここは僕がやってやる!!」

ジム「目的をシカトするな!ビッキーにリッキーを諦めてもらう作戦会議の結果、なんでオッサンと宇宙人のキスシーンを見せつけるで完結させようとしてんだ!」

サラ「ナイジェル。貴方が選びなさい。ボビーとキスするか、リッキーとキスするか」

ナイジェル「はぁ!?俺に拒否権はねーのか!?ちょ…待て!なんで俺ばっかこんな!」







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