……………


コンコン!


「はぁーい!」

この部屋、2号室には他の部屋にはない装飾品がわんさか存在する。

主に男性アイドルのポスターが貼ってあったり、リッキーのぬいぐるみが何体も飾られていたり。

「ビッキー・スティール」という表札を見ない限り、ここが誰の部屋だかよくわからない。

そんな怪しい部屋の扉をサラが叩くと、この部屋の主がひょっこりと顔を出した。


「あ、サラ!イケメン雑誌持って来てくれた!?」

「あぁ。えっと…さっき間違って燃やしちゃったから、後でまた買ってあげる」

「間違って燃やしちゃったって、何があったの!?」

「詳しい事はいいから。ちょっと話があるから部屋に入っても大丈夫?」

「それはいいけど」

「じゃ、お邪魔しまーす」




ガチャン。




「どうだ?」

「今、部屋に入って行きました!」


サラが部屋に入る姿をこっそりと階段側から確認した男達。

「話に割り込んで来ないで」と言われた以上、男の俺達が中に入るわけにもいかず、このまま彼女の戻りを待つ事となった。



ジム「大丈夫かな、サラ」

リッキー「一応事情はわかってるんですし、上手く誤魔化してくれるんじゃないですか?ボビーとキスしてた事」

ジム「そんな事はどーでもいいんだよ」

ボビー「どうでもいいのかい!?僕の唇を奪って散々弄んだくせに!それを『どーでもいい』で片付けてしまうのかい、君は!?」

ナイジェル「出来る事なら抹消したい過去だよな」

ジム「その話はもういい!(思い出したくないから)
なんかさ、ビッキーにとってはくだらない事じゃん。
9つも年上の男が何を小さな事でウジウジ悩んでんだって。
自分で確認すればいいのに、アイツはまだ若いし嫌われるのが怖いみたいで、なんか女々しい男だなって」


すっかり階段に座り込み下を向いているジムに、3人は声をかけてあげられない。

彼が落ち込む理由もわかるが、そのままいたってビッキーが変わるわけでもない。

今まで通り男が大好きな性格のまま。

今はとりあえず、サラの戻りを待つしかな…


バシッ!

「イテッ!」


突然、ジムの後頭部に痛みが走り頭を抑えた。


「痛いな!何するんだ、ナイジェル!」

「安心しろ。俺だってお前の立場だったら同じ事を考える」

「…ッ」


クールな彼に似合わないアドバイスが返ってきてふと顔を見上げると、面倒臭そうに吐いたタバコの煙が宙を舞っていた。


「俺だって同じ立場だったら、そう易々と自分から『他の男と絡まないで欲しい』なんて言えねぇ。
束縛して面倒だと思われるのも嫌だしな。
それでもどうにも出来ないから、周りにだって協力を求めたくなる。

男なんて大体そんなもんだろ。
いつでも好きな女の前では見栄を張ってたいし、弱い部分を見せたくない。だから余計にどうすればいいかわからなくなる。

お前が小せぇわけじゃない。男って元々そんな生き物なんだよ」

「ナイジェル…」

「安心しろ。俺達周りの人間から見てても、オメーは充分アイツの為に尽くしてる事はわかるから。な?」


同意を求められたリッキーが深く頷く。

ボビーはまた叫びそうだから口を塞いだけど。

「はぁ」とジムは大きく息を吐き、少しでも肩の荷が下りたのかぐったりと膝に頭を埋めた。


「サンキュ。今の言葉聞いてちょっと安心した」

「ったく、相変わらずだな。なんなら部屋の中の話、聞いてみるか?」

「は?」


その言葉に目を見開く。

冗談かと思ったが、ナイジェルの表情はそれでもクールなまま。


「いや。でもさっきサラが」

「『割り込むな』とは言われたけど『聞くな』とは言ってねーだろ」

「そりゃそうだけど」


思わぬ提案に目を逸らす。

自分にとってマイナスな話をしているのではないかと、ふいに不安になったのだろう。

次にグイッと誰かに腕を引かれて、つられるように立ち上がった。


「わ!何するんだ、リッキー!」

「行きましょう!大丈夫ですよ」

「お前まで…ヘラヘラ笑って面白がってるんじゃないだろうな」

「そんな事ないですよ。きっと貴方が心配しているような事にはなってないと思います」

「えっ、ちょ待…」


そのままふたりに強引に腕を引かれ、まずはナイジェルがこっそり扉に耳をあてた。


「聞こえるな。…………。大丈夫だ」

「でもな」

「いいから聞いとけって」


頭を抑えられ強引に扉に耳をあてる。

その直後、不安からか自分の心臓がバクバク鳴っている音が体の中から聞こえてきた。






『つまりね。男の人が好きなのはわかるけど、私達は心配なの。貴方は見た目も可愛いし、少しでも良いように言えば男はすぐにその気になるのよ?』



部屋の中からサラの声が聞こえる。

なんだか俺のせいで説教をされてるなんて、申し訳ない気持ちでいっぱいだな…。


『ビッキーにとっては格好良い男の人と仲良く出来て嬉しいかもしれないけど。ほら。リッキーとか他の男の人とそうなっても…』

『サラ?さっきから何を言ってるの?』

『え?』





話を遮ったのはビッキーの方。

馬鹿みたいなミーハーな装飾品が、窓から入ってきた風で少しだけ揺れた。





『私にはジムがいるじゃん!』


『っ…』




中からの会話が聞こえなくなった。

恐らくサラの思考が停止したためか、咄嗟に返事をするのを忘れたのだろう。


「………。」


そこでナイジェルが聞こえない程度に俺の背中を叩いた。

顔を見ると、タバコを口に咥えたままニヤニヤと笑っている。



『えっと…だって…貴方。リッキーの事好きなんじゃないの?』

『好きだよ。でも、そういうのじゃないもん』

『…え…ぇ。じゃぁどうして彼とか、他の男性にアピールするの?』

『何言ってるの!ハンサムな男の人は目の保養になるからに決まってるじゃん!』



再びサラからの返事の声が聞こえなくなる。

するとキョトンとした彼女に向かって笑うビッキーの声が聞こえてきた。


『はは!でもね、付き合いたいって思ったのはあの人だけだよ!全然格好良くないけど!
なんなんだろう…よくわかんないけど。リッキーや他の男の人とは全然違う。
この人がいないと私はダメなんだって、いつも思うの。

だから私は、ジム以外ありえないって思ってる!歳を取ってもお互いおじいちゃんおばあちゃんになっても、ずっとずっと一緒にいたいって!』


「…………。」



普段はあまり話さない素直な気持ちを聞いて、男の頭の中が真っ白になる。

この感情を言葉で表現するにはどうすればいいのか。

とにかく自分の体の内側に熱い何かが込み上げてきて…

俺は今まで何を小さい事で悩んでいたんだろうって。

少しでも疑ったり、彼女を信じられなくなったさっきまでの自分を殴りたいと思った。



『そ…う』


そこまで丁寧に返されるとも思っておらず、サラも驚いたのかゆっくりな口調で返した。


『でも私、我が儘だしこういう性格だから格好良い男の人を見るとやっぱり舞い上がっちゃうし。このままじゃフラれちゃうかなって最近少し心配で』

『…えっと……それはないと思う』

『本当!?よかった〜。ま!相談するなら性格直せって話しだけどね!』


花のように笑ったビッキーの声。


まぁ…最初からこうなる事は予想はついていたけどね。

サラは眉を下げて笑った後、彼女の頭を優しく撫でた。


『そのままでいいんじゃない?多分ジムも今のままの貴方が一番好きだと思う』

『うそー!そうかな!?例えばどこが!?どこがどこが!』

『それは本人に訊きなさい(笑)』





「…………。」


そっと扉から耳を離す男達。


ナイジェル「よかったな。

お前以外はありえない
≪●≫Д≪●≫!
だってよ」

ジム「そんな気持ち悪くない。もっと可愛い言い方だった」

リッキー「はは。そうですね、自慢の可愛い彼女ですね」

ボビー「何故こんな事ムゴッ!(塞)」



ボビーの口を塞ぎ、男達はサラが部屋から出てくる前に気づかれないように静かに扉から離れた。


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