「……………。」




ガチャン!


「ファァ…///…目が回るぅ…」


管理人が立ち去った後、ローラは体を抱き上げられてそのまま部屋へ入れられた。

どうやらバレルは、このままでは騒ぎがもっと大きくなると考えたようだ。

リビングまで連れてきた所で彼女の体を床へ下ろすものの、その顔の不機嫌度の度数は更に増している。



「んっ…ぐぅ…」


脳内がグラグラする中、彼女は床を這いつくばって進む。


「あれぇ…?クローゼットがなぃ〜…」

「あるわけねーだろ」


言っても聞かずに、壁を伝って這いつくばっている。

どうやら自分の家だと思っているらしい。


「お兄ちゃん、お水ちょうだい////」

「お兄ちゃんじゃねぇ」

「ねぇ、早くぅ」


怖そうな顔をしながらもにキッチンへ向かったバレルは、棚からコップを取り出す。

水道から流れ出る水を汲み取り、彼女の分とついでに自分の分も注いだ。


「ありがとぉ、お兄ちゃんー」

「……。」


彼女が頼りない手付きで水を飲み始める中、バレルはベッドに置いていた自分の携帯を手に取り電話をかけ始める。








『お留守番サービスに接続します』



チッ…出ねぇ。

どこまでも使えねぇ奴だ。

電話先はもちろんローラの兄、ジムの携帯だが、どうやら電話に出ない。

既に眠っているのか、忙しいのか知らんが。

2度目の舌打ち。

バレルは携帯を閉じて、ヤケクソにコップを口元に近づけて飲み始める。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん〜///私ぃ、今日どこに行ってたと思う?」


ローラは呂律の回らない口調で楽しそうに話しかけてくるが、当然だが返事が返ってくるはずもない。


「ヒントはねぇ…居酒屋!」


答えじゃねーか。と、心の中で突っ込んだかは知らないが、バレルは彼女に見向きもしない。


「もう〜、わかんないなら答え言っちゃうよぉ!


正解はねぇ〜、合コン!!」







パリンッ!







音を立ててバレルの握っていたコップにヒビが入った。

彼は眉間にシワを寄せたまま、ようやく彼女の顔を見る。


「ははは!引っかかったぁ///…嘘だよぉ…ヒック!…お兄ちゃんをビックリさせようと思ってぇ」

「ウッゼェ…」


ケラケラ笑うローラに背を向け、ぼそりと呟く。

割れたコップを直接ゴミ箱に捨てて、バレルはローラに近づいた。


「家に帰る気がねーならせめて寝ろ。疲れてんだよ」

「えぇ?家いるじゃーん」


クソ面倒くせぇ。

とにかくうざいから寝るように指示するが、ここまで酔っ払った人間はなかなか言う事をきかない。



「寝ろ」

「やぁーだぁー…クッ…眠くない〜///」

「いーから…うるせぇから寝ろ」

「じゃぁ一緒に寝よぉ」

「ふざけんな」

「ねぇ、しりとりしよう!」

「…………。」


酔っ払いはどこまでも手が付けられず、いきなり思わぬ提案をする。

あのバレルに「しりとりをしよう」なんて言い出すのは、恐らく地球上でこの人以外いないだろう。

案の定、バレルは何本も眉間にシワを寄せて「はぁ?」と言いたげな顔で見下ろしている。


「やらねぇ。いい加減早く寝ろ」

「じゃぁねぇ〜、カマキリのカからスタート!」

「リだろうが」

「カマキリ!はい、カ!」

「また外に放り出されてーのか」

「もう!お兄ちゃん、冷たいー!カカカカカカカ!一回やったらもう寝るからぁ」

「…………。」


酔っ払いというものは、ここまで命知らずだったとは。

これがもし妹ではなく兄の方ならば、確実に血祭りにされているに違いない。



「はい、カ!」

「カバン」

「なにそれぇ!///早く終わらせたいからって、わざと『ん』つけたでしょぉ!ヒック…ダメぇ!はい、カァ!」

「チッ…。カニ」

「二等辺三角形!」

「イヌ」

「糠真布川」

「ワニ」

「日米修好通商条約」

「クラゲ」

「ゲルマニウム」

「ムーミン」

「あ!んが付いた、お兄ちゃんの負けぇ!///罰ゲームとしてスナフキンの物真似ぇ!」


しりとりに勝ってひとりで盛り上がっているベロベロ女。

もちろんバレルも早く寝かせる為にわざと負けてやったのだろう。

でないと、彼の口から「ムーミン」なんて言葉が出てくるはずがない。


「気が済んだだろ。寝ろ」

「もっかい〜///もっかいぃ!」

「一回やったら寝るっつっただろーが」

「次はかくれんぼをするのぉ…ヒック」

「わかった。俺が鬼になってやるから朝まで隠れてろ」

「朝までぇ!?…探す気ないでしょぉ!」

「…………。」



いい加減、相手をするのが面倒になったのか疲れてきたのか。

「適当にひとりで遊んでろ」と言い残し、ローラが起きているにもかかわらず、電気を消してバレルはベッドに入った。


「あぁ!なに勝手に布団に入ってるの///…クッ…ヒック…夜はこれからでしょ〜、起きてよぉ!」

「…………。」


バレルは背中を向けたまま完全に無視している。






が。







「起きて!つまんなぃ!起きて起きて起きてぇ///」


彼の頭を両手で叩き、後ろから手を伸ばして頬をつねって引き伸ばす。

何度も言うが、兄なら完全に「死亡フラグ」だ。



「チッ」



盛大に舌打ちをして、バレルはベッドから起き上がる。

これでは全く眠れない。

しかしここまでベロベロになる程酔っ払い、何よりこんな無防備な状態で独り暮らしの男の家に上がり込んでくるとは。

何が起こっても文句は言えないというのに。


電気をつけた後、伸びてくるローラの手を振り払いながら再び兄に電話をかけるが…



『ただいま、電話に出る事が出来ません』



クッソ使えねぇ。






To:jim-rmp0922@…
件名:なし
----------------------------------
今度会ったら殺す
----------------------------------



ヤケクソにメールを送ってやった。


- 581 -

*PREV  NEXT#


ページ: