48…49…50部。

よし。

書類の仕分け終わり。

あとこれだけクリップ留めをしたら帰ろう。



夜の7時。

weather life事務所の一室。

雨宮に頼まれた来週の会議で使う書類の仕分け作業を終えて、エマは椅子を引いて軽く背伸びをした。

メンバーの5人は別の部屋で音合わせをやると言っていたが、まだやっているのだろうか。

とりあえず終わったら帰宅してもいいとの事だったので、ロッカーを開けて自分のバッグを取り出した。

窓を見ると外はもう暗い。

お腹も空いたし、早く帰ろう。






コンコン





「エマ」


扉を叩いたと同時に入ってきたのは、書類の仕分け作業を依頼した雨宮だ。

その音さえ聞こえなかったものの、扉が開く瞬間も見えたので彼女もさほど驚かなかったようだ。


「仕分け……終わり…ました」

「そうか。ありがとう」


書類がきちんと分かれている事を手に取って確認した後、お礼の打ち込まれた携帯の文章を見せられた。


よかった。

ちゃんと出来てたみたい。



『遅くまですまなかった。もう帰るのか?』

「…はい。皆さんは…まだ…残るん…ですか」

『我々はもう少しかかる。先に帰って構わない』


どうやら美空のレッスンに熱が入っているらしい。

服装も、行った時に着ていたジャケットを脱いでシャツ一枚になってる。

こうなると他の4人はなかなか抜け出す事が出来ないらしい。


大変なんだなぁ…と、ぽーっと考えながらエマはお気に入りの白のバッグを手に持った。


「それじゃ…お言葉に…甘え…て。練習……頑張ってください」

「あぁ」


雨宮が頷いた事を確認し、部屋を出ようとすると…


「あ、エマ」


ガシッ!


「…ッ!!」


突然肩を掴まれ、ドクン!と心臓が飛び跳ねた。


「あっ…す、すまない。驚かせるつもりはなかったのだが…」

「…どうし…たんです…か?」

「…あぁ…えっと…」


彼は軽く咳払いをした後、目を逸らしたままポケットから長財布を取り出した。

それを開き、何やら2枚の紙を取り出す。




【ワンダードリームランド】




「……?」


これは去年、隣町にオープンしたテーマパークのチケットだ。

CMで何度か観た事がある。

『マネージャーの五十嵐さんに貰ったんだ。七音とふたりで行ってこいと言われたのだが、予定が合わなくてな。
君も最近仕事続きで疲れただろう?行きたいと思わないか?』


まさかあの真面目な雨宮の手から遊園地のチケットが出てくるとは思っておらず、エマもぽかんとしている。

当の本人は目も合わせてくれないけど。

エマが何の疑いもなく彼の顔を見上げると、頬が若干赤くなり大してズレていない眼鏡を押し上げた。


「違う。決してそういういかがわしい思惑は全くない。ただ、最近休む時間も少なかったし疲れているだろうと思っただけだ。ずっと室内にこもりっぱなしだろ。外に出れば新しい詩もひらめくかもしれな…」


慌てて口で何かを説明してるみたいだけど、全然聞こえない。

もしかして、一緒に行こうって誘ってくれてるのかな…?

…あ。この恐竜のキャラクター可愛い。

このテーマパークのマスコットキャラクターかな。


「つまり、仕事のストレスが溜まると日常生活やその後の業務にも大きく影響が出る。それを発散する為には、一度現実から離れ、脳内をリセットして…」

「…行きたい」

「え」


雨宮の聞こえない長話より、チケットに載っていた恐竜のキャラクターを夢中で見ていたエマはポツリと呟いた。


「ほんと……あ、すまない」


耳が聞こえない事をようやく思い出し、慌てて携帯に打ち込む。


『一緒に行くか?』


コクリと小さな彼女が頷くと、あのいつも固い表情ばかりの雨宮の頬が少しだけ緩んだように見えた。


『今週の日曜日は予定は?』

「…ないです」

『そうか。君の家の方が近いから、朝の10時、隣町のサンプラザ入口集合で大丈夫か?』

「わかり…ました…」


エマはずっとチケットのキャラクターばかり見ている。

しかしそんな事など全く頭に入らない彼は、舞い上がっている自分を沈めるべく、もう一度咳払いをしていた。



『では、当日楽しみにしている。気をつけて帰ってくれ』

「はい…。さよなら」





ガチャン。




ぺこりと頭を下げ、エマは遠慮気味に部屋を出た。

それを見送って安心したのか、小さく漏れるのは雨宮のため息。

外はもう…こんなに暗かったのか。



……………





「ミヤ君。遅い。休憩時間5分って言ったよね?10分も経ってるよ」

「悪い。色々あって」

「ダメ、言い訳禁止。罰として腹筋100回。今ここでやって」

「…あぁ。わかった…」


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