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強い日差しの照りつける街の中。
コンクリートの上は下からの照り返しで、足元からも熱気が込み上げる。
こんなクソ暑い夏のこの時期、何故こんな場所を歩いているんだろうと内心思いながらジムはタオルで汗を拭った。
「サラ…まだなのか…」
「何をへばってんのよ、情けない。あともう少しだから頑張りなさい」
いつもはナイジェルの次ぐらいに面倒事が嫌いな彼女が、今日は6人の先頭に立って堂々と歩いている。
そう。
今日この暑い中に外へ出かけようと提案したのは、正真正銘この女なのだ。
それは遡る事2週間前の出来事。
*****
「ねーぇ、ジム。再来週の日曜日は暇?」
メインルームでソファーに座りドラマの再放送を観ていると、やってきたサラが俺の隣に突然腰掛けた。
「…どうした?お前」
「質問に答えてよ♪時間…あるの?ないの?」
他のメンバーは自室に入っており、今は俺達以外誰もいないこの部屋。
サラは上目遣いで俺の顔を見上げて、得意の色っぽい声で耳元に囁いてくる。
…怪しい。
怪しさ200%だ。
あのサラが俺に色目を使ってくるなんて、何かよからぬ事を企んでいるに違いない。
すぐに直感した。
「…………。」
「何よ、その冷めきった目は」
「いや…不気味だなと思って」
ようやくいつもの低めのトーンに戻る。
俺に色香作戦が通じないと改めてわかったらしく、その瞬間に甘えたな上目遣いの目線がいきなりナイジェルのような細い目に切り替わった。
女って怖い…
「不気味って…それが女の子に言う台詞なの?こんなに可愛い顔してあげたんだからちょっとくらいときめきなさい」
「お前を女の子だと思ったのは最初だけだ」
「慣れって怖いわね。まぁ、貴方はビッキーちゃん以外の女には興味ないから仕方ないか」
面倒臭そうに足を組み、ふてくされてしまったのかそっぽを向いてしまう。
別にビッキーにしか興味がないわけじゃないけど…いやあるかもだけど…まぁいいか。
「…で?なんなんだ?そんな色気作戦を使ってまで俺に頼みたい事って」
「あ、聞いてくれるの?」
「再来週の日曜日は別に予定もないし」
その言葉を聞いて機嫌が直ったのか、ニンマリと笑う彼女。
更に不気味だ、その顔は。
しかし普段クールなサラが、こんなに楽しそうな顔をしているのは珍しい。
「付いて来て欲しい場所があるの!あ、あと他の連中もね!皆ここに集めてくれない?」
「それはいいけど、付いて来て欲しい場所…?」
「だから何よ、その顔は」
なんとなく…嫌な予感がする。
とりあえずリッキーは…連れて来ても大丈夫なのだろうか。
・
・
・
数分後、ジムの号令で全員がメインルームへと集まってきた。
なんとなく昔から決まっている定位置に座った事を確認すると、今回は珍しくサラが話題を切り出す。
「来てくれてありがとう。で、集まってもらったのは他でもなく。皆、再来週の日曜日は何か予定ある?」
ボビー「日焼けサロン!」
ビッキー「イケメン探しの旅!」
ナイジェル「近所のババァに呼び出しくらってる」
リッキー「ハトにエサをやりに行きます」
「はい、大した用事はないわね!それでね。皆に付いて来て欲しい所があるの!」
やたら上機嫌に話す彼女に違和感を覚え、ナイジェルが口を開く。
「付いて来て欲しい所?珍しいな、お前から誘ってくるなんて」
「ナイジェル、わかってるのか?このサラちゃんがこんな気持ち悪いくらいニヤニヤしながら行きたい場所とか言うんだぞ?大体予想つくだろ」
「予想って…何ですか?」
リッキーの質問にサラはニヤリと笑い、そして…
「肝試しに行くわよ!あっははは!めちゃめちゃ楽しそうでしょ!!」
ジム「ほら、やっぱりな!そんな事だろうと思ったよ!」
予想していた通り、この女性のテンションが上がる瞬間と言ったら「アルコール関連」か「ホラー関連」の行事だ。
それに今の時期は、肝試しにうってつけの暑い夏。
ジムは最初から予想がついていたらしい。
「き、肝試し!?あ!忘れてた、俺その日バイトだ!行けなくて残念です!」
「あら、リッキー。貴方バイトなんてしてたの?どんなバイト?詳しく教えて?」
「…………。」
「リッキー?」
「…ハトにエサをやるバイト」
答えながら体操座りをしてうずくまる後輩の背中を「ドンマイ」とナイジェルが叩いた。
輪の中心にいるサラは、なりふり構わず説明を続ける。
「ふふ!それでね、その辺の大学生がやってるしょうもない肝試しとは訳が違うのよ!今回行くのはコレ!
『廃病院に取り憑く霊を見学!除霊体験ツアー!』」
「………ッ…」
取り出した紙を見て一同が凍りつく。
その広告がいかにも生々しく、本物っぽいのだ。
それに注意事項として「心臓の弱い方はご遠慮ください」や「参加頂く前に承諾書にサインをして頂きます」と書いてある。
ナイジェル「除霊!?オイ、それ本当に大丈夫なのか?マジの霊が出てきそうなんだけど」
サラ「ハリボテの幽霊なんてつまんないでしょ」
リッキー「無理!無理無理!俺、行けません!」
ビッキー「待って、よく見たら5人以上でご参加くださいって書いてある!だから私達を誘ったの!?」
サラ「苦労したんだから!面接にこの間やっと合格してね」
ジム「体験ツアーなのに面接があるのか!?それこそバイトじゃねーか!」
サラ「だから!再来週の日曜日は皆予定を空けておいてね。
逃げたりなんかしたらベランダで一週間宙吊りの公開処刑よ、リッキー♪」
リッキー「か…勘弁してください…」
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