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まぁ…。ウィンディランの事務所でそんなこんながあり、今現在に至る。

確かにこの真夏の暑さ。

心霊体験は背筋の凍る、うってつけのツアーかもしれないけど。

後ろを歩いているリッキーなんか既に死人の顔だ。

お前の方が霊なんじゃないかと思う程顔が真っ青。




「着いたわ。ここよ」

「こっ…ここ…」


事務所を出てから約一時間。

ようやく目的地に到着したようだ。

街のど真ん中でサラが指差したのは、ひとつの廃れた建物。

ほぼ全ての窓ガラスが割れたりヒビが入ったり、外周りは雑草が伸びっぱなし。

周りは証券会社や外資系企業が多く建ち並んでいるから、明らかに浮いている怪しい廃墟だ。

この場所だけ何故か時が止まったように、黒い影を落としてポツンと建っている気がした。




【エキサイ病院】




看板は既に錆びており、コケが生えている。

病院の壁もヒビ割れていて、もちろん電気もついていないし人がいる気配も全くない。

ホラー映画に出てきそうな、暗い空気が立ち込める、まさに「廃病院」と呼べる場所か。



「サ…ラ……俺、帰っちゃダメですか?」

「ダメよ♪大丈夫、若いうちに色んな事を経験しておきなさいって親に言われたでしょ?」

「危ない場所には行っちゃいけませんとも言われました…」


腰が抜けてしまっている彼の腕を、男らしくサラが持ち上げる。


「それで?ツアーって言うからにはツアーガイドがいるんでしょ?それらしい人が見当たらないんだけど」


サラから借りた広告の紙を見ながらビッキーは辺りを見渡すが、それらしき人物はいない。

この辺は少し気味が悪いからか、人通りも少ないようだ。


「そうね。確かこの時間に待ち合わせのはずなんだけど」

「サラちゃん!やっぱり除霊体験のツアーガイドと言うからには、三輪様や稲ピーみたいな感じの人なのかい!?」

「楽しそうね、ボビー。私が面接をした時は代理の試験官だったのよ。だから大元のボスにはまだ会ってなくて」

「え。お前、顔も知らないのか?大丈夫なのか?本当に」

「今まで何百もの霊を除霊してきた超人らしいわ」

「烏帽子を被ったベテラン陰陽師みたいなイメージだな」

「ナイジェルそれ私超わかる!髭を生やして空を飛べる仙人みたいな?」

「いやいや、ちゃいますわ。きっと長身でイケメンな安倍晴明みたいな人に決まってますやん」

「お前、映画じゃないんだから。あんな顔も良くて才能もある陰陽師………え?」


除霊師談義で盛り上がっていると、ふと全員の視線が一点に集まる。

ひとり全然知らない人物が輪の中に入っている事に気づき、「うわっ!」とそれぞれが声を上げて退いた。


「だ、誰だお前!」

「うわ、なんて人を幽霊みたいに…寂しい歓迎ですわなぁ」

「いつからいたの!?」

「んー、三輪様とかその辺からですかねぇ」


見知らぬ人物は、眉を下げてわざとらしくヘラッと笑う。

ぱっと見女性にも見えるが声は男だ。

ストレートの黒髪を腰辺りまで伸ばした、長身の若い男性。

キツネに似たつり上がりの糸目に眼鏡をかけている。

そして印象的なのはその服装だ。

うぐいす色の和服に上着を羽織り、首には勾玉の首飾りを付けている。

その姿はまさしく…



「あ、まさか君が今回のツアーガイドの…?」

「はい。そうです。今回の除霊ツアーのガイドをやらせてもらいます、葛西(カサイ)と申します。まぁ、よろしゅう頼みます」


「葛西」と名乗ったその男は、独特の関西風のイントネーションで話した後に丁寧に頭を下げた。

霊媒師と聞いた割には思っていたより若い人が現れて、全員が意外な目で見ている。


「ん?どないしはりましたん?そない僕の事じっと見て。あ、背後霊でも憑いとりますか?」

「い、いや。思ったより若い霊媒師さんだなと思って…今までたくさんの霊を除霊してきたって聞いたし、そこまでなるとやっぱり格好も本格的だね」

「ん〜…僕、実家が日本の結構名の知れた神社の跡取り息子でしてね。父やお弟子さん達が除霊したり霊と会話する環境にずっとおりまして。
こういう場所が自分のホンマの居場所みたいに思て落ち着くんですわ」

「わぁ!それはもう霊媒師になる為に生まれてきたようなものだね!」

「はは。それじゃ可愛いお嬢さんには、特別に見せてやりましょか?」


ビッキーに褒められて上機嫌になったのか、葛西が和服の裾から取り出したのは、たくさんのお札や数珠。

どれも映画で見た事のある除霊グッズばかりだ。


「わぁ、凄い!これは本物かい!?」

「リッキー、ほら!貴方も見てみなさいよ!」

「い、いえ。俺は遠慮しますっ…」


生々しい除霊の道具に怖じ気づいているリッキーは未だに会話の輪に近づこうとしない。


「ま。とりあえず、これだけ本格的な人がいれば少しは安心だな」


ジムも見せられた綺麗な数珠を眺めながら呟いた。

そして顔を上げ、葛西を見上げる。


「で?俺らはオバケを退治する君のお手伝いでもすればいいのか?」



「ちゃいます」




「は?」




思ってもいない…。

期待とは正反対の回答。

その言葉に口をぽかんと開き、全員の視線が葛西に向けられる。


「え?違うの?じゃぁ、俺達は何をやるの?」

「霊を倒すのはあんさん達の役目です。僕は後ろで見てますから頑張ってください」

「え!?え?え?…私達が!?そんな私達素人だよ!?幽霊も見た事ないし」

「だって僕も見た事ありまへんもん」















「「…………………。







ハァアアアアアッ!!?」」













もちろんこれが当然の反応。

まさかの真実を聞かされ、6人同時の声が響く。



「ちょっ…そない大きな声を出されたらご近所さんに迷惑ですやん…」

「お前、霊見えないのか!?さっきまで散々『僕は神社の息子です』とか『こういう所が僕の居場所』とか自慢気に言ってたじゃん!」

「『見えます』とは一言も言ってないですやん。神社の息子やからって、全員に霊感があるとは限らないやないですか」

「じゃぁ、このお札とか数珠とかは!?」

「あぁ、それはとりあえず実家から持ってきたもんです。何か使えるかなぁと思ったんですわ」

「紛らわしいんだよ!え?じゃぁサラが言ってた霊をたくさん除霊してきた人ってのは!?」

「あぁ、それな…痛っ!」



その瞬間、後ろ髪をグイッと引かれ、葛西は思わず後ろへ倒れそうになった。



「いい加減にせぇ」

「あぁ、やよちゃん!もうーせっかく綺麗に伸ばしてんねんから、優しくあつこうてていつも言うてるやん〜」



葛西の後ろから現れたのは、ひとりの女の子だった。

暗い赤髪をボブカット、制服を身にまとった、普通の女子高生のような風貌。

しかし、葛西はその女の子に向かってペコペコ頭を下げている。

大の男をこんなに手慣づけているこの子は…



「あ、紹介しますわ。この子は衣笠弥生(キヌカサ ヤヨイ)ちゃん。僕の幼なじみです。めっちゃ可愛えですやろ?」

「そーいう話はええねん」


幼なじみ…?

そのキーワードに首を傾げるサラ。


「確かに可愛いけど…。何故そんな子がこんな物騒な場所に来てるの?」

「サラはん…でしたっけ?あんさんが噂で聞いてたのは、多分この子の事ですわ」

「えっ…」


今まで何百体もの霊を倒してきた超人。

いや「超人」と言うには、あまりにも可憐でか細い女の子だ。

あまりにイメージと違ってサラは弥生を見つめる。

確かに…表情を変えない不思議な空気が漂う姿は「ミステリアス」という言葉が似合う少女。



「やよちゃんは生まれた時から霊感が強かったんです。いっつもなんもおらん場所を見てたり、なんもおらん場所でひとりで喋ってたり…世に言う不思議ちゃんって奴ですわ」

「そない可愛い言い方は嫌いやていつも言うてるやん。ウチは友達と喋っとっただけ。宗ちゃんなんかよりよっぽど話のわかる霊やったわ」

「変な子やけど可愛いですやろ?ははは。
あ。ちなみに宗ちゃんってのは僕の事です、下の名前が宗一郎(ソウイチロウ)て言いまして。
皆さんも気軽に宗ちゃん♪と呼んでください」

「「………。」」

「そないなわけで、本物の霊媒師はこっちで僕は…まぁ言うなればアシスタントみたいなもんやな。
頑張って皆で力を合わせて霊を倒していきましょか!」



クイッと眼鏡を指で上げながら葛西は笑った。



「…またキャラの濃いのが現れたな」

「そーだな」


先が思いやられると直感し、

そう呟いてジムは隣のナイジェルと顔を見合わせた。


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