とりあえず、葛西の体は無事のようで大事には至っていない様子。

安心した後にもう一度、倒れた彼の前に立っている霊に視線を向ける。



「ナイジェルッ…どうします?」

「とりあえず俺達だけでやるしかねーだろ。アイツが倒れた拍子に、幸運にもデコにお札がくっ付いたみてーだしな」


彼の言う通り、偶然にも葛西の手から離れたお札は、まるでキョンシーのように霊の額に張り付いていた。

今まで何の役にも立たなかったが、最後に良い仕事をしてくれたみたいだ。

いつまでも怖がっている場合じゃない。



封印してこの場を乗り越えられるチャンスは今しかないのだ。

それぞれがゴクリと息を飲んだ。




「やるぞ、テメーら!!覚悟を決めろ!」

「はいっ…」

「あぁ!」



今ここで俺達がコイツを封印しなければ、この場所から出られない。

葛西が眠ってしまった今。

自分達にしかこれは出来ないのだ。

覚悟を決め、ナイジェルはボビーを見る。



「ボビー!壷を出せ!」

「アイアイサー!」


指示を受け、四次元パンツに収納していた小さな壷を取り出した。



「よし、あとはなんか言うんだったよな。





…………………。





リッキー!言え!」



「え!?何ですか!?今の間!絶対、呪文忘れましたよね!?」


咄嗟にリッキーが彼の肩を掴むと、あからさまに目を逸らされる。


「んなわけねーだろ。テメェにも出番を作ってやろーかと…」

「なんで目を逸らしながら言うんですか!?せっかく『覚悟を決めろ!』とか格好良かったのに!」

「だから忘れてねーってつってんだろ!えっと……その…アレだ…。ラミパス、ラミパス、ルルルルル…的な…」

「結局忘れてるじゃないですか!ラミパスって、一体何の変身から解き放たれたいんですか!」

「うるせー!じゃ、テメェは覚えてんのか!?」

「確かお札の偉人ですよ!えっと…ヒデヨ、ヒデヨヨ、ヒデヨヨヨ…」

「そんな弱々しいパスワードじゃなかっただろ」

「パスワードじゃなくて呪文です!貴方よりは近いはずですよ!ソーセキソーセキソーセージ!」

ボビー「ソーセージなんてなかっただろう!ここはアレだ!ザビエル、ザビエル、ルルルルル…」

ナイジェル「おお。ザビエルにしか戻れないコンパクトだな」

リッキー「大喜利やってる場合じゃないんですよ!
なんですか!?肝心の封印の呪文を誰も覚えてないなんて、どんだけやる気なかったんですか、俺達!」




3人で何やらガチャガチャやっていると、さすがの霊も痺れを切らしたのか、

ゆっくりとした足取りでこちらへ歩き始めた。


リッキー「ワワッ!!なんかこっちに来ますよ!誰か早く封印の呪文を!」

ナイジェル「テメェも覚えてねぇのに偉そーな事言ってんじゃねぇ!」

ボビー「いっその事、この壷自体をアイツの頭部へ投げつけるかい?何かが変わる気がする」

ナイジェル「お前の発想、マジファントムだな!壷割ったらそれこそお終いだろ!」




〜許さない…




許さない…




許さない……〜…





ヤバい…


この女が近づけば近づく程、幻聴が聞こえてくる。

女の足は何故か濡れていて、歩く度にぴちゃぴちゃと水の音も。



「マジかよ…マジでどーするっ…」

「もういっその事、あの長髪君を生贄として霊に捧げよう!」

「こんなの捧げられても、多分向こうも迷惑ですよ!」

「しれっと失礼だな、オメェ」

「じゃぁどうすると言うのだい!?」





〜許さない…許さない…許さない…




…〜……私の…苦しみを…




貴様らも…〜……






「ちょっ!待て、落ち着け!苦しいのはわかったから!!」

「か、勘弁してください!俺が悪かったです!ごめんなさい!!」

「ナイジェル君!!た…助けギャアアアアア!!」




















「迷える悪しき魂よ…




怒りを鎮め




眠りにつけ」

















「「…え!?」」






聞き慣れない声…?


男3人が振り返った瞬間…











「ハァァッ!!!」












真っ暗だった部屋に突然光が満ちる。


「何!?」

「え!!?」


霊は眩しい光と繰り返される呪文に、苦しそうに耳を塞ぎ顔を伏せ始めた。












〜…やめろ……




…やめろぉおお!!












光はあちこちに交差した後、幽霊の体を取り巻き、

呻き声と共に完全に光で姿が見えなくなり…










「封印…」












霊を閉じ込めた光はその後一直線に伸び、ある場所へ勢いよく吸い込まれた。


弥生の持っていた壷の中だ。












「「…………。」」













光が全て壷の中へ吸い込まれると、再び真っ暗で不気味な部屋に戻る。

ミイラが並んでいた台も消え、視界はいつの間にか喫煙所の姿へ戻っていた。


「ハァ…」


わずか数秒の出来事に脳が付いていかない。

でもひとつだけは全員理解が出来た。


それはこの最大のピンチから「助かった」という事。

その瞬間、3人が同時に腰を抜かして放心状態のまま床に尻餅をついた。



「大丈夫か?兄ちゃん達」

「は…はい…」



まるで何事もなかったかのように、かがんで話しかけてきた弥生。

どうやら葛西の電話を受け、危機一髪の所でこちらへ駆けつけてくれたようだ。










「(私の)リッキィイイ!!!!大丈夫!?怖かったでしょ!?ほら私の胸に飛び込んでいいんだよぉ!」

「…フグッ!(苦)」

「ビッキーちゅあああああ!怖かったよぉおお!君の胸に飛び込んで…フグッ!(殴)」


次に部屋へ飛び込んできたのは、この部屋に似つかわしくない明るいビッキー。

彼女が愛しのリッキーに直行し、続いて部屋に入ってきたサラが情けなく座り込んでいるナイジェルを見下ろした。


「全く…。男なのに度胸がないのね」

「いくら男でも無理なもんは無理だろ。だってアイツ全然役に立たないんだぜ」


ナイジェルが床に倒れている葛西を指差す。


ビッキー「わ!葛西君!大丈夫!?」

弥生「心配いらへん。いつもの事や。後でなんもなかったようにひょっこり起きます」

ナイジェル「霊に刺されて気絶するのがいつもの事なのか…。コイツマジで何なんだ?訳がわからない」


「あれ…そういえばジムはどうしたんですか?」



ようやく立ち上がったリッキーが冷静になって見てみると、

弥生、ビッキー、サラ。

女性の姿しか見当たらず、一緒に行ったはずのジムがいない事に気が付いた。

その言葉を聞いて、弥生は動揺する様子もなく同じように立ち上がる。



「あぁ…あの兄ちゃんならおるで。ちょっと待っててくれはります?」



弥生は言葉を残して部屋を一旦出た後…

すぐに彼を抱えて戻ってきた。




「…あれ?」


何やら抱えられてきたジムの様子が普段と違う?









『うわわああ!やめろ来るなあ〜ん!いい男!!こういう人を50年間待ち続けて…待たれても困あ







何やら意味不明な発言を、大きな声でひとり叫んでいる。

しかも体をロープでぐるぐる巻きにされてしまい、大の大人の男がなんとも情けない姿になっているのだ。



ボビー「ジム君!霊が怖すぎて、ついに頭がイッてしまったのかい!?」

弥生「さっき出会したナースの霊がこの兄ちゃんをえらく気に入ってしもてな。目ぇ離した隙に取り憑いてしもたんや」

リッキー「本当ですか!弥生さん、ジムの体から霊を離れさせられないんですか!?」

弥生「出来ますけどもうすっかり日が暮れてしもたさかい、やるなら明日やな。夜になると霊の力が強なってしまい除霊が面倒や」

サラ「よかったじゃない、ジム。憧れのナースさんと一晩だけだけど一心同体よ」

ジム「ふざけなはぁ〜ん!!そんな言い方されちゃ困るぅ〜

ビッキー「キモ」











「…………。」

「…ご愁傷様です」


哀れむ顔でリッキーは立ち尽くし、ナイジェルは静かに手を合わせた。


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