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ズド―――ンッ!!!


携帯電話を操作している途中、突然、屋敷中に大きな音が響き渡った。

これは銃声!?


「…何!?」

全員が何事かと周りを見回している中、ひとりの警備員が慌ててこちらへ走って来た。

ジョンがすぐに彼に駆け寄る。


「どうしたんです!?」

「男を見つけたのですが、捕まえようと追いかけた警備員が一名撃たれました!」

「何だって!?」


人が撃たれた…!?

今まで映画の世界にいた感覚で奴を追い回していた輩も数人いる中、その事実が急に現実味を帯びて8人に襲いかかってくる。

全員が間違いなく恐怖を感じた瞬間だった。


「と…とにかくその警備員の元へ行きましょう!」


ジョンを先頭に全員は撃たれたという警備員の元へ向かった。









「痛っ…すいません。油断しました」

彼は廊下の床にぺたりと座り込んで足を抑えていた。

しゃがんで確認するが、血は出ているものの見た所かすった程度の軽傷のようだ。

他に怪我をしている様子もない。

とりあえず傷口を見て胸を撫で下ろしたジョン。


「良かった。これなら家で手当てが出来ます」

「すみません…」

「謝らないでください。危険に巻き込んだのは僕達なんですから………っ?」



その瞬間、彼は自分の着ている服に違和感を覚える。

後ろから誰かに首後の衿を掴まれていた。








「オイ。立て、テメェ」






低い男性の声。

次の瞬間、強引に上に引っ張られて立ち上がる。

服を掴んでいたのは、タバコを噛んでいつも以上に鋭い目をしている男。

ナイジェルだ。


「どっ…どうしたんですか?」

「その男が拳銃を持ってるなんて聞いてねーぞ」

「それはさっきわかってっ…!」


ブンッと乱暴に手を放し、ジョンがバランスを崩してこちらを向いた途端、次は胸ぐらに掴みかかった。


「ナイジェル!!」

「やめろ!」

止めようとするジムとビッキーだが、今の彼は聞く耳を持たない。


「お前…拳銃を持ってる野郎に妹が狙われてるかもしれねんだぞ?よくそんな冷静でいられるよな?」

「それは…僕だって心配で…」

「それに最初っから思ってたんだけど…なんかおかしくねーか?お前ら」

「何がですか…?」


ジョンと、そして自分の後ろに立っていたサラの父親にも目を向ける。

胸ぐらを掴まれたままの兄は、ナイジェルの腕を掴み訊き返していた。


「今、ロビンとかいう奴らの狙いは、トップになったサラを始末して自分達が合併した会社の主導権を握る事だ」

「それが…どうしたんですか?」


ナイジェルは強い視線で彼を睨み付ける。


「普通に考えたら…長男であるお前が会社を継ぐもんだろ?」


「…ッ…それ…は…」



再び父親にも目を向け、畳み掛けるよう彼の視線は一層強くなった。


「どうして女のアイツが無理して会社を継がなきゃならねんだよ?」

「…………。」

「どうしてお前じゃねんだ?お前が継げば、サラだってこんな目には遭わなくて済んだはずなのに」


言葉も出ないジョン。

ただ黙って目を逸らしている。



「何でだって訊いてんだろーがッ!!!!」


ついにキレたナイジェルが、辺りに響き渡る程怒鳴り散らした。

息が荒く、いつにも増して荒い口調。

普段から興奮すると態度を表に出しやすい性格だが、こんなに激怒している彼は仲間でも見た事がなかった。



マズい、こんな空気の中でロビンを追い詰めるなんて出来るはずがないっ…

なんとか彼の怒りを静めさせないと!


事態を重く見たリッキーは急いでナイジェルの元へ駆け寄った。


「ナイジェル、落ち着いてください!話はそのロビンとやらを捕まえてからです」

「うっせぇ!今はコイツと話してんだ、引っ込んでろ!」

「今はサラの命の方が大事なんです!!」

「……ッ…」


その言葉を聞いて我に返ったのか、ようやく彼は目線だけだがこちらに向けてくれた。


「誰よりも彼女を助けたいですよね。貴方は皆と同じじゃないんですから」

「チッ」


血管が浮き出る程強く掴んでいた腕の力が緩くなってくる。

リッキーは一旦ホッとした様子で周りを見た。


「まずは奴を取り押さえる事が重要です。
先程ジョンさんからロビンの特徴を聞きました。皆さんにも情報を共有します。
年齢は20代、身長180センチくらいの痩せ型で…」


彼の言っていた内容を思い出しながら、言葉を繋げていく。


「それからえっと…」


あれ?

この先は何だったかな…?

「う…」と考え込むリッキー。

肝心な場面で重要な事を忘れてしまうのが何とも彼らしいが…

「肩くらいの金髪、紺のスーツ、お嬢様と同じように胸にブローチを付けてるのよ!」

助け舟を出してくれたのは、一緒にその話を聞いてくれていた家政婦のおばさんだった。

「…すみません」

「全くー!リッキーちゃんは忘れっぽいのね!」


バチンッ!と背中を強い力で叩かれて苦笑いする。

冗談でも…おばさんパワーは痛い。





「悪かったな」

ナイジェルはようやくジョンの胸ぐらを完全に離した。

彼の服はシワでぐしゃぐしゃになっており、それが相当強い力で引っ張られていた証だ。



「…………。」


ジョンは未だ何も言い返せずに黙り込んでいる。


「すいません、ジョンさん」

「いや…違うんです」


リーダーとして謝ったジムに、ジョンはそう返した。

今の彼の無言はナイジェルの行動に怒った訳ではなく、彼の質問に答えられない何かを考えていたという事。


今ぶつけられた疑問。

恐らく、いつか誰かが気づく時が来るかとは思っていたが。


「時期が来たら…妹がきっと教えてくれると思います」

彼は静かにこう口にした。








「よし!」


空気が重い。

そう思ったジムが気分を変えるように、わざと明るい声を出した。

「とにかく今は色々考えても仕方ない!皆、ロビンの特徴は覚えたか?」

それぞれからコクリと頷く返事が返ってくる。


「じゃ、一旦捜索再開だ!相手は拳銃を持っているみたいだからビッキーには俺が付く!家政婦さんには…サラのお父さん、良いですか?」


サラの父親はしっかりと頷き、そして助けてくれる仲間達に改めて頭を下げた。

「ありがとう、皆。娘をこんなにも必死に守ってくれて」

「当然です!俺達なんと言っても仲間なんですから」


ジムは力強くそう言った。

「サラとはケンカもするけど、このチームではたったひとりしかいない女同士のライバルなんだから!いなくなったら寂しいもん!」

ビッキーだって強く頷く。

「妹は本当に良い仲間に巡り会えたと思います。今は会社なんかより家族を一番に救いたい」

ジョンの言葉。

「サラは俺達が全力で守ります」

「大丈夫よ!薔薇の飾りなんてちらつかせる優男に私達が負けるはずなんてないわ!」

リッキーも家政婦も父親の目を見て、安心させるように笑いかける。


「ありがとうっ…。私は…本当に何も見えていなかった大馬鹿者だったんだな。感謝している」

娘の信頼出来る仲間達に囲まれ、涙が零れそうになっている彼。

長年世話をして、初めて見る旦那様のこんなにも儚い姿。

家政婦は思わず彼の背中をさすった。




「さぁ、喜ぶのは全てが終わった後です!分かれてロビンを探しましょう!くれぐれも皆さん気をつけてください!」

ジムが改めて声を上げて、彼らは再び広い建物内に散らばり始めた。


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